スポンサーリンク

パリオペラ座のライブビューイングで「ホフマン物語」を見てきました

 オペラのライブビューイングと言うと、日本では、ずっとメトロポリタンのモノが独占していました。他の劇場のライブビューイングと言うと、たまに、英国ロイヤルオペラが単発でやる程度…だったと思いますが、いよいよ、パリのオペラ座のライブビューイングが日本でもレギュラー化して上映される事となりました。

 パリオペラ座のライブビューイングの特徴は、メトとは違って、オペラばかりではなく、バレエの上演もあるという事。また、上映期間も通常の映画並の約2週間あり、たった1週間で上映を終えるメトよりも見やすいですし、また上映も一日に1回しか行なわないメトとは違って、一日に複数回行なうので、自分の都合に合わせて見に行ける便利さがあります。

 さっそく…と言うわけではありませんが、私も、パリオペラ座のライブビューイングを見に行ってみました。私が見に行ったのは、今期の第3作目の上映となる、オッフェンバックの「ホフマン物語」でした。

 私が出かけた劇場は、東京日比谷のみゆき座です。この劇場に行ったのは、約十年ぶりです。前に行った時は『永遠のマリア・カラス』を見に行った時です。

 日比谷に行って、劇場に着きましたが、なんか違和感があります。

 確かに、みゆき座は、東京宝塚劇場のすぐ側でしたが、こういう位置関係だっけ? あれ?と思って、チケット売り場に行くと…広くなってませんか? 確か、昔のチケット売り場って、小さくて狭いかったような。そこから劇場に下りていく階段は、逆に広くなってませんか? それと、階段の途中に自転車屋なんて、絶対無かったと思うし…。

 モギリに行ったら、さらにビックリ。スカラ座とみゆき座、モギリが一緒じゃん。ってか、同じフロアにスカラ座とみゆき座がある。私は確信しました。このみゆき座は、私が十年前に行った“みゆき座”じゃない!

 モギリのすぐそばにある大きな劇場はスカラ座で、みゆき座ではありませんでした。みゆき座は、そこからは、ちょっと分かりづらいというか、スカラ座の裏側にあります。係の女性の指示どおりに進んで劇場内に入ると、そこは、シネコンによくある小さめの会場のような場所でした。昔のみゆき座って、ちょっとした体育館並の広さがあって、劇場中心部には、貴賓席という、すごぶるデラックスなシートもあって、スクリーンもイヤになるほどデカかった記憶があります。実際『永遠のマリア・カラス』の時は、私は、その貴賓席で映画を見たんだよね。

 帰宅後にググってみたら、昔のみゆき座は、すでに無くなっていて、今のみゆき座は、名前だけ引き継いだ、全く別の映画館だという事が判明しました。

 なんでも、昔のみゆき座は、現在は隣のビル、今はシアタークリエの入っているビルが建て直す前の、東宝本社ビルの地下にあったそうです。で、東宝本社ビルを立て替える時に、昔のみゆき座は無くなってしまったそうです。今のみゆき座は、元々、隣のビルの地下にあった『スカラ座2』という、小劇場系の映画館だったそうです。旧みゆき座が無くなったのをきっかけに、その伝統的な劇場名を残そうというわけで、改名したのだそうです。

 だから、同じ“みゆき座”でも、私の記憶にあったみゆき座と、今回のみゆき座が全然別物だったわけです。うむ、納得。
 
 
 さて、現みゆき座で見た、パリオペラ座のライブビューイングは…と言うと…どうなんでしょうね? と言うのは、全然ライブ感がないんですよ。メトは、映画の上映が始まると、最後まで、スクリーン内の時間は途切れることなく、ずっと流れています。休憩時間中だって、時計はまわりっぱなしです。いわゆる『生中継を録画で見ている』わけです。まあ、本来は“生中継を生で見る”べきでしょうが、日本での上映の場合は、日本語字幕を付ける作業が加わるため、生中継を生で見れず、やむなく録画で見ているわけですが、それでも、生中継の感覚、つまりライブ感は、メトには、たっぷりあります。

