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楽譜通りに歌うべきか、それとも“オ”や“ア゜で歌うべきか”

 さて、残りの一曲、ベッリーニ作曲「Ma rendi pur contento/喜ばせてあげて」を発表会で歌う曲とするかどうかのチェックとなりました。

 「この曲、自分でも歌った事ないし、レッスンでも取り上げた事ないんですよ…」とは先生のお言葉です。先生にとって、この曲はかなり目新しい曲のようです。なので、最初は先生、ピアノでこの曲を弾いて確かめていましたが、弾いているうちに段々思い出されたのか、すぐに了解されました。まあ、この曲は、ソプラノやテノールなどの高音歌手はよく歌いますが、低音歌手の皆さんはまず歌いませんからね、すぐに思い出せなくても仕方ないかも。

 この曲はイタリア語の曲なので、歌詞の読みはOKという事で、すぐに歌ってみました。

 いやあ、歌ってみて感じた事。すっご~~~~~く、楽。いやあ、レハールとは雲泥の差ですよ。何、この曲の楽な事。もっとも、楽に歌える事と、きちんと歌えることは違うわけだから、きちんと練習をして、きちんと歌えるようにしないと。

 この曲はテンポがゆっくりだから、リズムが誤魔化せません。ピシッピシッとリズムは決めていかないといけませんし、音程も少しでも甘いとすぐにバレます。そういう意味では、下手くそが丸見えになってしまう曲なんです。怖いですね。でも、私、この曲が好きなので、下手くそが丸見えになってもかまわないので、歌いたいと思いました。

 簡単だけれど、難しい曲。そこがこの曲の印象です。

 とりあえず、歌いすすめていたところ、曲の終盤近くにある二つのフェルマーターの部分で、先生の手がハタと止まりました。この曲をこのまま、楽譜通りに歌わせて良いものだろうか…という疑問が先生のアタマの中をよぎったわけです。

 そうそう、低音歌手の皆さんは、曲を、割と楽譜通りに歌うのですが、高音歌手たちは、ソプラノにせよ、テノールにせよ、楽譜通りに歌わない事が、ある意味当たり前になっているわけで、楽譜通りに歌わないからと言って、それはでたらめに歌っていいと言うわけではなく、伝統的に「この曲のこの部分はこうやって歌う」という慣習があるわけです。それを人はカデンツァって言うわけだけれど、この曲にもカデンツァがあるんじゃないかと、先生は思ったようです。

 で「ちょっと待っててね」と言って、レッスン室を飛び出していきました。

 しばらくして戻ってきました。どうやら、奥様であるF先生(ソプラノ)に、この曲のカデンツァについて尋ねてきたようです。答えは「ソプラノの場合、この部分の高いラの音の部分は、普通“イ”ではなく“オ”で処理をする」という答えを得てきました。つまり『ヴィーヴォ』を『ヴィヴォー』と歌うわけです。

 まあ、テノールの場合、多くの歌手は楽譜通り“イ”で処理するケースが多い(代表例:パヴァロッティ)のですが“オ”で処理する人もいないわけではないし、私は“イ”が苦手なのでF先生のやり方に乗る事にしました。

 ちなみに、私なりに調べてみたところ、ソプラノ歌手はたしかにF先生のおっしゃる通り“オ”で処理されている方(代表例:カバリエ)もいらっしゃいましたが、案外“ア”や“エ”で処理されている方(『ヴィヴァー』とか『ヴィヴェー』とか)もいらっしゃって、ビックリしました。いやいや、それどころか、ソプラノの場合、楽譜通り“イ”で処理されている方が少なくて、むしろ、こっちの方がビックリかな?

