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2010年 ラ・フォル・ジュルネに行ってきたよ その2…ピアニストは手首でブレスよ!

 コロベイニコフ君に大満足な私は、次のプログラムに向かいました。次は、ガラス棟の6階で行われる、マスタークラスです。
 
 
マスタークラス(ピアノ)

 会場に着いたのは、開始30分前。それなのに、すでに満席で、私は立ち見になっちゃいました。でも、マスタークラスは座ってみるよりも、立って見た方がよく見えるので、むしろ願ったりかなったりですが、妻と息子君はつらかったみたいです。

 先生は、クレール・デセール先生。生徒さんは、今年、某音大を卒業したばかりの才媛。曲目は、なんとリスト作曲の『巡礼の年 第2年:イタリア 第7番「ダンテを読んで~ソナタ風幻想曲」作品161番』という大曲。こんな10分以上の曲。なかなか聞けないよ。これ、弾くだけでも、すごい大変な曲だってのは、ピアノ弾かない私でも分かる。すっごいヴィルトォーゾ系の曲です。

 とにかく、この曲を、大した破綻もなく、最初から最後まで弾ききった、生徒さん、すごいです。テクニック抜群です。ピアノの音色が、コロベイニコフ君を聞いた後だったので、ちょっと残念かなって思ったのは、仕方のないことです。でも、コロベイニコフ君とこの生徒さん、ほとんど同じ年なんだよね。

 デセール先生曰く「この曲は、元々がオーケストラの曲をピアノ用にアレンジしたものだから、ピアノ曲のつもりで弾いてはダメ。あくまでピアノでオーケストラを演奏するつもりで弾くこと。だから、あなたはピアニストではなく、指揮者のつもりで演奏しないといけません。常に、それぞれのフレーズが、本来はどの楽器に当てられたフレーズなのかを意識し、その楽器の音を再現するつもりで演奏しないとなりません」と、いきなり生徒さんのピアニスティックな演奏を全否定。曲の最初のフレーズから直しが始まっちゃいました。

 細かな事を指導していましたが、ここでは先生の言葉を列記していきます。

・pppからfffまで、強弱の幅があるけれど、それを単に、柔らかい・強いの感覚で演奏してはいけません。柔らかさの中にあるもの、強さの中にあるもの、それを表現しないといけませんし、あなたが指揮者なら、必ずそうするはずです。

・曲の中で、天国を描写している部分と地獄を描写している部分があります。その違いがはっきりと聞こえませんでした。きちんと、それらを弾き分けてください。

・上腕はなるべく脱力をして、しなやかな腕使いで演奏してください。絶対に、カチカチ弾かないように。

・弦楽器のフレーズは弦楽器らしく演奏してください。ピアノのハンマーが弦に当たる音など聞きたくないです。

・ホルンの箇所は、ことさらにレガートを強調してください。

・このパートは歌手が歌っています。歌手にはブレスが必要です。ピアニストは手首でブレス取ってください。

・ここは、右手は金管のコラール、左手は弦のビブラートです。右手と左手をきちんと弾き分けてください。

・練習する時は、テクニックだけでなく、曲の雰囲気も同時に最初から練習するようにしましょう。

 はっきり書きます。生徒さん、可哀相でした。だって、生徒さんが用意してきた方向と、先生が求める方向が全然違うんだもん。生徒さんは、ピアニストとして、この曲を演奏したのに、先生がいきなり彼女の演奏を全否定して「ピアノじゃなく、オケの響きで!」って言うんだものね。もう、大変なレッスンになっちゃいました。

 でも、このマスタークラスを見ていて、アレンジものを演奏するって、どういうことなのかなって、考えちゃいました。

 アレンジした曲と言うのは、アレンジされたのだから、すでにこちら側の曲として、原曲のイメージを無視して、新たな曲として演奏するべきなのか、それとも所詮はアレンジものなのだから、原曲を前提において、原曲の再現を試みながら演奏するべきなのか?

 と言うのも、ピアノとか歌とかヴァイオリンとかと違って、フルートって、オリジナル曲って、ほとんどないでしょう。大半のレパートリーが、元々は、ピアノ曲だったり、歌だったり、ヴァイオリン曲だったりからの、アレンジものじゃない。ならば、演奏する時は、アレンジものであっても、フルート曲として演奏するべきなのか、それとも、原曲であるピアノ曲、声楽曲、ヴァイオリン曲としての再現を狙っていいくべきなのか? 決して、この問題は、フルーティストにも関係のない事ではないと思いました。

 少なくとも、最初にその曲を書いた作曲家は、その曲のメロディをフルートで演奏することなど前提にしていないわけでしょ。ピアノなり歌なりヴァイオリンなりの楽器を想定して、それらの楽器の特性に合わせて作曲しているわけです。その想定された楽器の特徴は、とりあえず忘れて、その美しいメロディをフルートのためにアレンジしたものを演奏するケースがたくさんあるわけです。

