さて、今年のラ・フォル・ジュルネは、パソナ本社に長居し続ける私でした。
次のステージは…パソナミュージックメイト社員さんたちのステージでした。この“パソコンミュージックメイト社員”と言うのは、フリーのミュージシャンさん対象の派遣業務ですね。パソナという会社は、人材派遣会社なわけです。ですから、パソナに登録された様々な特技や資格を持った人を、それを必要とする会社に紹介派遣するわけです。その特技とか資格の中に『音楽家』というジャンルがあって、そのジャンルで登録すると、音楽活動との両立が可能な仕事を優先的に紹介してもらえるという、若い職業音楽家の卵たちには、とてもうれしいシステムのようです。
だって、売れないミュージシャンさんたちが生活のためにアルバイトをする…のは、今や常識なわけですが、自分でバイト探しをするのも大変だし気苦労も多いので、そこは派遣会社に登録してサクっと済ませてしまいましょうって事だし、パソナ側にしても、自由になる時間が多いミュージシャンという人種は、ある意味、派遣業界向けの人材なんでしょうね。win-winな関係になれるわけです。
というわけで、そんなミュージックメイト社員さんたちのステージを見ました。まるで、ゴングショーのようでしたよ。
ミュージックメイト①(フルート:谷川柚衣)
一番手の谷川さんは自己紹介で自らを「新入社員」と紹介していました。…とすると、彼女は派遣社員ではなく、パソナ勤務の方…なのかもしれません。演奏したのは現代曲でした。
クラーク:オレンジタウン
もちろん、始めて聞く曲でしたが、いかにも現代曲って感じの、今風の演奏技巧をたくさん盛り込んだ難しい系の曲でした。使用していたフルートは銀色のC管でした。使っている楽器は我々アマチュアと同じですが、それをハンデに感じさせない程に、実に技巧的な演奏でした。フルートの音色はキラキラ系で、いかにもフルートっぽい音でした。フルーティストさんとしては、すでに完成されているようでしたが、それだけではプロとして食えないからミュージックメイトさんなんだろうなあ。いやはや、プロの世界は厳しいです。
ミュージックメイト②(ピアノ:道嶋彩夏)
最初に、このミュージックメイトさんたちが入れ替わり立ち代わりする、この時間のステージを“ゴングショー”と書きましたが、それは本当に色々なミュージシャンが登場するからです。
ベートーヴェン:ピアノソナタ14番「月光」 第3楽章
この演奏は、すごく一生懸命な演奏でした。聞いていて手に汗握る思いでした。演奏者の熱意は痛いほどにビンビンと感じられました。ミュージックメイトというシステムは、プロミュージシャン志望の若い人を応援するシステムであると同時に、音大を卒業して就職が難しかった人たちのためのシステムでもあると知りました。
この方が職業音楽家としてやっていくのは…かなり厳しいでしょうね。何しろ、素人の私の耳ですら、和音のミスや音の省略はもちろん、数度の弾き直しが分かりましたもの。そんな私が分かるような、あからさまなミスを客前で連発しちゃダメでしょう。以前の私なら「信じられな~い!」と絶句したかもしれませんが、私も老人となり、ピアノの不得意な音大卒業生(&職業音楽家志望)さんたちを何人も見てきましたから、この程度では全然ビックリしませんが…この人の将来は、相当厳しいでしょうね。でも、熱意は買えます。頑張れ。
ミュージックメイト③(フルート:武田早耶花)
今度の方も、自分を「新入社員です」と紹介してました。会社に勤めながら、音楽を続けられるって、いいですよね。
シャミナーデ:コンチェルティーノ
この曲も現代曲でした。この方、呼吸音がかなり目立つタイプのフルーティストさんで、最初は呼吸音ばかりが気になって、正直「うわーっ」と思って聞いてました。でも、演奏自体はかなり上手な方で、やがてその呼吸音にも慣れて(笑)、徐々にその演奏に魅了されてしまいました。音色もキラキラ系の方で美しかったです。それに何と言っても、よく指が回る人でした。
これだけフルートが吹けても、ミュージックメイトさんなんですね。フルートの業界って厳しそうですなあ。
ミュージックメイト④(ピアノ:藤田菜緒)
ブラームス:ピアノソナタ第2番 第1楽章
この人がピアノをガーンと一発弾いた途端に、私、目が覚めました。「目が覚めた」と書いたからと言って、寝てたわけじゃないですよ。目が開いたと言うか、世界が変わったという感じです。
よく、ピアノって、同じ楽器でも演奏者によって音が違うって言うじゃないですか。まさにそれを実感したわけです。この人が出てくるまで、何人ものピアニストさんたちが、このパソナ本社の玄関ホールに置いてあるピアノを弾いていて、それを私も聞いていたわけですが、今回のピアニストさんは、今までの人とは全く違った音色でピアノを弾き始めたので、私の目が覚めたんです。
たぶん、この人、すごい人なのかもしれない。私、ピアノの事はよく分からないけれど、ピアノをガツン!と一発弾いただけで、客の心を捕まえる事ができるのは、なかなかのピアニストさんだと思ったわけです。
