今日は、実に久し振りの、約2カ月ぶりの、合唱ネタでございます。いやはや…。
「テノール! そこは叫ばない!」とか「怒鳴るなー! テノール」なんて言葉が行き交うのは、日本の合唱団ではよく見られる光景ですね。まさに平和日本を象徴する風景です(って、ちょっと違うか)。
なぜ、そこで叫ぶのかなあ…と他のパートの人たちは思うでしょうね。答えは……テノールだから(笑)。いや、実際そうなんですよ。
ではなぜテノールが叫ぶのか。それは……テノールだから(大笑)。いやいや、これ、本当の話。
当のテノールは叫んでいるつもりは、たぶん、無い。では何をしているつもりなのかと言うと……高音で歌っているつもり。それだけ。
だから、当のテノールたちにしてみれば「僕らがどれだけ大変な思いをして、これだけの高い音で歌っているか、分からないかなあ。それを“叫ぶな”とか“怒鳴るな”だって。失礼しちゃうよ、まったく」と心の中でつぶやいて、次の高いフレーズも思いっきりスコーンと歌い飛ばしてやろうと心に決めていたりします。
つまり、テノールの高音が叫び声とか怒鳴り声にしか聴こえないのが、日本の平均的なアマチュア合唱団のレベルというわけだ。いやはや、何とも。
叫び声や怒鳴り声は、確かに聞き苦しい。そこで困り果てた指揮者たちの幾人かは、テノールたちにファルセットで歌うように言い渡すわけだ。ファルセットとカタカナで言えば、何となくカッコいいけれど、実は裏声ね。カッパ声とかオカマ声とか言われるアレですよ、アレ。ま、曲によっては、ファルセットの方が似合う曲もあるし、一概にファルセットそのものを否定することはできないけれど、いわゆる普通の混声合唱で、テノールのパートをファルセットで歌う理由は…たぶんほとんどない。叫ばせない、怒鳴らせないと言った理由を除けば。
テノールが高音を歌うのは、あくまでヒロイックな響きが楽曲に求められるからなのであって、ピッチだけが問題ならば、その手の音域に関して言えば、アルトが歌った方が、どれだけ安定しているか、聴いている方だって安心して聴いていられるというわけだ。つまり、テノールとは合唱におけるヒーローなのに、そのヒーローがオカマ声じゃあ、がっくりだよね。
でも、叫び声はもっとダメ。怒鳴り声なんかじゃ音楽ぶちこわし。これもよく分かる。
では最初に戻って、なぜテノールは叫んでしまうのか。それは、正しい発声方法を知らないから。そんだけ。
チェンジの越え方を知らないから。チェンジの上の声の出し方を知らないから。チェンジの上の声と下の声のつなぎ方を知らないから。胸の声でどこまでも行こうとするから。
だから、高音に行くと、叫んだり、怒鳴ったりするわけよ。
ああ、思えば、私も昔は思いっきり叫んでいたなあ…。高いところに行くと、声が出づらくなるけれど、その出づらさをパワーで何とかしていた。何とかした結果が、叫び声だったり、怒鳴り声だったりするんだな。
叫んだり、怒鳴ったりって、結構力がいるもの。体に力が入ると、体が硬くなる。硬くなると、体のあっちこっちにフタがされる。その結果、身体にある大半の共鳴腔が閉じてしまい、使いものにならなくなる。その結果が、叫び声だったり、怒鳴り声だったりする。
でも、この「結構力がいる」歌い方が、不思議と充実感につながってくるから、テノールの叫びを辞めさせるのは、実はかなり難しい。だって、叫ぶのって快感でしょ。
ソプラノさんで、時折、高音を悲鳴にして歌っている人がいるけれど、たぶんアレも、やっていることは、叫ぶテノールと同じ。体に力を入れて、力づくで高音を発声しているわけ。体の共鳴腔が使えないため、あんな声になっちゃっているわけよ。男と女。声域が違うので、片や叫び声、片や悲鳴という、別物に聴こえるけれど、実は全く同じこと。
何事も、力づくはダメだね。無理はいけません。力づくの発声を辞めさせるには、本来は、ファルセットの強要ではなく、正しい発声方法を彼らに身につけてもらうことでしょう。そのためにも、適切な指導者が正しい発声方法をきちんと彼らに教えるべきでしょうね。
日本の多くのアマチュア合唱団の弱点が、実はそこ。テノールやアルト、つまり内声パート[つまりチェンジを抱えているパート]の正しい発声方法をきちんと教えられる人材がいないか不足している点。いや、それどころか、きちんとしたヴォイストレーナーが団内にいなかったり、下手すると、発声練習すら、ろくにやらずに、いきなり歌いだす合唱団の多いこと多いこと。
その結果、正しい発声方法を知らずに、ただ楽譜に書いてある音をピアノで取って、ムリムリに出そうとするから、叫ぶし怒鳴るわけだ。
邦人作曲家の中には、そんな現実を知ってか、知らずか、混声合唱なのに、テノールに高音を与えない人もチラホラいるらしいという話も聞きます(私は邦人合唱曲を歌ったことがないので、よく知りませんが、知り合いからそんな話を聞きます。違ったら教えてください)。
叫ぶテノール問題は、案外、根深い問題なのかもしれませんね。
コメント
ぎゃはははは!!
