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ラ・フォル・ジュルネに行きました(第3日目:5月4日の話 その4)

 話は5月4日の7時から始めましょう。夜は(疲れてきた事もあるので)移動はせずに、トラウトに腰を落ち着けることにしました。

クラシックソムリエ・トークサロン(平末広&本名徹次+ベトナム交響楽団のメンバーによる弦楽四重奏団)

 トラウトは地下2階の一番奥にある広い場所です。昼間は数多くのキッズプログラムをやっている場所です。夜になると子どもは帰るので(当たり前)、大人の雰囲気たっぷりの「クラシックソムリエ・トークサロン」の会場に変わります。これも半券無料のプログラムです。こうしてみると、今日の私たちは、有料と半券無料のプログラムばかりに参加していました。会場では(本当の誰でも参加できる)無料プログラムが結構あるのですが、そういうところはやはり素晴らしく混むので、なんとなく敬遠してしまうのですね…。

 この日はクラシックソムリエ・トークサロンが2連発で行われました。他の日はトークサロンと(大人のための)ワークショップの二本立てなのですが…。まあ、ワークショップも楽しそうなのですが、それはまた次回の機会ということで、今年はトークサロン二連発を楽しむことにしました。

 まず最初のソムリエ・トークサロンは、クラシック雑誌編集者(平末さん:こちらの方がクラシックソムリエです)と指揮者(本名さん)のトークに途中から弦楽四重奏団の方々が演奏で加わりました。ちなみに弦楽四重奏団のメンバーはベトナム国立交響楽団の方々だそうです。それもプリンシバルの方々。(セレクトメンバーとは言え)ベトナムのオケの演奏を聴くのは始めてでしたので、ちょっぴりワクワクしてました。

 トークの内容は、ベトナム国立交響楽団の紹介でした。オケの公式ホームページはこちらですが、英語とベトナム語です(笑)。

 ベトナム戦争後に少しずつ国が復興してきて、それに伴って文化の面でも少しずつベトナムが前進してきたという話や、日本の企業が地味に、しかし着実に、ベトナムに援助してきたことや、少しずつ成長しつづけているオケとそのメンバーの話とか、普通に暮らしていたら知ることのない話ばかりで大変おもしろかったです。

 時間が半分を過ぎた辺りで四重奏団の方々が登場。オケのプリンシパルクラスの人達だから、オジサンや外人さんだとばかり思っていたら、全員ベトナムの若い女性。民族衣装であるアオザイをきれいに着こなしての登場です。

 最初に軍隊行進曲の弦楽四重奏版を演奏してくれました。リズムの切れは悪いし、何より楽器が全然鳴っていない、あちゃ~と思いながら聴いていました。ベトナムはまだまだだなあ…なんて思っていましたが、演奏後、指揮者の本名氏が、韓国以外のアジア諸国に共通する音楽性、特にビートの浅さについて話されました。もちろんこのアジア諸国の中には、以前の(今でも?)日本も含まれています。

 楽曲には、それ自体が求めるビートの深さというものがあるそうです。またオーケストラにはそれぞれの色というものがあり、それぞれのビートがあるそうです。ベトナムを始めとして、アジア諸国のオケのビートは浅いのだそうです。だから、浅いビートのオケが深いビートを求める楽曲をやると…苦労するのだそうです。本名氏の意見では、シューベルトは深い深いビートを求める音楽だそうで、そういう意味ではベトナムのオケはとても苦労しながらシューベルトを演奏するのだそうです。

 確かに昔の日本のオケだって、個々の演奏者の腕は決して悪くないのに、オケになって音を出してみると、なんか向こうのオケとは違った響きしか出せなかった時代ってありますよね。たぶん、あの日本の状態が今のベトナムの状態なのでしょうね。だからベトナムのメンバーの演奏を下手というのは、本当は筋違いの話なのかもしれない。自分たちの苦手とする分野で一生懸命やっていて、ご苦労さまって言ってあげるべきなのかも…。もっともトラウトナイトは半券無料だから、私も鷹揚に構えてますが、有料コンサートでこれだったら…怒り狂っているかもしれません、なにしろ心狭いですから、私。

