今、Y先生から課題曲として、ヘンデル作曲の「Ah, mio cor/ああ私の心である人よ」をいただいて、一生懸命、練習しております。
この曲、全音の『イタリア歌曲集』の1巻に入っている曲なんですが、実は全然歌曲ではなく、オペラのアリアだったりします。『アルチーナ』というオペラ(ヘンデルの時代のオペラですから、いわゆるバロック・オペラですね)のアリアなんです。
せっかく勉強するんだから、どんなアリアなのか、オペラ本体を見て、学んでみよう…と思いました。
なにしろ『アルチーナ』は以前、DVDを購入して、一度見ているはずなんですが、ほとんど記憶に残っていないんです。特に「Ah, mio cor」がどこで歌われたかなんて、ちっとも覚えてません(汗)。人間って、忘却の生き物ですからね。
久しぶりに『アルチーナ』のDVDを取り出して見てみました。ちなみに私が見たのは、このディスクの『アルチーナ』です。
この『アルチーナ』は現代的な演出で、少々エロチックな演出でございます。なにしろ、主役のアルチーナは薄物を着ているので、カラダの線はもちろん、乳房も乳首も丸見えでございますし、なんと舞台上で生着替えをして全裸になってしまいます(カメラは、その時はさすがに脇役のアップで、全裸を映し出しませんが:笑)。
まあ、それはともかく。
いやあ音楽は、どこを切ってもヘンデルですね。最初から最後まで、徹頭徹尾、ヘンデルですね。もう、音楽がヘンデル臭くて、プンプンしてます。笑っちゃうくらいに、ヘンデルです。
ヘンデルって…個性が強いなあ。この個性の強さは、モーツァルト並かもしれない。モーツァルトも、どこを切ってもモーツァルトだもんなあ(笑)。とにかく、どこを切ってもヘンデルな音楽を聞きました。
そうそう、お目当てのアリアは、第2幕の終わり近くにありました。
『アルチーナ』というオペラのストーリーを、実に乱暴に説明すると…手練手管を用いて男にモテモテで、男を弄んでいた魔女のアルチーナが、うっかりマジで恋をして、その恋人に捨てられる…というストーリーです。男を捨てる事はあっても、男に捨てられた事などなかったアルチーナが、マジで恋人に捨てられた事を自覚した時に歌う曲が「Ah, mio cor/ああ私の心である人よ」なんですね。だから、すっごく悲しいし、ほぼ慟哭なんです。血の涙を流していても、全然不思議じゃない状況での、魂の叫びを歌にしたんです。
いやあ…ここまで心理的に濃い歌だとは思いませんでした。と、同時に、これ、テノールが歌う歌じゃないよね。まあ、歌曲として歌うなら関係ないと言えば関係ないけれど、実に女臭くてドロドロした歌なんだな「Ah, mio cor」というアリアは。
でも、曲の背景を知ることができて良かったです。
いわゆる“イタリア古典歌曲”って、実はほとんどがバロック・オペラのアリアなんですよね。アリアである以上、ストーリーを背負っているわけです。だから、そのストーリーを理解した上で、歌うのが本筋なんじゃないかなって思いましたが…バロック・オペラって、なかなか見ること、できませんねえ。
例えば、私が今学んでいる他の2曲、チェスティ作曲「Introno all’idol mio/いとしい人の回りに」と、カルダーラ作曲「Selve amiche/親愛な森よ」は、チェスティの方が、歌劇『オロンテーア』のアリアで、カルダーラの方は、牧歌劇『愛の誠は偽りに打ち勝つ』のアリアなんだそうです。『オロンテーア』に『愛の誠は偽りに打ち勝つ』だって? 生上演はもちろんだけれど、DVDでだって、見れないんじゃないの? そういう点では、割と映像化されているヘンデルの作品は、学びやすいと言えば学びやすいです。
まあ、歌曲として、その曲にじっくり取り組めばいいんだろうけれど、やはりアリアとして作曲されているなら、元々、どういう場面で歌われているのか、歌っているキャラクターはどんな思いを背負いながら歌っているのか、そしてその歌は、相手役に届いているのだろうか? など知った上で歌いたいと思います。
だって、まず、そこんところを押えておかないと、表現って奴に手が届かないじゃないの?
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コメント
そうなんです、ヘンデルはほんとヘンデルなんですよ。
ファンはそこにハマるんですね(笑)
Ah! mio cor歌ったな~と思ったら、自分記事にしていなかったですね・・・!
