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ドイツ歌曲が心にしみる

 少し前までの私は、イタリア語で歌われる曲にこだわっていました。イタリアオペラのアリアとか、イタリア歌曲とか、カンツォーネとか…ね。これらの曲を偏愛し、勉強する対象も、これらの曲でした。もちろん、オペラにも歌曲にも、イタリア語以外の曲にも名曲がある事は知っていましたが、あまり耳を傾けませんでした。第九はドイツ語で歌いますが、あれは合唱曲ですから、ソロで歌うのとは全然違います。まあ、ドイツ語の歌に関しては、教養的に知っているだけで、魂で知っていたわけではありません。

 それが、先日の発表会で、レハール作曲の「Dein ist mein ganzes Herz/君は我が心のすべて」を歌うことにしました。自分がドイツ語で歌い始めた事もあって、ドイツ語で歌われる他の歌を、ドイツ語に耳を慣らす事もあって、少しずつ聞くようにしたところ、なんともドイツ歌曲が心にしみてくるじゃありませんか。

 ドイツ歌曲を歌う歌手には名歌手もたくさんいるんですが、なぜか今回、私の心のすきまに入り込んできたのは、なんと韓国のソプラノ、スミ・ヨーが歌っている、ドイツ歌曲初心者向けのアラカルトのアルバムでした。

 我ながら、どうせハマるんなら、ドイツの名歌手の歌った通好みのアルバムにハマればいいのに、よりによって韓国の歌手(って事は、ドイツ語は外国語なんですよね)のアルバム。ちなみに韓国なのは歌手だけでなく、伴奏しているミュージシャンたちも韓国人揃いなんだそうです。ああ、そんな韓国風味たっぷりのドイツ歌曲のアルバムにハマり、彼女の歌声が心にしみてきたんです。

 たぶん、本格的にドイツ歌曲を勉強している人からすれば「すとんさん、何やっているんだい」と思われるかもしれないけれど、でも、このアルバムのこの歌唱にズキュンと撃たれたんだから、仕方ないっすね。

 私は、自分の感性を疑われたとしても、正直でありたいんです。

 さて、言い訳はそこまでにして(笑)。最近の私は、ドイツ歌曲をシミジミと「良いなあ~」と思っているわけです。

 イタリアの歌と比べると、全体に地味だし、技巧も見せびらかす事なく、高音をひけらかすでもなく、それでも実際に歌ってみると、結構難しいし、高音だって地味にたっぷり使っていたりして、聞いたよりも、うんと難しいんですね。派手じゃない分、第一印象的には強くはないけれど、繰り返し聞いていると、ドンドン染み込んできます。

 無論、良いなあと思ったのは、ドイツ歌曲のメロディとかサウンドとか、そういうノン・バーバルな部分。「ドイツ歌曲は歌詞とサウンドが密接な関係にあって…」とかは、よく聞く話だけれど、歌詞の意味は全然分からないんだから、仕方ないよ。私は音楽を聞くときに、歌詞カードとかは見ない人なので(DVDなどだったら字幕をきちんと読みます…)、歌詞と音楽の蜜月感は全く分からないけれど、でもドイツ歌曲のメロディとかサウンドとかに強くひかれたわけです。

 ほんと、ドイツ歌曲も、いいじゃない。モーツァルトやシューベルトが良いのは当然として、今回改めて良いなあと思ったのは、シューマンの歌曲。スミ・ヨーのこのアルバムには「献呈」しか入ってませんが、これがなかなか良いです。そう言えば、このアルバムには入っていないけれど「女の愛と生涯」とかは、以前から大好きな歌曲集だったっけ(絶対にテノールは歌うべきじゃない歌曲集だけどね:笑)。

 私はテノールなんだから、本来なら「詩人の恋」あたりが好きになれればいいんだけれど、この歌曲集の印象って、実はあんまり良くない私でした。良くない…と言うよりも「なんか手ごわそう」って印象なんですよ。

 2011年のラ・フォル・ジュルネで聞いたハンス=イェルク・マンメルの歌唱が、とても素晴らしかったけれど「詩人の恋」で感銘したのは、それくらいかな? たぶん、この曲って、歌うのがすごく難しいと思うし、テノールの曲だと、ついつい“自分が歌うなら”という視点で聞いてしまうので、音楽を純粋に楽しめないキライがあります。ペーター・シュライヤーの録音を聞いても、ついつい分析的に聞いちゃう私です、そりゃあ楽しめないよね。

 ドイツ歌曲は、フィッシャー・ディスカウのイメージのせいか、テノールが歌うものではなく、バリトンが歌うジャンルの音楽ってイメージが強かったのですが、古くはペーター・シュライヤー、最近ならイアン・ボストリッジがテノールとしてドイツ歌曲で頑張ってますよね。テノールが歌ってもサマになるドイツ歌曲もたくさんあるわけだし、ほんと、食わず嫌いは止めて、ドイツ歌曲にも積極的に取り組めるようにしましょう。