 二曲目はベトナムの作曲家であるホアン・ゾーン(聞き書きなので、多少違うかも)氏の「祖国の思い出」という曲を演奏しました。四重奏楽団の方々は、この曲はきちんときれいに、そして素晴らしく演奏してました。この演奏を聞きながら、さっきのビートの浅さ深さを思い出しました。そして、最初のシューベルトはやっぱり下手なのではなく、色の違い、ビートの浅深の違いなのかな…と改めて思いました。

 「祖国の思い出」という曲。どこかチャイナっぽくって、でもチャイナとはやっぱり違っていて…なんかベトナムの文化的なポジションが期せず表現されているおもしろい曲でした。聴いているうちにアオザイがチャイナドレスに見えてくるから不思議。知らずに聴いたら、バロックのあまり有名ではない曲を中国人がアレンジしました~って思ってしまうかなあ…という作風。午前中に聴いた藤倉氏の作品とは、全く別次元の作品です。

 この曲の後で、質問タイムがあって、会場の方々から弦楽四重奏団の方々への質問がありました。その中で「日本の歌で知っているものがあったら教えてください」という質問に、「花」「さくら(さくら)」などの日本の童謡や古典的なメロディの曲をいくつか挙げていました。これらの曲は彼女たちが日本関係の施設などに慰問に行く際に演奏する曲なんだそうです。

 その時に「この人たちって本当に音楽好きなの?」って思いました。だって、ベトナムに限らず、東南アジア全般の都会ではJ-POPって、スゴイ人気だし、日本人アーティストって向こうの都会ッ子の憧れでしょ。ベトナムじゃあテレビで日本の「ミュージック・ステーション」を放送しているらしいし…(その情報はここから)。向こうで普通に暮らしていたら、耳にする日本の音楽は、絶対に童謡の類ではなくJ-POPのはず。なのに「知ってる日本の歌は?」で出てきたのが自分たちのレパートリーにしている曲だとは…。つまり市井の流行歌を全く知らないというわけでしょ。彼女たち、音楽を楽しみで聴くことをしているのかなあ…。

 三曲目が、このオケの事務局長であり、ベトナムを代表するチェロ奏者にして作曲家であるノー・マン・クォン(これも聞き書きだからちょっと違うかも)氏の「お米の太鼓」という曲。これは「祖国の思い出」よりもずっと現代ぽい曲でおもしろかったです。旋律自体はベトナム民謡のものが散りばめられているそうなので、現代的な手法を使いながらも親しみやすいのは、そのせいなんでしょうね。しかし、やはりこの曲にもチャイナの香りが色濃いです。ベトナムは長いことフランスの植民地だったし、その後はアメリカ(と中国)に支配されていたのだけれど、でも文化の根っこにあるは、やはり中国文化。それが無意識に頭を持ち上げてチャイナの香りとして感じられるのでしょ。

 でも、好きだな、ベトナムの現代音楽。「祖国の思い出」と「お米の太鼓」の2曲は気に入りました。質問をしてくれた人には、この二曲が入ったCDがプレゼントされました。ああ、すごくうらやましい。このCDが発売されていたら、絶対に買うのだけれど、非売品なんだそうです。ああ、手に入らないとなると、ますます欲しい!残念無念。

 で、ベトナムの方々の話が終わって、30分の休憩をはさんで、次のトークサロンが始まるまでの休憩中に、隣のシューベルト市場をのぞいたら、ピアニストのベレゾフスキー氏のサイン会がいい感じでやってました。「今並べばサインがもらえる!」 でも演奏も聞いていない方のサインをミーハー気分だけでもらいに行くのはなんか違う気がしたので止めましたが…今はちょっと後悔してます。CDを買って、それにサインしてもらえば、何も後ろめたい気持ちを感じることなかったのになあ…。ふう。

