「Vaga luna, che inargenti/優雅な月よ」 この曲も実に素晴らしい曲です。昨日取り上げたロッシーニと同じ時代の作曲家である、ベッリーニの作品です。
ベッリーニはロッシーニと違って、早死なんですね。33歳で亡くなってます。残した作品は、ほぼオペラばかりなので、日本の一般的なクラヲタには全くと言っていいくらいの無名な作曲家なんですが、母国イタリアでは、お札の肖像にもなっていたほどの有名人だし、後の作曲家たちにも大絶賛されるほどの大作曲家です。
もちろん、私も大好きな作曲家です。今現在も「Vanne, o rosa fortunata/お行き、幸せなバラよ」を歌っていますし、それ以前にも「Malinconia, Ninfa gentile/マリンコニーア」や「Ma rendi pur contento/喜ばせてあげて」なども歌っています。もちろん、今回紹介する「Vaga luna, che inargenti/優雅な月よ」も以前に歌っています。
歌詞はこんな感じです。
Vaga luna, che inargenti
銀色に輝く優雅な月よ
queste rive e questi fiori
この川辺と花々に
ed inspiri, ed inspiri agli elementi
注ぎ込め、注ぎ込め、その光を以って
il linguaggio, il linguaggio dell’amor;
その言葉を、その愛の言葉をtestimonio or sei tu sola
今や証人はお前だけだ
del mio fervido desir,
私の熱く燃えた恋心の
ed a lei, ed a lei che m’innamora
そして彼女に、そして彼女に伝えて欲しい
conta i palpiti, i palpiti e i sospir.
この胸のときめきと、この胸のときめきとため息をed a lei che m’innamora
彼女に伝えて欲しい
conta i palpiti e i sospir.
この胸のときめきとため息をed a lei che m’innamora
彼女に伝えて欲しい
conta i palpiti e i sospir.
この胸のときめきとため息を
e i sospir, e i sospir.
ため息を、ため息をDille pur che lontananza
伝えてくれ、遠く離れていても
il mio duol non può lenir,
私の苦しみが和らぐことはない事を
che se nutro una speranza,
もし希望を持つとすれば
ella è sol, ella è sol nell’avvenir.
それはただ、それはただ未来を信じる事だけだ。Dille pur che giorno e sera
伝えてくれ、朝も夜も
conto l’ore del dolor,
私は苦しみを数えている
che una speme, che una speme lusinghiera
たった一つの希望に、たったひとつの希望によって私は支えられている
mi conforta, mi conforta nell’amor
私を慰めている、私を慰めているのは、あなたへの愛なのだche una speme lusinghiera
たったひとつの希望によって私は支えられている
mi conforta nell’amor
私を慰めているのは、あなたへの愛なのだche una speme lusinghiera
たったひとつの希望によって私は支えられている
mi conforta nell’amor
私を慰めているのは、あなたへの愛なのだ
nell’amor nell’amor.
愛なのだ、愛なのだ
歌っているのは、メゾソプラノのチェチリア・バルトリです。この曲は「メゾソプラノとピアノのための3つのアリエッタ」という歌曲集に入っている曲なので、メゾソプラノが歌うのが正しい曲なのですが、歌詞の内容を見ると、完全に男性の曲ですね(笑)。
まあ、あまりの名曲のために、メゾよりもソプラノやテノールに愛されていると言う曲だったりします。
一般にオペラアリアは、歌う人が決まっています。“歌う人”と言うよりも、正確には“歌う声”ですね。「この曲は高くて細かい音符をキレイに歌えるソプラノ用」とか「力強く高音を伸ばせるテノール向け」とか「地響きがするほどの低音をしっかりと歌えるバス歌手専用の曲」とか、まあそれぞれにあるわけです。ですから、オペラアリアを指定された声種以外の歌手が歌うことはまず無いですし「高音/低音がちょっと厳しいから」という理由で曲を移調して歌うと言う事も、原則的には、ありえません。
一方、歌曲と言うのは、特にそういう制限もなく、基本的には誰が歌ってもいいんです。歌詞を見れば、その歌の主人公が男性であったり女性であったり、若者であったり、老人であったりと色々ありますが、別に歌手はその主人公になりきる必要はなく、むしろ歌手は語り部として、第三者的な立場でその歌を歌えばいいので、歌の主人公の年齢や性別にこだわらずに歌っても全然良い…というか、むしろ、それが普通なんです。