 そこへ行くと、パリオペラ座のライブビューイングは、全然ライブ感がありません。と言うのも、バックヤードの風景やインタビューは、明らかに編集されていて、時間の跳躍やカットがあって、作り物感覚があるからです。また、それらの解説シーンとオペラ本番シーンも唐突につなげられており、メトのライブビューイングのような「本番がいよいよ始まる!」的なワクワク感はなく、DVDのプレイボタンを押して始まるような感覚でオペラ本編が始まります。

 まあ、これが悪いとは言いませんが、だったら“ライブビューイング”とは名乗らない方がいいんじゃないかなって思いました。実際、これ、ライブビューイングとは別モノだと思います。“ちょっと親切な劇場中継”って感じのオペラ映画なので、そういう言葉を作って宣伝すればいいんじゃないかな?

 実際、あくまでも上映の中心は、オペラ本体の上映であって、おまけとなる、解説部分は、メトと比べるとだいぶ見劣りしました。…と言うか、パリオペラ座の方の分量が適切であって、メトの方は解説部分が長すぎるのかもしれません。もっとも、メトの場合は、実際の劇場の休憩時間に合わせて、解説部分が作られているから(オペラの休憩時間って長いんですよ)、必然的に、実にたっぷりと解説部分が作られているからです。私のような、クラオタには、この解説部分がとても楽しいのですが、一般的な音楽ファンには、オペラ本編に集中できるパリオペラ座の解説の分量の方が適当だと思います。
 
 
 さて、肝心のオペラである『ホフマン物語』なんですが、これについては、あまり多くを語る必要はないかもしれません。と言うのも、既発売の、このDVDと、全く同じだったからです。

 全く同じと言っても、出演している歌手や指揮者は全然違います。そりゃあ、DVDの収録から10年経ってますからね。でも、演出や衣装・大道具&小道具は一緒で、演出も演出家も一緒で、オーケストラと合唱団も一緒。そもそも上演しているオペラ劇場が同じだし、おそらくこの10年間、ずっと同じ劇場で上演しつづけてきたわけですから、演じる人が変わっても、オペラそのものは、同じモノでありつづけてきたわけですし、実際、今回の上映とDVDは、演じている歌手が違うだけで、同じ演出で同じ芝居をしていました。

 演出家の力って、すごいなあって思ったくらいです。指揮者や歌手がオペラに与える影響よりも、演出家がオペラ上演にあたえる力の方が強いんだなあと、改めて認識しました。なので、このオペラ上演に関しては、知りたければ、既発売のDVDをご覧になれば結構だと思います。

 実際、個々の歌手も、皆置き換え可能な存在でした。

 前回見た、メトの「ジュリアス・シーザー」もDVDと全く同じ演出でしたが、こちらはDVDとは別物のオペラになっていました。「ジュリアス・シーザー」の場合は、上演劇場も違ったわけですが、それだけがこの両者の違い…というわけではないと思います。「ジュリアス・シーザー」はバロックオペラと言う事もあるかもしれないけれど、歌手が個性を発揮できる余地がたくさんあったように見えました。その点「ホフマン物語」では、演出でガチガチに固められ、歌手の個性がそれほど出せなかった…のかもしれません。

 私が、今回のライブビューイングを見に行った理由は、ホフマン役を演じる、ステファーノ・セッコが見たかったからです。私、ステファーノ・セッコというテノール歌手が好きなのですけれど、彼の歌をCDでは聞いた事があるけれど、その動く姿や演技を見たことがなかったので、今回のライブビューイングがいいチャンスだと思って出かけたわけです。

 ステファーノ・セッコは、若くて、顔だちが端正な良いテノールだと思いました。演技力もバッチリです。ただ、背が低くて、カラダが太かったです。まあ、カラダが太いと言っても、テノール歌手としては、平均的な太さですから、これは慣れれば問題ないかもしれませんが、問題は身長の方かもしれません。なにしろ、女性歌手たちとそんなに違わないのです。確かに、この身長では、実力があってCDはそこそこ発売されているのに、DVDなどが発売されないのも、納得です。ビジュアル的に、きびしい歌手でした、セッコは。最近の若いテノールには、ノッポでスマートなビジュアル系の歌手もたくさんいますからね。映像の収録なら、実力的に大きな違いがなければ、そちらのビジュアル系の歌手たちに仕事を取られてしまいます。ま、よほどの事がない限り、ステファーノ・セッコには厳しい時代かもしれません。