クラシックソムリエ・トークサロン(田中泰&ルネ・マルタン)

 本日最後のプログラムは、会場もトラウトのままで、雑誌ぴあでクラシック担当の方(田中さん:当然こちらがクラシックソムリエ)とラ・フォル・ジュルネの芸術監督であるルネ・マルタン氏のトークでした。こちらは演奏家の方々は来ず、音楽は一切無しの、ベタな純粋トークショーでした。

 話は、ラ・フォル・ジュルネの世界各国での近況とマルタン氏の仕事ぶりの話と、来年のラ・フォル・ジュルネの話と、ショパン・ピアノ・プロジェクトの話でした。

 ラ・フォル・ジュルネの世界各国での近況の話は、その気になれば、出版物を漁ったりブログを検索すれば得られる情報ばかりですので、私は書かないでおきます。

 マルタン氏の仕事ぶりですが…彼はおそらく仕事中毒でしょうね。彼は有能なビジネスマンであると同時にディープなクラオタなのです。その二つの要素がうまく結合して出来上がったのがラ・フォル・ジュルネ。カラヤン亡き後のクラシック音楽界には久しく帝王がいませんでしたが、近い将来、彼がその座に付くのかな…と思いました。クラシック界の中心的ポジションが、演奏家(古典派くらいまで?)から作曲家(ロマン派)へ、作曲家から指揮者(20世紀)へと移り変わってきましたが、21世紀になった今、指揮者からプロデューサーへ変わってゆくのだとしたら、彼がその最有力候補なんだと思います。

 来年のラ・フォル・ジュルネは、すでに発表になっている通り、バッハです。マニフィカートをやるとマルタン氏は言ってましたので、マニフィカートは是非聞きたいものです。マタイやヨハネなどの大曲もやると言ってましたが、どういう形式でやるのでしょうね。これらもまた是非聞きたいです。教会カンタータや世俗カンタータも当然やるでしょう。きっとミシェル・コルボ氏はまた来日するでしょう。古楽関係者が大勢来日するそうです。古楽関係者には腕こきの合唱団がたくさんいます。とにかくバッハは声楽曲・合唱曲が大勢あるので、歌好きな私としては、これまた楽しみな作曲家でもあります。

 あと、周辺作曲家としてブグステフーデもやるそうです。うわあ、大好きなブグステフーデだよ。何やるんだろ、今から楽しみ。

 東京国際フォーラムにはオルガンがないのだけれど、バッハと言えばオルガンを連想する人も大勢いるでしょう。この件にはマルタン氏自身が「サプライズがあります」と言ってました。きっと、どこからかオルガンを調達してきて、すばらしいオルガン曲が聴けるようにするのだろうと思います。どんな方法を思いついたのかは分かりませんが、なにしろラ・フォル・ジュルネのようなビッグ・ビジネスを思いつき、それを実現化した人なのですから、きっと何かしでかに違いないので、期待して待っていることにします。

 ショパン・ピアノ・プロジェクトについては、私は書きません。こちらをご覧ください(とは言え、2008年5月9日の段階ではまだ工事中ですが(笑)。

 何はともあれ、このトークサロンはこの音楽祭の芸術監督である、ルネ・マルタン氏から直接話が聞けるというのが、最大のウリなのですから、話の内容がプレスリリースと被ろうが、ネット検索すれば分かる情報であっても良いのです。彼の口から直接聴いたという事実だ大切なのです(笑)。

 マルタン氏の話が終わったのが午後9時半。もうクタクタです。最後に少しだけシューベルト市場を冷やかしてから、まっすぐ帰宅しました。

 たった一日の体験だというのに、報告するのに4日もかかってしまいました(笑)。それだけラ・フォル・ジュルネを満喫していたのだと思ってくだされば幸いです。

 翌日は自宅でゆっくりしていたのは、言うまでもありません。一日おいて、5月6日の最終日のラ・フォル・ジュルネにも参加しました。その時の話は、来週します。今度は何回に分けて報告しようかな…(笑)

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