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逆風に負けない歌唱[2013年ラ・フォル・ジュルネに行ってきた:その8]

 目覚めは結構ぼぉ~としている私です。でも、ラ・フォル・ジュルネは忙しいのです。眠いからと言って、惰眠をむさぼっている暇は無いのです。

 次の演奏会場は、三菱一号館の裏のオープンスペースです。目覚ましにはちょうど良い距離です。東京国際フォーラムから、テクテク歩いて会場に向かいました。
 
 
ソプラノ(ソプラノ:吉田友子,ヴァイオリン:佐藤奈美,小島愛弓,ヴィオラ:小渕早佐保子,チェロ:寺島志織)

  サティ作曲『あなたが欲しい』
  プーランク作曲『愛の小径』
  マスネ作曲『タイスの瞑想曲』(インスト)
  シャンソン『おぉ、シャンゼリゼ』
  シャンソン『愛の讃歌』
  ビゼー作曲『間奏曲』~『カルメン』より(インスト)
  グノー作曲『私は夢に生きたい』~『ロミオとジュリエット』より
  プッチーニ作曲『私が町を歩けば』~『ラ・ボエーム』より

 私が着いた時には、すでに人だかりで、ギューギュー詰め状態でした。この会場は、オープンスペース(戸外)と言う事もあり、座席がなく、すべて立ち見の会場なんです。どうしても座りたい人は、そこらにある噴水の縁石にでも座るという約束になっている場所なんです。私も当然、立ち見のつもりでしたが、私のすぐ側の噴水の縁石に座ってた人が突然お帰りになってしまったので、座る事ができました。ラッキー。正直、風邪でかなりフラフラ状態だったので、ちょっとの時間でも座れると有り難いんですよ。

 この会場は音楽を聞くには割と良い環境のはずでしたが、今回はそうとも言えませんでした。と言うのも、ちょっと風が強かったかな? で、その風が客席側から舞台側に吹いていたので、音的にはちょっと厳しそうだったかな? おまけに、その風が少し冷たくて、客はもちろん、演奏者さんたちにも、肌寒い感じでした。あと、この会場には噴水があるのだけれど、その噴水が演奏中も止まず、水音が結構していました。

 それらがなければ、鳥のさえずりと共に、いい感じで音楽が響きあって、演奏が楽しめる良い場所なんですがねえ…。

 本番前にリハーサルで弦楽器たちが演奏していましたが、私、舞台のすぐ側に居たけれど、楽器の音はロクに聞こえませんでした。楽器から出た音が強風でみんな、奏者の後(つまり私たちのいる側とは反対側)に流れて行ってしまっているようでした。こりゃあ今回は、厳しそうだな…という感じだったんです。

 本番が始まり、ソプラノさんが登場しました。ここの会場での演奏は生音演奏なんですね。弦楽四重奏ですらロクに聞こえない状況なのに、ソプラノさんの歌では、どれだけ聞こえるのだろうかと不安でヤキモキしながら待っていました。

 『あなたが欲しい』の第一声で、その不安はかき消されました。実に見事な声で朗々と歌い始めたからです。

 元々、ちゃんとした歌手の歌声は、弦楽器などよりも、ずっとボリュームがあるものですが、楽器のようにカタチが決まっているモノと違い、歌手の場合、様々な状況に応じて、響きの質を変える事ができますから、その場その場に応じた歌い方ができるわけです。こういう向かい風の中で歌う時と、無風状態のホールの中で歌う時では、歌い方は変わるわけで、今回、このソプラノさんは、かなり直進性の強い声で歌っていました。

 それこそ客席に向かって、機銃掃射をするように、ズワワワ~って感じで声を飛ばしてきます。声が私の方に向かって飛んでくる時は、実に豊かな声で聞こえます。余所に向かって歌っている時は…少々物足りなく聞こえます。でも、これは仕方ないのです、会場の状況が悪く、声を全面展開できない状態なら、声の方向性を強めて、扇風機の首振りよろしく、声を届けていくしかないからです。

 一曲歌い終わって、しゃべる時はマイクを使うのですが、マイクを使った途端に、言葉の明瞭性が失われ、何を言っているのか全然分からなくなりました。こんな反響の多い場所で、P.A.使ったちゃダメだろ? それに、P.A.で拡声した声の方が、生歌声よりも音量が小さいって、どういう事?(笑)

