今年のラ・フォル・ジュルネの東京国際フォーラムでの開催は、わずかに三日間。とは言え、三日とも出動していたら死んでしまうので、中日は家で大人しくしていました。この日は、NHKがラ・フォル・ジュルネの生中継をしてくれたので、私はFMを中心に聞いてました。いいね、家に居ながら、ラ・フォル・ジュルネを楽しめるなんて。
で、最終日の三日目は出動しましたよ。そう、まっすぐ、東京国際フォーラムに向かいました。息子君は昨日から、祖父母の家に遊びに行きましたので、今日は夫婦二人きりの強行スケジュールで頑張りました。
エンゲラーのショパン
会場に到着して、まっすぐ向かったのは、ガラス棟のG409号室。普段は会議室として使っているこの部屋が今回のコンサートホールです。わずかに153席。私はまたしても、センターの前から2列目という、ベストな位置をキープ。いやあ、ラ・フォル・ジュルネでは、いつも座席に恵まれている私です。
演奏者は、ラ・フォル・ジュルネのビッグマムこと、ブリジット・エンゲラーです。曲目は変更があって、事前の予定ではショパン半分、リスト半分のはずでしたが、実際はオール・ショパンに変更になりました。
おやおやと思っていましたが、その理由はすぐに分かりました。エンゲラーさん、風邪をひいて、すごく体調が悪いんですよ。まだ午前中なのに、最初から疲労困憊だし、息はゼエゼエいっているし…。
後で聞いた話ですが、この日、体調が悪かったのは、エンゲラーさんだけでなく、多くのピアニストたちの体調が悪く、曲目変更とか、サイン会のキャンセルとか、コンサートの演奏者の交代とかがあったそうです。一体、何があったのでしょうか? 誰か、毒でも盛ったのかい?
とにかく、体調不良だったので、体力的にキツいリストを避けて、手慣れたショパンにしたのでしょうね。でも、私的には、オール・ショパンでかえって良かったです。
というわけで、曲目は以下の通り。
ショパン作曲「ノクターン 嬰ハ短調 KK IV a-16 [遺作]」
ショパン作曲「3つのノクターン op.9」
ショパン作曲「2つのノクターン op.27」
ショパン作曲「2つのノクターン op.48」
一曲目のノクターンは「戦場のピアニスト」のテーマ曲、作品9-2は、いわゆる「ショパンのノクターン」と呼ばれる曲で、映画「愛情物語」のテーマ曲です。そんな映画で使われた曲も含まれた、割とポピュラーな曲で構成された、聞きやすいプログラムでした。
ブリジット・エンゲラーというピアニストは、ホンモノのピアニストですね。曲ごとに音色を変えて演奏しています。やさしくて柔らかい音から、柔らかいけれど芯のある音、粒立ちのハッキリした音を奏でるかと思えば、水面に落とした滴のような音まで。曲の性格に合わせて、巧みに音色をチョイスして演奏するんですよ。
私は正直、今まで「ピアノなんて猫が弾いても音が出る」とか言って、音色の点では軽くみていたフシがあります(ピアニストの皆さん、ゴメンなさい)が、できる人がやれば、音色のコントロールもバッチリな楽器なんですね。…しみじみです。
さらに、この人の特徴なんでしょうね。テンポはあまり揺らさずに、デュナーミクの幅広さで勝負をしてきます。小さい音は、本当に小さくて薄くて軽いのに、大きな音は部屋が割れるんじゃないかと思うほどに大きく。
演奏は良かったですよ。何と言っても、ピアノの音が美しくて…。でも、やはり、CDには、この音は入らないよねえ…。
それと、エンゲラーさんは、演奏していて、とても息苦しかったようです。時折、演奏中にコホコホやってましたが、そんな事は全然気にならないくらい、立派な演奏でした。これで体調が万全だったらと思うと…やっぱり、すごい人です。
朝の一番がこれでした。いやあ、このコンサートだけで、すでにお腹一杯です。これで1500円とは、安いねえ…。
体調が本調子でないのだし、ラ・フォル・ジュルネってアンコール無しのお約束だから、やるべき曲の演奏を終えたら、さっさと解散にしてもいいのに、エンゲラーさん、観客の拍手に答えて、アンコールをしてくれました。それも三曲も。
シューマン作曲「インテルメッツォ」
ショスタコヴィッチ作曲「ポルカ」
ラフマニノフ作曲「ポルカ・イタリアーノ」
ショパンの後のシューマンは、口直しに最高ですね。さらに、ショスタコヴィッチやラフマニノフまで。これらのアンコールだけでも、たぶん20分くらいあったと思いますよ。お腹一杯食べた後に、これでもかっと、デザートの山が出てきたような感じです。それにしても、ショパンの時に、音色の多彩さに驚きましたが、アンコールの曲もまた、全然違う音色で演奏してました。エンゲラーさんは、単に音が美しいというだけでなく、本当にたくさんの音色を持っているピアニストなんだと思いました。この多様な音色がこの人の武器なんだと思いました。
私は、このビッグマムのファンになりました。すごいピアニストだよ、この人。
続きは、また明日で~す。
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