だから歌曲は、もちろん作曲家が任意の調性で作曲するのだけれど、歌われる時は、歌う歌手の声域に合わせて移調して歌われるのが普通です。
例えば、シューベルトの歌曲集なんて、日本ではバリトン歌手やバス歌手が歌うイメージがありますが、作曲家であるシューベルト自身は、テノールのために書いているんですよ。でも、テノール用の譜面のままでは、バリトンやバスには高いので、低く移調して歌い、我々はその低く移調された譜面によって歌われた歌唱を聞いて「いいなあ…」と言っているわけです。
別にそれでいいんです。特に器楽系の作曲家が書いた歌曲なら、それで十分です。
問題は、声楽系の作曲家が、任意の歌手や声種を念頭において書いた曲の場合は、そんな簡単にはいかないかな…って思わないでもないのです。と言うのも、歌手個人個人はもちろんだけれど、大雑把に言っても、声種毎に歌声には特徴があるし、得意なことや苦手な事が違いますし、もちろん音色も違うわけです。歌のことが分かる作曲家は、そのあたりも踏まえて作曲しているわけで、作曲家が念頭においた声種で歌った時に作品が一番映えるように作曲されているのです。
ベッリーニの諸作品なんて、まさにそんな感じじゃないのかな? なんて思わないでもないんです。
「Vaga luna, che inargenti/優雅な月よ」はメゾソプラノ用に作曲された曲です。そのせいもあって、高音はありません。一番高くて、五線譜の中のEbです。その代わり、低音はCまで使います。
先程も書いたように、この曲はソプラノやテノールにも大人気の曲なんですが、ソプラノやテノールには、正直、使われている音域が少々低いんですね。ですから、ソプラノやテノールは長三度(カラオケで言えば+4)高く移調して歌います。そうすると、音域的にはちょうどよい感じ(E~G)になります。
私もこの曲を歌う時は、長三度上げてハ長調で歌うのですが、最近は「それでよいのか?」と考えることもあります。やはりオリジナル通り、少々低くても変イ長調で歌うべきではないのか…と考えるのです。
と言うのも、この曲で歌われているのは「優雅な月」なんですよ。その曲をソプラノのキンキンした声や、テノールのギラギラした声で歌っては、月の優しさがスポイルされてしまうような気がするんです。やはりここは、メゾソプラノのちょっとくすんだ柔らかめの声で歌うから、月光の美しさが表現できるんじゃないかしらって思うわけです。
歌曲とは言え、ロマン派以降の作品は、なるべく移調せずに、作曲家が作曲したオリジナルの調性で歌った方がいいのではないかしら…なんて思わなくもないんですよ。
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コメント
この曲、メゾ向きだったのね、知らなかった。どおりで!とても、とても歌いずらく、なんで?なんで?と思ってました。すとんさん、ごめんね。よって、わたし的には苦手中の苦手曲!だけど、オペラ曲は大好き!むしろ、かなり歌いやすく、好んで歌ってました!!声にあったレパートリーを歌う!は基本ね!やっぱ、声に負担がかかるのか、身体で感じますね、、メゾ音域はつらい〜。
アデーレさん
「Vaga luna, che inargenti/優雅な月よ」は、日本では、全音やドレミを始め、各社から楽譜が出版されていますが、どの会社のモノも中声用(メゾ&バリトン向け)です。まあ、オリジナルが中声向けですから、それでいいのですが、ソプラノやテノールには歌いづらいったらありゃあしません。
ですから、ソプラノやテノールは、イタリアのRICORDI(リコルディ)社から出ている「15 Composizioni Da Camera」という、ベッリーニの歌曲集の高声版を使って歌うのが普通です。この楽譜に収録されている「Vaga luna, che inargenti/優雅な月よ」は、ソプラノ/テノール向けに移調されているんですよ。他の曲も、ソプラノ/テノール向けに音域が調整されていますので、とても使いやすい楽譜です。ってか、世界標準はこの楽譜です。私も普段使っているのは、この楽譜です。
たぶん、この楽譜なら、歌いやすいと思いますよ。
入手はとても簡単です。普通にアマゾンで買えます。時期によって品切れになっていて、ちょっとばかりお届けに時間がかかる事もあるようですが、世界各国で普通に使われている楽譜ですから、ちょっと待てば必ず入手できます。
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昔むかしに練習した曲で、大好きな曲です。
情緒豊かな歌詞も好きです。
私も1票投じますよ。
おぷーさん
いいですよね、この曲。譜面の音符の流れだけ見ていると、簡単そうですが、実際歌ってみると、あれこれ気をつけることが多くて「ベッリーニはたやすくないなあ」と思わせる曲です。
私の場合、なかなか人前で披露できるレベルに仕上がらない、こまった曲でもあります(汗)。でも、すごくいい曲ですよね。