そうですか、なるほどねぇ。
私はちゃんとした混声4部合唱をしていないので、テノールさんの叫びは経験ないんですが、ソプラノさんが悲鳴ってところはすごいリアルに分かりました。実は私も悲鳴ソプラノだったことがあるし…。
そうなんですよ、高い声で歌っている「つもり」。なんでも「つもり」は怖いっす。
アマチュアだとやっぱり、基礎練習をおろそかにしてしまうというか、そもそもそういった基礎練習の必要性がよくわかんない、っていうこともあるのかもしれませんね。アマ合唱団は(アマオケとかもそうだけど)資金が潤沢ではないこともあるので、ボイストレーナーを雇う余裕もないのかもしれないし…。結構大きな問題かもしれませんね。
>ことなりままっちさん
そうですね。叫ぶテノール問題は、単にテノールの叫び声だけが問題なのではなく、アマチュア団体における、基礎練習の是非についての話に帰結してしまうかもしれない。そういう視点は、私、持ち合わせていませんでした。気づかせていただき、感謝です。
アマチュアが基礎練習を避けたがる理由は、単に「つまんない」からでしょう。まだ相手が子どもなら、無理やりに基礎練習もさせられますが、大人相手だと(大人はわがままですから)基礎練習は省かざるを得ないでしょう。「お金払っているのに、なんでこんな退屈なことをしなけれりゃいけないんだ!」と言われそうです。
楽しみでやっている音楽が、退屈なのは我慢ならないという気持ち、分からないでもありません。でもね、目先の退屈を我慢すれば、より深く楽しめるのだけれど、目先の退屈に不平をこぼすものなんですね、大人って。
つまり、音楽に限らず、何事も「学ぶに時あり」って事なんだと思います。子どもの時から音楽をしていることって、実はとても貴重な人生の財産なんだと思います。
もっとも、大人の音楽初学者のすべてがそうではなく、ごく少数だけれど、逆に真面目に基礎から真剣にやりたがる人もいますね。そういう人こそ、本当の意味で「子どもの心を持つ大人」なんでしょうね。貴重な存在です。
To Ston
記事を引用させて頂きました。
http://blogs.yahoo.co.jp/matsuoatsuoki/18218640.html
こんにちは。
ひとことコメ読みました。思うにフル−トの音量は奏者の力量はあまり関係ないのでは?というのも先日一流奏者(誰とは言わないけど)のソロを聞きましたが、たまたま遅刻して一時立見の後ろで聞いていた時はホントに聞こえなかったです。席まで行くと聞こえましたが。ホ−ルの音響もあるし、銀の音量もあるのでは?
>松尾さん
引用ありがとうございます。私の駄文をさらに掘り下げて、学ぶことの多い、興味深い記事をありがとうございます。いつもながらですが、敬服です、感謝です。
>あゆみさん
奏者の力量は関係なさそうですか? それは奏者に対して失礼な考えをしてしまったのかな、反省。
ちなみにホールの音響は悪くないというよりも、かなりいいホールだと思います。私の座席もホールの真ん中とは言え、舞台から10メートル程度しか離れていない近距離(それほど小さなホール)でしたし…。
このトリオの少し前に(比較にはなりませんが)フルートのソロ演奏があり、こちらは十分に楽しめました。なので、奏者の力量のせいと思ってしまいました。
トリオで一緒に演奏していたヴァイオリンとチェロの人たちは、mp~mf程度の音量で、特に頑張る様子もなく演奏していました(もっとも、フルートとヴァンオリンは音域的に被っていますが)。これが奏者の力量のせいでもなく、ホールや舞台からの距離のせいでもなければ、確かに楽器のせいなのかもしれません。
ううむ、確かにソロ演奏はゴールドフルート、トリオは銀色のフルート(材質に関しては、見ただけでは分かりませんし、きちんと聞こえなかったので、音でも判断できません)でした。ゴールドフルートはフルートの中では音量的に有利だと聞いています。
色々と、ごった煮のようなコンサートだったのです。他にも、ピアノ全開でバンバン、アリアを歌っていた素人のソプラノさんたちとかがいた(実はこっちの方が私のお目当てでした)のですが、そんな素人のソプラノさんよりも、銀色のフルートは、音量で明らかに負けちゃうのか…。ううむ、冷静に考えると、そうかもしれない。
やっぱり悲しいわ、銀色のフルートって。人の声(ソプラノ)よりも小さな音量の楽器なんだ。いくら小音量とは言え、一応楽器ですから、歌よりは大きな音を出せると私は思ってました。ううむ、フルートに対する認識を改めないと…。
しかしソプラノに負ける楽器なら、確実にテノールとは勝負にならないな。とすると、私は楽器を使うよりも、生声で歌った方が音量的に良いという事になる。なんか意外。