 二曲目の『愛の小径』は歌で聞きましたが、この曲を歌として聞いたのは…もしかすると、今回が始めてかもしれません。この曲、フルートではよく聞くんだよね…。歌は歌詞が付いている分、メロディーがカラフルになります。フルートで聞いても、きれいなメロディーだなあと思ってましたが、歌で聞くと、フルートで聞くメロディよりも、数倍輝きあふれるメロディに聞こえました。やはり、楽器と声では、音色の幅が違いすぎて、比較対象にすらなりません。数種類の母音が使える声は、旋律楽器としては、楽器よりも圧倒的に有利だな、と感じると同時に、この曲(フルートで吹きたいとは思わないけれど)フランス語で歌ってみたいなあと思いました。

 ソプラノが二曲歌うと、次はお休みで、ヴァイオリン主役のインスト曲になりますが、せっかく一生懸命に演奏しているのですが、向かい風のために、ロクに聞こえません。音楽は聞こえないと話にならないので、ちょっとかわいそうでした。ちなみに『タイスの瞑想曲』はヴァイオリン曲でして、私がよく聞くフルート版の方がアレンジものなのですが、フルート版で聞き慣れているせいか、正直、オリジナルのヴァイオリン版には違和感を感じました。これって、インスタントラーメンばかり食べている人が、店に入ってラーメンを食べた時の違和感に通じるものがあるんでしょうね。

 シャンソンは、ゴダイゴ形式で歌ってましたよ。つまり、1番は原語(この場合はフランス語)で、2番以降は日本語。このやり方だと、原語のオリジナルな響きが楽しめた上、歌の世界もよく分かるので、良いやり方だと思います。

 で、次のインスト曲は…なんと、カルメンの『間奏曲』でした。これはいただけないですね。だって、この曲はフルート曲であって、ヴァイオリン曲ではないです。ヴァイオリンのための曲は、この世に掃いて捨てるほどたくさんの名曲があるのに、わざわざ他楽器のための曲を取り上げて、ヴァイオリンの長所を捨てなくてもいいのに…。フルートのように、オリジナル名曲が数少ないのなら仕方ないですが、ヴァイオリンがこんな事をやっちゃダメですよ。実際、ヴァイオリンよりもフルートの方が、この曲は良いと思いますよ。

 で、最後は『ロミジュリ』と『ボエーム』からアリアを一曲ずつです。とてもよかったですよ。今までが慣らし運転で、ここでアクセスをグっと踏み込んだ事が分かりました。歌はやっぱり、こうでないと(笑)。

 いやあ、歌を聞く条件としては、良くなかったですが、それをモノともしなかった演奏に感謝感謝です。

 すっかり眠気がふっとんだ私でした。

 続きはまた明日。

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コメント

  1. だりあ より:

    毎年恒例の音楽祭ですね、行ったこともない会場ですが、あちこち想像しながらめぐっているつもりでずっと楽しみに読ませていただいています。

    >インスタントラーメンばかり食べている人が、店に入ってラーメンを食べた時の違和感・・・
    なんともわかりやすいたとえで思わず笑ってしまいました。もともとバイオリンの曲でフルートアレンジされた曲というのはけっこう多いですね。音域がかぶっているからコンバートっていうかアレンジがしやすいんでしょうか。バイオリン曲の低音域だけなんとかしちゃえばあとはそのままフルートでいけますもんね。

    私はどちらかというとオリジナルの楽器からフルートにアレンジされたほうが耳に慣れてやさしいので好きなんです。擦る音とかはじいたりひっかいたりする音とか叩く音とかは好みの点ではどうも苦手なんですよ・・。なので好きなピアノ曲も長く聴いていると頭痛がしてきます。体調の悪いときは無伴奏のフルート曲しか受け付けないんです。
    ソプラノさん、すごいですね。やっぱり人間の声の歌唱こそが音楽の根っこなんですね。

  2. すとん より:

    だりあさん

     どの曲でも言えることなんですが、作曲家さんは、作曲をする時『誰が何の楽器を用いて、その曲を演奏するのか』を念頭において、その枠の中で最大限に自分の力を発揮していくものです。技巧的な奏者なら、その技術が披露できるような曲にするし、パワフルな人なら、その力強さが伝わるように書くものです。楽器もそう、ヴァイオリンならヴァイオリンの特性を最大限に引き出すにするだろうし、フルートならフルートの特性を、ピアノならピアノの特性を生かした曲にするはずです。つまり、作曲という行為は、本来的にはオーダーメイドなものなんです。

     アレンジものって、他人のために作った曲を、全く違う人や楽器のために作り直す行為であって、それって、オーダーメイド服を元にして既製服を作るようなものだと、私は思ってます。

     なにも既製服がダメとは言いません。とりわけクラシック曲は、作曲家が念頭においたオリジナルの演奏者さんはみんな死んでしまっているわけで、曲と演奏者が一対一でしか対応できないものなら、すべてのクラシック曲はアウトですからね。

     ビートルズの曲は、クラシカルにアレンジしても、ジャズやヒップホップやラテンにアレンジしても良いですが、やはりビートルズ本人の演奏が一番いいと私は思ってます。そして、ビートルズでなくても、四人編成のロックバンドが英語で歌っている演奏が、その次に素晴らしいのです…と、私は考えるわけです。

     だから私は、ヴァイオリン曲として作曲された曲はヴァイオリンで演奏されるのが一番いいし、フルート曲として作曲された曲はフルートで演奏されるべきだと思ってます。

     これは私の個人的な好みの問題であって、他人に強要するべきことではないと分かっています。あくまでも、私自身の好みの問題なんです。

     まあ、だから痛いのは、笛吹きとしての自分なんです。

     フルートには有名な名曲というのが実に少ないですね。歌やピアノやヴァイオリンのようなわけにはいきません。どうしても、フルートで、本来は歌だったり、ピアノ曲であったり、ヴァイオリン曲であったりするものを、アレンジして吹かないといけないわけで、そこが自分的にはつらいなあと感じています。

  3. アンダンテ より:

    > 元々、ちゃんとした歌手の歌声は、弦楽器などよりも、ずっとボリュームがあるものですが、
    これはもう、肌で感じています。

    前にホームコンサートをしたとき、プロのテノール歌手(ゲストとして来ていた音大生(ソプラノ)の彼氏)が歌ったときは、窓ガラスが割れそうでした(笑) あの歌声にわが家のリビングは狭すぎる。

    先日やった「ばんたの(素人が伴奏を楽しむ会)」では、最初、録音レベル調整のために、いちばん大きな音を出しそうなピアノ弾きに弾いてもらって「これで大丈夫」と置きっぱなしにしてたのですが、実はそれより大きいのがソプラノで、一部振り切れました(^^;;

    それにしても、ただ大きいのではなくて「直進性」なんて調整もできるんですね!! びっくりです。ピアノ弾きも、「ppでも遠く高くホールの奥まで響く音」とか言ったりしてますがわけわからんです。プロってすごいね。

  4. すとん より:

    アンダンテさん

     歌の場合は、音のエネルギーを操作することができるので“窓ガラスが割れそうな”気がするような声を出すことが可能なんですね。

     オーディオマニア&音楽家の友人に言わせると、一番音のエネルギーが大きいのがテノール歌手の歌声なんだそうで、テノールの歌声を聞いている時に、ついうっかりボリューム調整をし忘れて、何度かスピーカーをオシャカにしてしまったそうです。それぐらいオーディオ的にはパワフルなんだそうです。

    >ただ大きいのではなくて「直進性」なんて調整もできるんですね!!

     あと、声の横に広げて出したり、上から落としてみたり、つつみ込むように歌ってみたりと、本当に上手な歌手は、その会場に合わせたベストな歌い方を瞬時に選んでやりとげてしまいます。すごいですね。

    >ppでも遠く高くホールの奥まで響く音

     針のように幅の細い声を゜会場の一番奥の天井と壁がぶつかるあたりにぶつけて反響させるような声の使い方だろうと思います。大きな声も幅を細くして、声の射程を狭くすると、射程外の客から、極めて小さく聞こえるものです。それでppの効果を出しつつ、遠くの壁で反響させると、程良い感じに聞こえるのだろうと思います。…私はあっさり書いてますが、これって、実行するのは、すごく大変で難しい事だと思います。プロでもなかなかできないですね。

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