触発されて記事書いてみようかと思いました。
伴奏をyoutubeUPまでして力尽きたようだ。
Selve amicheもintornoも好きです。どちらもジーリの歳行ってからの歌が好きです。
書きたいことがたくさんあって散漫なコメントになりますが、
過剰すぎる演出って苦手です。
音楽より演出に目が行ってしまって… 見ている時は楽しいが、見終わって考えてみるとあまり頭に音楽が残っていない。
音楽にあった演出だと、視覚情報と一体化して音楽も心に残ります。
バロックオペラは奇抜な演出が多いと感じていますが、ヴェリズモでも同様でしょうか?
たくさんオペラを見ているすとんさんのご意見を伺いたく思いました!
ヴェルヴェォティーノさん
>バロックオペラは奇抜な演出が多いと感じていますが、ヴェリズモでも同様でしょうか?
30年前は、ヨーロッパの歌劇場のものを中心として、イヤになるほどありました。中にはストーリーそのものや、結末を変えてしまう演出さえありましたが、さすがに行き過ぎたと感じたのでしょうか? 今では、ストーリーを変えてしまうほどの奇抜な演出はめっきり減りました。
その代わり、増えた…と言うか、今では常識となりつつあるのが、時代と場所を変更する手法です。時代を19世紀半ば~20世紀初頭ぐらいに設定する演出が実に増えました。場所は『どこでもないどこか』と言うか『空想の西洋の1都市』って感じかな? そういう演出が増えました。
ですから、登場人物が、男性ならスーツ。女性ならイブニング・ドレスってのが、増えました。つまり、現代の普通の洋品店でも買えそうな衣装を着ている…って事です。まあ、観客的にはなんとなく親しみやすくなるし、歌劇場的には衣装代が節約できるので、一挙両得って感じで普及したのでしょう。それが成功しているオペラ(例えば、椿姫は時代をこっちにしてもらった方がよりよいです)もありますが、違和感が残るオペラ(例えば、リゴレットだね。道化という存在は、近代社会にはそぐわないですよ)もあります。
とりあえず言えることは、今では、オリジナルの設定通りに演出されるオペラって…たぶん無いと思います。
こんばんは。
なくて、
> 久しぶりに『アルチーナ』
https://www.youtube.com/watch?v=ueMAOcTiu74
を途中まで聴きました。この手のモダンな演出は逆に言えば経費節減らしいです。
バロックオペラは通して聴いたことがなくて、ホントいい機会になりそうです。
> いやあ音楽は、どこを切ってもヘンデルですね。
ヘンデルはフルートソナタと、カロ・ミオ・ベンとラッシャの歌曲、メサイアの一部くらいしか聴いていませんが、このオペラ・セリアもまさにその通りですね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%BC%E3%83%8A
アルチーナは『オデュッセイア』における魔女・キルケーに相当する人物、らしいです。元理系崩れにとって叙事詩はタイトルさえおぼろげで、通して読んだことがありません。世界は深いです。
補足です。
> 今では、オリジナルの設定通りに演出されるオペラ
10年以上前ですが、ウィーンでの「バラの騎士」は古典的な衣装でした。このオペラでのモダンな演出はみたことないです。あればどんな演出になるか、興味津々です。
tetsuさん
おっしゃる通り、モダンな演出は経費節減という側面が強いそうですね。あと、やはりオペラ通の方々に言わせると「伝統的な演出は見飽きた。もっと刺激的なモノが見たい」んだそうです。そういう、作り手側の必要と、受け手側の要求があって、現在の演出状況が作られているそうです。
まあ、私はアタマの硬い人間なので、伝統的な演出の方が好きですけれど。
>このオペラでのモダンな演出はみたことないです。あればどんな演出になるか、興味津々です。
21世紀になって制作されたものは、たいていモダンな演出です。少なくとも、衣装や大道具は街で買える物を使ってます。私は未見聞ですが、ルネ・フレミングが主演した「バラの騎士」はモダン演出だけれど、なかなか良い演奏だと聞いたことがあります。
それにしても、最近の歌手さんたちは、歌のテクニックにしても、容姿容貌にしても、昔の方々よりも、確実にレベルアップしていると思います。撮影テクニックも当然向上しているので、DVDで鑑賞するなら、わざわざ古いものを選ぶ理由はないような気がします。
ありがとうございます。
https://www.youtube.com/watch?v=avIB7oqEls8
すごい時代になったもんです。
tetsuさん
さっそく見つけましたね。ご苦労さまです。
私もちょっとだけ見ましたが、なんか、衣装が現代的になるだけで、芝居そのものが生々しく感じられるようになりましたが…これって、不倫をしている女性の話でしょ? そんなに生々してくいいのかなって思いました。最後まで見ていませんが、エグい話になっていないか、ちょっと心配です。