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メトのライブビューイングで『マクベス』を見てきました

 『マクベス』はヴェルディのオペラ作品の中では、比較的地味と言うか、パッとしない作品です。どうしても、ヴェルディのオペラ作品と言えば、名前が上がるのが『椿姫』だったり『オテロ』だったり『リゴレット』だったり『アイーダ』だったりするわけです。その次のランクでも『ドン・カルロ』だったり『イル・トロヴァトーレ』だったり『仮面舞踏会』だったり『運命の力』だったりします。その次のランクの『シモン・ポッカネグラ』や『シチリア島の夕べの祈り』や『ルイザ・ミラー』や『ナブッコ』に混じって、ようやく『マクベス』という作品名が上がってくるかな? 有名なオペラ作曲家のヴェルディの作品であっても、かなり地味で、上演頻度の低い作品なのが、今回見た『マクベス』なんだと思います。

 実際『マクベス』はヴェルディ渾身の作であり、作者が溺愛する作品でありながら、初演後に忘れられ、再演のチャンスがあった時に改作されたにも関わらず、その後もなかなか上演の機会に恵まれなかったオペラなんです。

 原作はシェークスピアなのにね。台本作家は、ヴェルディと何度も組んでヒットをバンバン飛ばしたピアーヴェなのにね。もちろん、音楽はヴェルディ本人が気にいるほど、きちんと魅力的に出来上がっているのにね。

 私もこの『マクベス』というオペラを知ったのは、そんなに昔ではありません。聴くだけのオペラファンだった頃は、このオペラ、全く視界に入っていませんでした。いや、声楽を学び始めても、キング門下にいた頃は、全くアンテナに引っかからなかったオペラです。

 私が『マクベス』というオペラが気になるようになったのは、見知らぬ人の発表会や、音楽コンクールなどを見に行くようになってからです。バリトンさんがよく『マクベス』の中のアリアを歌うんですね。それで「ヴェルディは、マクベスというオペラをどうやら書いていたようだな」と知ったわけです。さらに調べてみると『マクベス』には『ああ、父の手は』というテノールのアリアもあるじゃないですか? そうなると、興味が湧いてくるわけで、ぜひ見に行きたいと思うようになりました。

 そこへ持ってきて、今年のメトのライブビューイングのオープニング・アクトは『マクベス』となれば、そりゃあ見に行くしかないわけです。(実際のメトのオープニング・アクトは『フィガロの結婚』だったそうです。でも、ライブビューイングでは『フィガロの結婚』よりも『マクベス』を優先して放映したらしいです。どうも、そこには大人の事情があるみたいです)

 オペラ『マクベス』、さっそく、見てきましたよ。

 見てきた感想は…、そりゃあ、このオペラ。いくらヴェルディの作品とは言え、上演されるチャンスが少ないのは、当然だなって思いました。だって、地味なんだもん。カタルシスが解放されないんだもん。はっきり言って、ストーリーがオペラ向きじゃないんだもん。

 主人公のマクベスってバリトンなんだよ、悪役なんだよ、全部で四幕あるオペラなのに、最初の三幕までは、ずっと悪役視点でオペラが進むんだよ。

 それなのに肝心の主役で悪役のマクベスが、ずっとウジウジしているんだよ。なんか、もう煮え切らないヤツなんだよ。おまけに、ラスボス的存在であるマクベス夫人ってのがソプラノなんだけれど、この人、ドロドロしているばかりで、ちっとも可愛くもなければ愛らしくもないんです。更に言うと、このマクベス夫人、ラスボスのくせに、ヒーローにやられるでもなく、自滅して死んじゃうんです。

 最終幕の四幕になって、ようやく、ヒーローっぽいテノールが出てきます。いかにも「お待たせしました!」って感じなんだけれど、このテノールも、なんかスカっとしてないんです。「妻が…子どもが…」とかグチグチ言っているんですよ。で、そのグチグチの遅れて登場したヒーローが、ちょっとマクベスを剣でつっついてオペラは終わり。ありゃありゃ?って感じなんですよ。あっけないったら、ありゃしない。