 これって、服で例えば、別の人のためのオーダーメイドの服をもらい受けて、多少の直しをして自分に合わせて着ちゃうようなモノです。ま、サイズの直しくらいならいいけれど、ズボンをスカートにしたり、パフスリーブをストレートに直して、余った布で胸元の装飾を作ったりみたいな、大胆なカットや付け足しだってあるわけで…、そういう事を考えると、オリジナル曲が豊富にある楽器は、こんな事に悩まされずに演奏できるわけで、うらやましい限りです。

 こんな事をウジウジ考えながら、次のプログラムに向かった私でした。
 
 
楽器体験

 次は、去年は子ども向けだった山野楽器の「楽器体験」です。これ、実は今年は“大人対象”になりました~、やったね~、パフパフパフ~。去年は、息子君の楽器体験を隣で指をクワえてみていただけの私でしたが、今年は堂々と体験してきちゃいました。

 まずはアルトサックスをプーです。フルーティストとしては、サックスという楽器は、なんか身近に感じる楽器ですよね。

 もっともあくまでも楽器体験なので、楽器を手にして、音を出したらお終いという、約5分程度の体験なので、どってことはない事なのですが、サックスには触ったこともなかったので、ドキドキハラハラの体験でした。音出しは…楽勝でした。コツは、ちょっと深めにマウスピースをくわえる事だね。たぶん、すぐに簡単な曲なら吹けちゃう勢いでした。

 吹いた感想は…まずはサックスの抵抗感にびっくり。でも、リード楽器って、基本的に閉じた楽器だから、その閉じた部分を息を吹き込んでこじ開けないと音が出ない訳で、最初から開きっぱなしのフルートとは、そこが違うわけだ。だから、サックスを吹くと、ちょっとだけ血圧があがるような気がしました。

 アルトサックスで味をしめた私は、もう一つチャレンジしちゃえ!というので、今度はトランペットに挑戦してみました。

 金管楽器は初体験だったので、ちょっぴり不安でしたが、案ずるより生むが安しって奴で、サックスよりも親しみを感じました。音出しは、速攻でマスターです。って、いうか、マウスピースをクチに当てた瞬間に、キレイな音が出ちゃいました。いやあ、自分でもあまりの簡単さにビックリしました。クチビルが振動しているという感覚は全然なく、ただ、息をラッパの中に入れているだけなのに、プーですよ。指導の先生から「いい音出しますね」って誉められちゃいました。

 もしかすると…金管の才能がある?…のかな??

 コツは…口の中を縦開きにする事かな? トランペットはフルート同様に、開いている楽器だなって感じました。そういう意味では、サックスよりもトランペットの方に(音出しの段階だけなら)親しみを感じました。ま、実際、ペットは金管なので、運指的には全く分かりませんから、曲なんか吹けないんですけれどね。

 しかし、フルートにせよ、オーボエにせよ、サックスにせよ、トランペットにせよ、音出しレベルの初心者の段階では、全く苦労しない私って何?(笑)

 このあたりで、日が暮れました。夜の話は…また明日でーす。
   …ご飯に赤ワインをかけると、マズいぞ(謎)。

コメント

  1. かのん より:

    どう吹くか、は、ともかく、原曲を理解する努力をするのは、作曲した人と曲への敬意だというのはわたしのモットーです。(理解できるかどうかは別らしい苦笑)
    とはまあ硬いかもしれませんが、のだめちゃんが、楽譜を読めず聞いた通りに演奏して、楽譜を読めないのは曲に対する冒涜だとかおこられてましたね…。
    ピアニストであると同時に音楽家であるべし?!

    なんにしても、なんでもすぐ鳴らせる才能はうらやましいです。わたしは唄口の小さい楽器は苦手です。ホルンとか鳴らなかった!

  2. すとん より:

    >かのんさん

     アナリーゼって言うの? クラシック、特にドイツ系音楽では、作曲家とか楽譜とかが最優先事項で、演奏者は、あくまでそこから逸脱しない範囲内での、自分の表現というのを見つけていくわけだから、作曲家が自ら作曲した原曲を学び、解釈していく事が大切なんだろうなあ…って思うと、なんでこの曲をフルートで吹くわけ?っていう気持ちに、時々なるんですよ。

     だから、このマスタークラスでの、先生と生徒さんのぶつかり合いって、色々考えちゃったわけよ。極論(あくまで極論ね)で言っちゃえば、元々がオーケストラ曲なんだから、それをピアノで弾く意味なんて無いじゃん…っね。もちろん、この曲はオーケストラバージョンもピアノバージョンもリスト本人が書いているだから、意味がないことはもちろんないんだけれどね。

