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テノールとハイバリトンの間で…

 今週の声楽のレッスンは、私はお休みで、妻が代わりに行きましたので、今回は声楽エッセイをお送りします。

 一般に楽器は、小さい楽器ほど高い音を出すのが得意で、大きな楽器ほど低い音を出すのが得意です。また音色的には、小さな楽器は耳につく音を出しやすく、大きな楽器は深い音色の音を出します。

 日本人は、男女ともに外国人と比べると、骨格的に小さい事は否めません。ですから、カラダを楽器として使う声楽では、日本人は本質的には、高い声を出すのが得意なはずです。実際、日本女性の大半は高声を担当するソプラノです。でも、日本男性の大半は…高声を担当するテノールではなく、低声を担当するバリトンなんです。つまり日本男性はカラダが小さいにも関わらず、声は低い…って事になります。これは、ちょっと面白いですよね。

 もっとも、日本男性の多くは、バリトンさんと言っても、カラダが小さいためでしょうか、バリトン特有の深い音色の声を持っていない方も多いです。もちろんアマチュアさんに多いのですが、実はプロ歌手の方でも、そういう音色の声の方をたまに見かけます。例えば、第九の演奏会などで、バリトンとテノールが歌っていると「どっちがバリトンで、どっちがテノール?」なんて、聞きながら「???」と思う事もしばしばあります。

 そんな、バリトン特有の深い音色を持ち合わせていないバリトンさん、ぶっちゃけ、テノールっぽい音色のバリトンさんの事を“ハイバリトン”と呼びます。日本人はカラダが小さいですから、どうしても声に深みが不足しがちで、それゆえに「音色はテノールで、音域はバリトン」と言うハイバリトンの方が大勢いらっしゃるのだと思います。

 もっとも、ヨーロッパあたりでハイバリトンって言えば、深い音色と美しい高音域の両方を兼ね備えたバリトンの事を言うんだろうと思います。ヘルマン・プライとかレオ・ヌッチのような感じね。それを言い出すと、いわゆる日本のハイバリトンは、向こうのハイバリトンとは、ちょっと違うのかもしれません。

 クチの悪い人は、日本式のハイバリトンの事を、バリノールとかテノリトンと言います。バリトン+テノールでバリノール。テノール+バリトンならテノリトン、ですね。ま、あくまで俗称です…ってか蔑称かな?

 閑話休題。日本の男性の多くは、ハイバリトン、なんだろうと思います。『“カラダが小さい”=“高い音が得意”』ではなく『“カラダが小さい”=“深い音色が出づらい”』という方向になっているみたいです。

 ま、確かに我々日本人が日本語を話しているのを聞くと、ヨーロッパの人が自分たちの言葉を話しているのと比べ、その印象は、どうしても、浅くて平べったく感じます。

 ですから、カラダの大きさの件もあるだろうし、日々使っている言葉の影響もあって、我々の声は“高い”方向ではなく“浅くて平べったい”方向に行きがちなんだと思います。

 私も、素の声は、平均的な日本人のそれであって、たぶん、浅くて軽くて、あまり高いところが得意ではない、ハイバリトンなんだと思います。

 ハイバリトンという存在は、クラシック系の歌をやる上では、なんとも中途半端な存在です。もちろん、最初からソロ歌手を目指すなら、自分の声にふさわしい曲だけを選んで歌えばいいわけですから「ハイバリトンですが、何か?」と言っていればいいんだと思います。

 問題は、私もそうですが、合唱から歌をスタートする場合です。

 合唱では、男性のパートは、高音部のテノールと低音部のバスの二つに分かれます。普通、バリトンの方は低音部のバスを歌うのが常ですが、ハイバリトンだと、バスをやるには声の深みや低音が足りません。かと言って、テノールをやるには声の輝きや高音が足りません。そうなんです、合唱ではハイバリトンの居場所って無いんですよ。

 ですから、一般的な男性が合唱を始めようとした時は、ここで人生の選択をしないといけないのです。つまり「高い音を頑張って出して、テノールに行くか」「深い音色を出して、バスに行くか」なんです。