 とにかく、このオペラ「悪役のバリトンがウジウジ悩んで、その隣で、ソプラノなのにふてぶてしくて根性悪の女が、ギンギンに喚いている」という印象のオペラです。こりゃ、オペラのストーリー的に、駄目だよ。

 とまあ、おそらくストレートプレイなら見応えあるストーリーかもしれないけれど、オペラじゃあねえ…と思いました。だから、音楽的にはきちんとしているのに、なかなか上演されないわけだ。

 マクベスがバリトンでなく、テノールだったら、『オテロ』のように面白くなったと思いますが、当時の常識で考えると、マクベスのような悪役は、どう考えてもバリトンの役なんだよね。ううむ、痛し痒しだ。

 とにかく、全編、バリトンとバスのアリアだらけのオペラです。バリトンやバスが大好きな方なら、きっと好物になるオペラですが、これが一般的なオペラファンにウケするかと言うと「そりゃあ、ないわ」って感じです。

 でもね、ストーリーはオペラ的ではないのですが、音楽は、本当にいいですよ。いかにもヴェルディっぽいサウンドで、ストーリーを無視して音楽だけ聞いても…というタイプのオペラなんですね。

 ヴェルディには、このように“歌だけオペラ”というような作品がいくつかありますが、この『マクベス』は、間違いなく、そのタイプのオペラなんです。でもね、その癖して、音楽が地味で渋いんです。だって、アリアの大半が、バリトンやバスのアリアなんだもん。たまにあるソプラノのアリアが、ドロドロしていて、技巧的には難曲だと思いますが、聴いていて、そんな面白いモノではないんですね。つまり、音楽的には、良いけれど、徹頭徹尾、地味なんですよ。

 私が思うに、このオペラの敗因は、かわいいソプラノ(つまり、ヒロインだね)の不在と、テノールの登場が遅い事です。とにかく、舞台は、バスとバリトンとヒステリックに叫ぶソプラノと合唱で進んでいくんですよ。そりゃあ、派手好きなイタリア人にはウケないよ。

 とまあ、作品そのものは、良作とは言い難いオペラですが、出演者の皆さんは頑張っていたと思いますよ。

 特に、マクベス夫人を歌っていたネトレプコは、実に素晴らしいです。私は今まで、なんどもネトレプコの歌を聞いてきましたが、おそらく、この役が(私の中では)ナンバーワンです。まるで、ネトレプコのために書かれたような役なんです、マクベス夫人って。これ、いいですよ。

 このオペラの最大の見どころが、ネトレプコ演じるマクベス夫人だ、と言い切ってもいいくらいです。

 無論、マクベスを歌ったルチッチや、バンクォーのルネ・パーペ。マクダフのジョセフ・カレーヤもすごくいいのですが、やっぱり何と言っても、ネトレプコですよ、このオペラは。

 地味なオペラだけれど、ネトレプコが好きな人なら、絶対に見た方がよいですよ、これ。

蛇足。私は、このメトのライブビューイングを横浜で見ることが多いのです。で、横浜での上映館が、今年いっぱいは“109シネマズMM横浜”で、年が明けると“ブルグ13”に変更になります。なぜだろうなあ…と思っていましたが、今回“109シネマズMM横浜”に行ってみて分かりました。実は“109シネマズMM横浜”、2015年1月25日で閉館しちゃうんですよ。いやあ、残念。

 なんでも、この映画館、恒久的施設ではなく、土地を借りて営業していたそうで、元々10年間の契約だったので、その契約が切れてしまうので、閉館となるようです。同じ敷地内にあった、ライブハウスの“横浜BLITZ”が閉館になったのも、同じ理由なんだそうです。

 たぶん、次に見る、メトのライブビューイングは来年になってしまうだろうから、“109シネマズMM横浜”とは、これでお別れです。なんか、寂しいですよ。

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