     原曲とアレンジの関係って、私の場合、考えれば考えるほど、分かんなくなります。

     ちなみに、ホルンはやった事がないから、まだ分かりません。やってみたら、やっぱり鳴らないかもしれないし(笑)。

  3. シラスマ より:

    ほんと、首都圏てたくさんイベントがあって、羨ましいです~。
    札幌でもラ・フォル・ジュルネやって欲しい^^)

    アレンジもののお話、興味深く読みました。
    今やりたいなって思っている曲がバイオリンの曲なんですよね。
    原曲がバイオリンのものをフルートで表現することにどんな意味があるのか・・・。
    私には答えを出せそうにありません。
    でも、なにも考えずにただ美しく吹くより、いじいじ考えることもいい勉強になるんじゃないかな、と楽天的に思うのでした^^;

    私もラッパは音がちゃんと出ました~。
    唇振動してそのあとしばらく笛が吹きづらかったですが^^;

  4. すとん より:

    >シラスマさん

     ラ・フォル・ジュルネって全国展開してますよね。東京だけでなく、金沢や新潟やびわ湖でもやってます。東京も元々はそうらしいけれど、皆それぞれの地元がラ・フォル・ジュルネを誘致したそうですよ。だから、札幌というか北海道も、地元の人たちが動いて誘致すれば、ゴールデンウィークに札幌でラ・フォル・ジュルネというのも、無い話ではないみたいですよ。

     でも、やはりアレンジものは、ついつい、いじいじ考えてしまいます。私の場合、歌えるから「声楽曲をフルートでやる理由はない!」とか言い切っちゃいますが、じゃあピアノ曲は、ヴァイオリン曲は、って考え出すと、ピアノもヴァイオリンも弾けない私は、どうしてもその曲が演奏したければ、やはりフルートでやるしかないかな…とか思うと、じゃあ声楽曲だってフルートでやっちゃえばいいじゃん、と思います。それで思考の堂々巡りになっちゃうんですよ。

     ほんと、アレンジものの演奏って、どう考えたらいいんでしょうか?

  5. アリサ より:

    私は、音遊びでいいと思います。

    クラシックではいけないことかもしれませんが、テーマはあくまで素材で、料理するのは自分です。
    それは自由でいいように思います。
    マイウェイなんて、シャンソンでは、ほんの日常の出来事を歌った歌だそうですよ。
    (Comme d’habitude)

    クラシックの場合も、有名な人がアレンジしたものだったら別物として認められているような?

    オケの曲をピアノで、となると、ピアノはそういう楽器(一粒で何度もおいしい)なので、そういう演奏もありですよね。それも練習の一つ?
    ピアノでこんな表現ができるんだ、という演奏がしたければそうするんでしょう。

    カレーうどんは、カレーなの?うどんなの?みたいですよね。
    うーん、どっちでもおいしければいいや!って思います。
    冒涜ですかねえ。

  6. すとん より:

    >アリサさん

     ちなみに、カレーうどんは、うどんであって、カレーじゃないです。だって、うどん屋(そば屋含む)のメニューに「カレーうどん」はあっても、カレー屋(洋食屋含む)のメニューには「カレーうどん」はないですから。

     と言うことは、横において(ちょっと、うどんのウンチクにはうるさいもので…、ゴメン)、「アレンジものは音遊び」というのは同意します。だから、ポピュラーものなら、別に違和感はないんです。だってポピュラー音楽って、みんなして真剣に音遊びをしているわけだから。問題はやはりクラシック系の演奏の場合です。

     元がクラシックの曲でも、ポップスアレンジをして「ポップス・バージョンでーす」とか言って遊ぶなら、私も迷いがないんです。でも、ヴァイオリンの曲をフルート用にアレンジしてクラシック曲として演奏…このパターンが悩みのタネなんですよ。それはヴァイオリンの代用楽器としてフルートを使っているだけなの? それともこれは本来の曲とは全く別のフルート曲なの? って感じに悩みます。

     「もう面倒くさいから、アレンジしたら、全部ポップス!」って言い切れると、楽なんだけれどなあ…。

    >クラシックの場合も、有名な人がアレンジしたものだったら別物として認められているような?

     「展覧会の絵」がそうですね。もはや、ムソルグスキーの原曲よりもラベルのアレンジものの方が有名だしね。ラベルやドビュッシーなどの近代フランス系の作家は、同じ曲をオーケストラにしたり、ピアノにしたりしているのも、そうかな? ショパンのピアノ曲を管弦楽曲化してバレエ音楽にしちゃった「レ・シルフィード」とかはちょっと微妙。「G線上のアリア」をフルートアレンジにしちゃうのは(自分でも演奏して音源までアップした事あるけれど)、かなり悩みます。だいたい、タイトルの“G線”が引っかかる原因なんですよね。だってフルートには“G線”ないし…。

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