 まずは、そのためにも、ドイツ歌曲をきちんと聞く事から始めないとね(笑)。まずはドイツ語の耳を作る事、理想はドイツ語をペラペラに話せる事だろうけれど、それはちょっと無理なので、せめてドイツ語の耳を作らないと、ドイツ語の歌は歌えません。ドイツ語の耳を作るためには、ドイツ歌曲をたくさん聞かないとね。

 これからは、英語とイタリア語の歌の中に、ドイツ語の歌も混ぜて聞くようにしましょう。

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コメント

  1. おぷー より:

    ヴォルフの「庭師」なんかすとんさんに合いそうだなあ。
    載せておきます。
    http://youtu.be/xsS9yOKBtOQ

  2. ミルテ より:

    そうなんですよ、皆さん結構誤解してますが、ドイツリートだって高い音も難しいパッセージも使っているけれど、言葉優先だから、あんまりそれに気がつかない曲が多いんです。
    ドイツ人はバリトンが多く、イタリアにはテノールが多いそうで、なかなかリートのテノールはいないのだそうです。
    ヴンダリッヒがいいテノールで、いい歌曲歌います。
    http://youtu.be/L7NNNpuo42U
    地味ですが、ぜひぜひ歌ってほしいなぁ、って思います。
    すとんさんのドイツリート、近いうちに聴けますように。

  3. すとん より:

    おぷーさん

     新しい曲と作曲家と歌手を教えてくれて、ありがとう。

     いやあ、ヴォルフはドイツの作曲家の中でもノーマークでした。歌手のヤン・シュルツも同じくノーマークでした。ノーマークのお二人を教えてくれて感謝感謝です。それにしても、オシャレで近代っぽい香りがする曲ですね。確かに私好みかも(笑)。

  4. すとん より:

    ミルテさん

     さすがにウンダーリヒは知ってます(笑)。シューマンの「はすの花」、いい曲ですね。ドイツの歌曲は地味だけれど、光るものがあるのが面白いですね。

     ちなみに、私がシューベルトの水車小屋を聞く時は、ウンダーリヒで聞きますよ。

  5. tetsu より:

    こんばんは。

    > ドイツ歌曲は、フィッシャー・ディスカウのイメージのせいか、テノールが歌うものではなく、バリトンが歌うジャンルの音楽ってイメージが強かったのですが、

    オペラでも、R.シュトラウスの「バラの騎士」ではイタリア風テノールというとバカにしたような取扱いになっています。

    ヴォルフも好きですが、R.シュトラウスもいいです。
    https://www.youtube.com/watch?v=cHfN165tA-M

    J.S.バッハはドイツ歌曲ではなくて宗教曲?かもしれませんが、このあたりでも曲はたくさんあります。

    https://www.youtube.com/watch?v=ueOYzfW7xC0
    https://www.youtube.com/watch?v=dxzAk04rJtw

    失礼しました。

  6. すとん より:

    tetsuさん

     別に『バラの騎士』に限らず、昔から、テノールとヴィオラはバカにされたり、後ろ指を指されたりするモンですよ。だから、そんな事じゃあ、気にもしません。

     リヒャルト・シュトラウスの「明日の朝」ですね。これ、歌うの、すっご~く難しいと思いますよ。近寄っちゃいけないタイプの歌だと思います。

     バッハと言うか『マタイ受難曲』は、おっしゃる通り、歌曲じゃなくて宗教曲です。コンサートホールではなく、教会で聞くべき曲だし、プロの歌手たちよりも、教会の聖歌隊の皆さん方が歌った方が良い曲です。

     まあ、本来的には「信仰がなければ…」的な話をするべきでしょうが、私の場合、それ以前に、声が全く宗教曲に向かないので、テクニック以前に歌うべき歌ではないです。

     本音で言えば、宗教曲が一番歌いたいジャンルなんだけれど、同時に一番声が不向きなジャンルでもあるんだよね。私の声って、ほんと、世俗っぽい声だからサ。

  7. おぷー より:

    いや、歌手は、Werner Güraと言うドイツのテノールで、年は、50歳位の筈です。
    優しい良い声ですよね。

  8. すとん より:

    おぷーさん

     ん? ああ、ヤン・シュルツはピアニストの方でした。いやあ、私が横文字に弱い事が暴露されてしまいました。

     ところで、ウェルナー・ギュラですが、私、おぷーさんにヴォルフを紹介された後、自分のiTunesを漁ったところ、ヴォルフの歌曲集は何枚かあったけれど「庭師」はなかったので、アマゾンを漁って、ボチしたのが、ウェルナー・ギュラのCDでした。結局、おぷーさんに音源紹介されて、気がつかずに同じ音源のCDを購入してしまった私です。

     良かったのやら悪かったのやら。

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