 と言うのも、高い音って、今は出せなくても、努力次第では出せるようになれるから、高音獲得をして、ハイバリトンからテノールに転向する、というのが可能だからです。それにもう少し言えば、高い音は努力次第で獲得できますが、実は低い音って、その人の器質的な特徴によるので、出ない人は何をどうしても出せません。つまりハイバリトンがバスに転向するのは、とても難しいのです。

 もっとも「高い音は努力すれば獲得できる」と言いますが、その努力は半端なく大変だったりします。しかしトライする価値はあると思います。

 一方、低い音の出ない人は、いくら努力をしても器質的な限界があるので、出るようにはなりませんが、合唱におけるバスパートは、バスと言っても、ソリストのバスのような低い声を要求しません。大半の曲はバリトンでも、十分に歌える音域までしか使用しません。ハイバリトンの人でも、最低音に近いいくつかの音だけあきらめれば、十分にバスパートに対応できるわけです。ただ、ハイバリトンの場合、問題はその音色でして、そのままでは低声を歌うには音色が明るすぎるので、声の音色をもっと深くするようにしていかないと色々と問題が生じます。

 高声に行くか、低声に行くか、この選択は、人それぞれだと思います。私の場合は、そこで、高声へハンドルを切りました。「努力を惜しまない」性格だったから…と言うよりも「テノールな」性格だったからなんですが(笑)。

 合唱団にいた頃は、ロクに声の出し方も知りませんでしたから、そりゃあテノールをやるのは、大変でしたよ。力任せに歌ってました。でも、周りのテノールもそんな人ばっかりだったから、皆が皆、若さ故に無茶な発声をしていました。たぶん、私のノドが強いのは、その頃に無茶をやって散々鍛えたからなんだろうと思います。

 それに合唱では、どんなひどい声で歌っていても、他人に聞こえない程度の音量なら、何の実害もないので、放置されるんですね。実害のある声量の持ち主は…追い出されるだけですが、若い頃の私は、音量もさほど無かったので、大した害をを与えられなかったので、合唱団にいさせてもらえたんだと思います(今は声量がありすぎる上に、音色がギラギラなので、合唱は無理です:笑)。

 キング先生に師事する様になってから、やっとまともに、自分の声と向かい合う様にありました。先生の元で歌を習い始めて、そろそろ5年になりますが、ようやく最近、少しずつ高い方の声が出るようになってきました。もっとも高い方の声と言っても、せいぜいがAsまでなんですが…。テノールと名乗るには、最低限の音ですね(汗)。せめて、もう半音高いAまでは何とかしたいものです。Aまで出れば、ミュージカルソングやクラシカル・クロスオーヴァーな曲のほとんどが歌えますし、オペラアリアもかなりイケる様になります。もっともオペラアリアを一通り歌うためには、Hi-Cまでが必要なので…オペラって厳しいですよね。

 話を戻しますと…つまり、発声をきちんと学び始めて、5年たって、ようやく最低限のところにたどり着いた…というわけです。高い声を獲得すると言うのは、それぐらい本当に大変です。それでもまだあと半音足りません。今までも大変でしたが、その半音を獲得するために、これからももっと頑張りますよ。きっと今まで以上に大変でしょう。でも、私はめげないです。もはやジイサマだけれど、これからも頑張っていきますよ。

 スタートがハイバリトンで、そこからテノールになった歌手と言えば、プラシド・ドミンゴやカルロ・ベルゴンツィが、そうらしいです。ああ、二人とも私が大好きなテナーです。彼らのような声で歌えたら…すごくいいだろうなあ(憧)。

 なので、彼らをアイドルとして、でも目標はパパロッティにおいて(笑)、これからもテノール修行をしていきたいと思います。

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コメント

  1. おぷー より:

    すとんさん、私、元々コントラルトだったのですよ。
    でも、こちらの先生方が、「貴女は、アルトではない。」と仰り、
    変えるように努力を可成りやって現在に至ります。
    低い声のチェンジの場所が、ソプラノだったら、D・E(真ん中のドの隣です。)
    なのに、私のは、低めのGだったりします。
    上のチェンジは、F/FISなので、普通のソプラノのチェンジなんですけどね。
    私のソプラノの音色は、欧州人の地声っぽいソプラノの音色ではないですね。
    話し声が低いので、不思議に思われているみたいですよ。(笑)
    今日もソプラノで頑張って歌ってきました。(マタイの最高音は、Hですね。)
    高音は、力を抜くと出ますよ。リラックス、ね。

  2. すとん より:

    おぷーさん

     声は人それぞれだから、ちっとぐらい違うぐらいの方が個性的でいいです(かな?)。

     それにしても、チェンジとチェンジの間が広いと言うのは、中音域の発声が楽って事なんじゃないですか? 他の皆さんが苦労するあたりが楽に歌えるって、優越感に浸りませんか?

     声種は“出せる音域”ではなく“チェンジの箇所”で判断するのが良いそうですよ。もしそうなら、上のチェンジの箇所が“F/FIS”なら、ソプラノで正解じゃないですか? 私のチェンジ箇所もそのあたりなので、テノールで正解だろうと思ってます。

     どちらにせよ、歌声って楽器だと思います。楽器だから、お手入れが必要だし、調整も必要だし、毎日鳴らしてやる事も大切なんだろうと思います。

    >高音は、力を抜くと出ますよ。リラックス、ね。

     そうなんですよね~。“力を入れる事”って簡単ですが“力を抜く事”って、難しいです。リラックスって、心身ともにリラックスしていないとできない訳です(笑)。

     頑張らないように頑張っていきます(爆)。

  3. GON より:

    すとんさん
    今日のブログの内容はは僕の現状そのままですね。(笑)
    混声合唱団ではバス、男声ではバリトンですが、いずれも高音になるとどうしても軽く明るい音になってしまいます。特に混声の先生には、高い音でも深い音を出すようにしばしば注意されます。
    男声の方でも一旦テノールにコンバートされたのも、高音が出るからではなく、
    音色が合わないからと理解はしています。
    が、テノールで高い音をいっぱい、いっぱいで歌っているストレスは結構ありました。
    個人レッスンでは、少しずつ高い音域に伸びてはきているのですが、本来のテノールの音域に到達するにはまだまだ時間がかかりそうですので、
    当分の間はハイ?バリトンを続けていくことになるのかな。
    それに微妙な旋律でハモっていくこのパートも結構好きだったりします。
    そういうことからいうとテノール向きの性格ではないかも知れませんね。(笑)

  4. すとん より:

    GONさん

    >そういうことからいうとテノール向きの性格ではないかも知れませんね。(笑)

     かもね(笑)。別にテノールがハモリが嫌いと言うわけじゃないですよ。でも、テノールって、本音で言えば『自分さえ目立てば良い!』とか『オレが主役!』とか『皆さん、バックコーラス、よろしく~!』とかまあ、言葉にするとメチャメチャですが、オレサマ体質なのが、最大の特徴ですからね(笑)。例え合唱であっても、ソリスト集団のような雰囲気があるのが、テノールさん達ですから(爆)。

     ただ、言い訳させてもらうと、テノールたちが高音を歌うってのは、それぐらいの気持ちが無いと、とてもやれないほどにシンドいんですよ。高音を一発出すと、心もカラダも声も激しく消耗します。これは、たぶん、テノールにしか分からない事なんじゃないかな? それだけに、カツーンと高音が決まった時は、脳内にアドレナリンがブワ~っと出てくるんですね。もう、幸せな気分ですって。だから、テノールって、歌い終わると、たいていハイなのは、そういう理由なんですね(笑)。

    >本来のテノールの音域に到達するにはまだまだ時間がかかりそうですので、

     かかるよぉ~。実にかかるよぉ~。覚悟しておかないと(笑)。

     でも、あきらめずにチャレンジし続けていれば、いずれは得られるもの…だそうです。お互い、コツコツと頑張ってゆきましょう。

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