とにかく、ピアノの音に芯がありました。あと、本当にキラキラとした音で、良い意味でメタリックな音でした。とにかく『ピアノを弾いてます』って感じの演奏でした。今回はブラームスを演奏してましたが、この人、たぶん、リストを弾くと、とても似合うんじゃないかなって思いました。良い演奏を聴かせていただいて、感謝感謝でした。
ミュージックメイト⑤(ソプラノ:嶋田優理子)
今回のミュージックメイトさん唯一の歌手さんでした。
ドリーブ:カティスの娘たち
プッチーニ:私が街を歩くと~歌劇「ラ・ボエーム」より
ノドがかなり強いタイプのソプラノさんでした。緊張していたのかな? 美人タイプの方ですが、職業音楽家の中でも声楽家って容姿がとても大切なんですよ。いくら上手に歌えても、容姿にハンデがあると、今の時代、それだけで仕事がやってきませんからね。そういう意味では、この方は合格です。声も前に出てくる方ですから、オペラを歌うと面白いでしょうね。OLさんにしとくのは、もったいないですね。チャンスを捕まえて、早くデビューできるといいですね。
ミュージックメイト⑥(ピアノ:大橋理香)
この方も自分を“新入社員”だと言ってました。うむ、パソナも懐が深い会社ですな。この人、このコーナーで主役としての登場は、六番手でしたが、実は伴奏者として、最初のフルートの谷川さん、この直前のソプラノの嶋田さんの時にも登場していました。このミュージックエイトのコーナーでは、大活躍をしてきたわけですし、彼女たちの伴奏もしつつ、自分のステージもこなすというのは、腕前はなかなかなわけです。実際、実に安定した演奏でした。
ショパン:ピアノソナタ第2番 第4楽章
実に危なげのない演奏でした。私は、4番手に出てきた藤田さんのようなピアニストさんが好みですが、今回の「大橋さんのようなピアニストさんが好き」という方も当然いらっしゃるだろうと思います。とにかく聞いていて「ああ、上手だな」と感じさせるタイプのピアニストさんでした。まあもっとも、私も伴奏を頼むなら、藤田さんではなく大橋さんだなって思います(笑)。
音大を出たと言っても、演奏家としての腕前とか魅力とかは、ほんと、人それぞれなんだなって、今回のミュージックメイトさんたちの演奏を聞いて思いました。
11時半にやってきて、ここまでで15時です。その間、お昼休みに30分の休憩が入っただけで、後はずっと音楽の切れ目なく演奏が続きました。出演者こそ多かったけれど、一つの長い長いコンサートを聞いていたような気がします。
パソナ本社での演奏は、まだまだ続きましたが、私たちはミュージックメイトさんたちの演奏を最後に、会場を後にして、次の会場…ようやく東京国際フォーラムに向かいました。同じ事を考えている人は多かったらしく、ミュージックメイトさんたちのコンサートまでは、ほぼ満員だった会場から一挙に人がはけてしまい、次の出演者の時は、お客さんが少なくなってしまって、なんか申し訳ないような気がしました。
ま、これも仕方ないですね。
さて、この続きは、また明日アップします。
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コメント
こんばんは。
> まるで、ゴングショーのようでしたよ。
LFJは残念ながら行ったことがありません。アルゲリッチの出番が飛び入りでもわかれば最初で最後のつもりでマジに行きます。
フルートの演奏とか表現に興味を持ち始めたキッカケがコンクールだったので、ゴングショーのように入れ替わり立ち代りのリサイタルのほうが好きだったりします。ピアノでも同じ楽器からここまで違う音色とか響きがでてくる、というのは聴いていて楽しいです。
逆に以前、数時間の某ピアノリサイタル(2時間前後ではなくて)を聴いたのですが、かみさんもこちらも途中で意識を失ってしまいました。同一人物のリサイタルは2時間でたくさん、と認識したところです。
ここに出てくるお名前でググると経歴はハンパない方もいらっしゃいます。直接聴いたことはないですが、才能とか個性のある方が伸びるといいですね。
失礼しました。
tetsuさん
>アルゲリッチの出番が飛び入りでもわかれば最初で最後のつもりでマジに行きます。
アルゲリッチは、ピアニストのお母さんの方の演奏は生で聞いたことありませんが、娘さんのビオラの方の演奏は、ラ・フォル・ジュルネで生演奏を聞いたことがあります(笑)。それも当日、演奏会をいきなりぶっ込んできたわけで、一種のサプライズ・コンサートでしたよ。
私は後から知ったのですが、ぶっ込みで、ウィーン少年合唱団が歌った年もあります。今年は、どなたをぶっ込んできたんだろー?
>お名前でググると経歴はハンパない方もいらっしゃいます
そうなんですよ、だから「所詮、無料コンサートでしょ…」とか「安いチケットじゃロクな演奏なんて聴けないっしょ」とか思っちゃいけなんです。ラ・フォル・ジュルネは、お祭ですから、思わぬ所で思わぬ音楽が聞けるし、知らなかった素晴らしい演奏者を知る事ができるんです。そういうハプニング的なところが、楽しかったりするんですよ。