 まあ、歌だからね。歌手という楽器の特性を考えたり、歌心って奴を注入すると、必ずしも楽譜通りにはならないって事だろうね。

 例によって、この曲の事をご存じない方のために、YouTube画像を貼りつけておきます。歌っているのは、ファン・ディエゴ・フローレスで、彼は例の箇所を“オ”で処理しているテノールなんですね。こんな風に歌えたら、いいなあ…。

 とりあえず、これで発表会用の曲が決まりました。問題は、しっかり練習して、曲をカラダの中に入れる事ですね。とにかく、今は仕事が忙しい時期なので、無理はできませんが、カラダが空き次第、これらの曲に集中して練習しないとね。

 頑張っていきましょう。

 レッスンが終わって、雑談をしている時に、モーツァルトのコジ・ファン・トゥッテの二重唱がボツになって残念だという話をしました。ま、実は私的には、コジでノリノリだったのですが、お相手のNさんが、最近はモーツァルトばかり歌っているので、モーツァルトは遠慮したいというわけで、ボツになったらしいのですよ。でも、私は、モーツァルトを歌いたいんですね。だって、モーツァルトなんて、名曲だらけなのに、ロクに歌った事ないだもん。

 なので先生に「今度、モーツァルトの歌曲とか、歌いたいですねえ~」と軽く切り出したら「モーツァルトは、もっと声の軽い人が歌うモノですよ、すとんさんでは歌える歌はほとんどないです」とバッサリでした。ちなみに「ドニゼッティは愛の妙薬以外は、テノールとソプラノが同じ音域で歌うので、普通にHi-Dとかが出せる人じゃないと歌えないですよ」との事でした。

 ああ~、モーツァルト、歌いてー!

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コメント

  1. おぷー より:

    この歌だったら、大丈夫じゃないですか?
    むっちゃ難しい歌じゃないし、ピアノも綺麗ですよん。
    http://www.youtube.com/watch?v=1-AOQaIQMZ4

  2. wasabin より:

    「喜ばせてあげて」はシンプルが故、ごまかし効かないそうですね。
    しっかり聞かせて下さいね~♪ 応援してま~す d(^^)d

    ベッリーニはソプラノの多い私達の中では頻繁に取り上げられる作曲家ですが、私は ”eccomi…..Oh quante volte…”以外は縁がないですね。
    それもメロディの美しさに惚れて選んだものの、合わないかなと他の希望者にあげちゃいました。

    レハール、あれだけ歌えたら死んでも・・って分かりますよ。
    ところで、この舞台は桟敷席取り払い正装の男女が取り囲んでますね。
    面白い風景です。

  3. ミルテ より:

    Ma rendi pur contento わたしもむかーし門下会でうたいました。
    カデンツァが難しくて、綺麗に行かなくて、苦労したのを思い出しました。
    わたしは例の場所はi で行きましたよ。
    うちのもんかは男性も含めみんなそうですから、ほかのヴァージョンあるのに驚きました。
    ベッリーニも軽めの声が似合いますものね。
    頑張ってくださいね♪

  4. すとん より:

    おぷーさん

    >この歌だったら、大丈夫じゃないですか?

     大丈夫かどうかはともかく、自分なりの手応えは感じています。あとは、それをどう表現していくか…なんですね。とにかく、この曲は、簡単で難しいのです。

    >ピアノも綺麗ですよん。

     そうそう、なんか、ピアノに聞き惚れてしまうくらいに、美しいですよね。

  5. すとん より:

    wasabinさん

    >「喜ばせてあげて」はシンプルが故、ごまかし効かないそうですね。

     料理で言えば、卵料理のような感じなんだと思います。簡単なんだけれど、一定水準以上の出来を目指せば、難しいですよ。

    >”eccomi…..Oh quante volte…”以外は縁がないですね。

     あれ、そんな歌曲、あったかな? と一生懸命考えちゃいました。これ、歌劇『カプレーティ家とモンテッキ家』の「ああ、幾たびか」ですね。私、このオペラには、あまり親しみがなくて…そのうちに全曲制覇しますっ!

     それにしても、ほんと、ベッリーニの曲は、どれもメロディが神掛かって美しいですね。

    >レハール、あれだけ歌えたら死んでも・・って分かりますよ。

     でしょ? 私とは、同じテノールだけれど、声の種類が違うので、死んでも、あんなふうには歌えないんだけれどね。

  6. すとん より:

    ミルテさん

     あのカデンツァ、単純なんだけれど、なんかキレイに決まらないですね。決まれば、すごぶる美しいんだけれど。

    >ほかのヴァージョンあるのに驚きました。

     私もこんなにあるとはビックリしました。でも、ほんと、たくさんありますね。それだけ、ここを美しく歌うのに、みんな苦労しているって事だろうと思ってます。それに、人それぞれで、得意な母音も違うし…ねえ。