 ホフマンは、テノールにしては珍しく、振られ役のもてない君ですから、セッコでも良かったのかもしれません。

 ちなみに、セッコは薄毛なんだそうです。でも、舞台じゃ、いつもカツラをカブっているので、そんな事には気づきませんでした。

↓拍手の代わりにクリックしていただけたら感謝です。
にほんブログ村 クラシックブログ 声楽へ
にほんブログ村

コメント

  1. 椎茸 より:

    セッコ、いいですよね。ナクソスレーベルのCD(トスティ等を歌ったもの)が良くて、名前だけなんとなく覚えていました。

    オペラを全幕みたことはないので、ライブビューイングには興味がありますが、
    上映時間が長いのでついつい二の足を踏んでしまいます。

  2. すとん より:

    椎茸さん

     セッコ、いいですよ。私は、椎茸さんがあげたアルバム(トスティをピアノで吹き込んだモノ)以外にも、彼がオケ伴奏でトスティを吹き込んだモノ(レーベルはリコルディです)を持っています。これもいいですよ。

     声はヒロイックですが、顔は童顔で、かっこいいと言うよりもかわいいタイプのテノールです。たぶん、カルメンのホセをやらせたら、絶品じゃないかな? そんな感じのテノールさんでした。

    >オペラを全幕みたことはないので、ライブビューイングには興味がありますが、
    上映時間が長いのでついつい二の足を踏んでしまいます。

     まあ、オペラひとつで、映画2~3本のボリュームありますからね。「ホフマン物語」も上映時間は約4時間ですからね。

     「カルメン」とか「椿姫」とかの定番オペラをDVDで購入して、幕ごとに見るといいかも。オペラは長いと言っても、普通は1幕はせいぜい1時間程度です。ですから、全体を3~4回に分けて見ると良いです。私も家でオペラを見る時は、結構、幕で分けて、数日かけて見る事、多いですよ。

  3. YK より:

    >ただ、背が低くて、カラダが太かったです。
    多分、そのくらいの方が肺活量があって、歌いやすいのでは?と思います。
    サントリーホールでノッポの歌手の方と小太りしている方がいましたが、やはり小太りしている方の方が声量は豊かでした。
    だって、フルートのゴールウェイさんだって、少し…ですよね。

    ちなみに(無関係で申し訳ありません(・_・;) 明日、デニス・ブリアコフのリサイタルがオペラシティでありますよ。当日券が入手出来たら、プログラムも面白そうですし、すとんさんと同じメーカーですし、楽しいかもしれませんよ(^^) (ちなみに、私は最近ムラマツSRユーザーになりました。)

  4. すとん より:

    YKさん

     私にはその理由は分かりませんが、声楽の世界では『太っている人間の方が、声量も豊かで、音色も美しい』と言われています。一方、いくら声が美しくても、美貌が伴わなければ仕事が来ないと言って、声を犠牲にしても、やせる歌手もいます。ま、人それぞれですね。おそらく、セッコは「多少太っていても、声が良ければ、それでいいじゃん」と思っている人なのかもしれませんね。

    >明日、デニス・ブリアコフのリサイタルがオペラシティでありますよ。

     私は地方在住ですから、平日は都会には出られないのですよ。だから、都内在住勤務の方がうらやましくてねえ…。

     いや、たとえ私が都内在住勤務であっても、毎日、コンサート開始の時刻だと、確実に働いているので、どっちにしても、平日のコンサートにはいけない身の上なんです。

     まあ、ブリアコフは定期的に日本に来ているみたいですから、次のチャンスを待つことにします。

タイトルとURLをコピーしました