     最後の4音が、ミ、ファ、(一オクターブ下がって)ソ、ラとなっていますよね。これに関して「やっぱり下がるのかな?」「下がんなきゃいけないのだろうなあ?」「やはり、普通に、ミファソラと駆け上った方がいいのかな?」「いや、一気に駆け上るべきだろ!」など、脳内のテノール歌手たちが相談をしているんです。

  7. 椎茸 より:

    ma rendi 大好きです。歌いやすいですし……
    伴奏も簡単なので、ほとんど弾けない自分でも楽しく弾けます。

    ご指摘の箇所、私は楽譜通りにvi—-voでやってました。
    ベッリーニの6つのアリエッテは、みんな良い曲ですので、折を見て制覇されるとよいのではないかと思います。マリンコニーアは以前やっておられましたよね?

  8. すとん より:

    椎茸さん

    >ベッリーニの6つのアリエッテは、みんな良い曲ですので、折を見て制覇されるとよいのではないかと思います。

     そうですね、あの6曲はみな良い曲ですし、私も好きです。ほんと、折を見て制覇したいですよ。マリンコニーア? あの頃は歌えませんでしたが、今なら歌えるでしょう(笑)。でも、きちんと歌えるかと言えば、または話は別だったりします。

  9. おぷー より:

    モーツァルトの歌を歌いたい、と書かれておられましたので、
    それを載せたんですけど、聴いてみられました?

  10. すとん より:

    おぷーさん

     すいません、実はリンクを見逃していました(と言うか、目に入っていたのに、その情報が脳に届いていなかったようです:要は「ボケーとしていた」って事です)。

     なので、おぶーさんから言われても、しばらくは「???」でした。せっかく見つけてきてくれたのに、気がつかないでごめんなさい。なので…

    >この歌だったら、大丈夫じゃないですか?

     “この歌”を取り間違えていました。申し訳ない。

      KV468:歌曲 「結社員の道」ですね。“結社”って何?と思いましたが、フリーメーソンなんですね。これ、モーツァルトが書かれた、テノール向けの歌曲みたいです。私が持っているナクソスのモーツァルト歌曲全集でもテノールの方が歌っている歌曲です。調べてみると、あまり有名な曲はないのかもしれないけれど(ってか、モーツァルトの歌曲って、圧倒的にソプラノの方の録音したものが多いのですが)、テノール向けの曲もあるようです。そういう曲の中からいくつかをピックアップして、先生に申し込んでみるのも良いかもしれません。

     どちらにしても発表会が終わってからですが、楽しみが増えました。良い曲を教えていただき感謝です。本当にありがとうございました。

  11. キノコ より:

    声質がその歌に向かない…歌いたいのに。キャラクターがその歌に向かない…歌いたいのに。歌い手はこんな問題に突き当たりますね。気持ちが進んでいるということは曲に呼ばれているようにも感じるけれど。逆にいくら合っていると言われても気の進まない曲もあります。合う合わないの基準も聞く人の好みもある、という気もします。

  12. すとん より:

    キノコさん

     歌手には、つねに声種問題がつきまといます。軽い声・重い声もそうですが、その前に、性別って奴がありますからね。

     やはり、名曲って奴は、たいていソプラノを想定して書かれています。例えば、音楽之友社から出ている、名アリア選集だと、ソプラノは3冊もあるし、オペレッタ名歌集も、オペラ重唱曲集も、その大半は、ソプラノの曲だけれど、メゾとアルトはまとめて1冊だし、バリトンとバスもまとめて1冊。この扱いは何?って感じです。ほんと、ソプラノってうらやましいですね。私もソプラノに生まれればよかったと思いますよ。

     ま、テノールはアリア集が2冊だから、ソプラノほどではないけれど、低音歌手よりはレパートリーは広いので、贅沢を言ってはいけないのだけれどね。

    >気持ちが進んでいるということは曲に呼ばれているようにも感じるけれど。

     ううむ、私が本当に歌いたい曲は、私に合わない重い声の曲ばかりです。呼ばれているなら、なんとかして応えたいと思います。いずれ、声が重くなったら、そういう重い曲も歌おうと思ってますが、声が重くなる前に、死んでしまわないか心配してます。

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