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錦織健さんのリサイタルに行ってきました

 標題の通り、テノール歌手の錦織健さんのリサイタルに行ってきました。ついこの前も行ったような気がしていましたが、それはなんと5年前の話でした(ブログ記事はこちら)。

 プロの、それも一流の歌手の生歌を聴くことは、とても勉強になります。私自身の聴く耳もだいぶ肥えてきましたので、歌を聞くだけで、どうカラダを使っているのかが、以前よりも分かるようになりました。

 それにしても、ほんと、美しい歌声だよなあ。

 曲目は…5年前と一部同じで、一部前回と違っていましたが、傾向はほぼ一緒。ヘンデルに始まって、日本歌曲を歌って、オペラアリアを歌って、ポピュラーソングも歌って、最後はクイーンを歌ってお終いでした。

 しかし5年の歳月は、残酷でした。

 5年前の錦織さんは…

>それを見ていて思った事は、すごく楽な発声をしている人だなあと言うこと。

 …でしたが、今回は“楽”どころか、かなり頑張って歌ってくださっていました。彼の歌を聴きながら「歌って難しいんだな」「とても難しい歌を頑張って歌っているなあ…」とか思いました。前回の時だって、難しい歌をバンバン歌ってましたが、それを難しく聞かせませんでしたが、今回は難しい歌は難しげに、そうでもない歌はそれなりに聞こえました。

 決して、下手になったわけではないんだと思います。むしろ、歌唱的には前回よりもテクニカルに歌っていたと思うので、歌そのものは上手になった(あるいは、上手さを隠さなくなった)と言えますが、歌手としては…残念ながら…衰えたのだと思います。

 だってもう、彼だって50代半ばだよ。いくら若く見せていても、肉体は衰えるものです。2時間のリサイタルがキツくなっても、誰も彼を責められないと思います。

 前半に歌ったヘンデルとか日本歌曲では、まだ衰えを感じさせませんでしたが、おやおやと思ったのは、前半の終盤に歌ったポピュラーソングの時です。歌っている声が時折???となりました。5年前には見られなかった現象です。この時は「ん? 調子が悪いのかな」と思ったものですが…どうも、そういうわけでもなさそうです。

 休憩を挟んだ後半の一曲目の「誰も寝てはならぬ(プッチーニ作曲の歌劇「トゥーランドット」からの有名なアリア)」の高いHを出したところを境に、後は聴いている方もハラハラドキドキとなりました。「次は大丈夫?」と祈るような気持ちで、手に汗を握りながら聴いていました。

 ハラハラドキドキしながら聴くのは、ある意味、テノールリサイタルでは普通なんですが、少なくとも5年前のリサイタルでは、全然そういう事はなかったんです。ほんと、この5年で大きく変わったようです。

 アンコールで歌った「オ・ソレ・ミオ」だって、5年前は…

>「うわー、すげえー」と思ったのはアンコールの「オー・ソレ・ミオ」を、実にラクラクと歌ったこと。

 …でしたが、今回はラクラクどころか、実にヒヤヒヤでした。

 リサイタル最後の曲は、前回はクイーンの「ボヘミアン・ラプソディー」を力強く歌っていましたが、今回はファルセットを多用した「ラブ・オブ・マイ・ライフ」でした。別にファルセットがダメとは思わないし、オリジナルを歌ったフレディだってファルセットで歌ってますから、これはこれでアリですが、私は錦織健の力強い「ボヘミアン・ラプソディー」を聞きたかったのですが…たぶん、この曲をライブで聴くことは、もう無いかも…と思いました。

 時とともに、人は成長し、全盛期を迎え、やがて少しずつ衰えていくわけです。それは当たり前の事だけど、残酷な事です。

 前回が5年前でしたから、次に彼が当地にやってくるのは5年後かもしれません。その頃の彼は還暦ですけれど、人気者だから、まだ引退せずに歌っているんじゃないかな? ジャンルは違うけれど、80歳近い加山雄三がまだコンサート活動していますからね。還暦を迎えたとしても、錦織健さんもまだ歌っているでしょうが、おそらく、その頃は、歌い方も、リサイタルの持ち方も、今と同じ形ではありえないかなって思います。

 私の希望としては、若いソプラノ歌手を帯同して、コンサートをして欲しいなあ。若い歌手を帯同する事で、彼女の売り出しに協力すると共に、コンサートの半分は彼女に任せ、休み休み歌って、自分は残りの半分に全力集中で歌えば、まだまだ10年は軽くイケると思うし、ソプラノがいれば、二重唱などもできるし、コンサートの幅も広がって良くなるんじゃないかな? 別にこれって、恥ずかしい事ではなく、次のステップに登ったと言うなんだと思うし、いいんじゃないかな?

 とにかく、錦織健さんには、まだまだ頑張って欲しいと(本気で)思っている私でした。いやあ、マジでファンなんだよね。

 と言うわけで、最後は錦織健さんの「ボヘミアン・ラプソディー」です。

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コメント

  1. うさぎ より:

    私は母と10年ぐらい前に錦織健さんの「母の日のコンサート」に行ったことがあります。
    男性の歌を聴くのは初めてで、どうかなと思っていましたが、母も私も本当に楽しい時間でした。特に母はあまりいい席ではなかったにも関わらず、「こんなの初めて!」って言っていましたから、至福の時間だったのかもしれません。本当に歌もおしゃべりも楽しかったです。それ以来、彼のコンサートは行っていません。音楽って消えていく芸術ですが、私の錦織健さんはあの時のままです!

  2. すとん より:

    うさぎさん

     今は録画も録音もありますから、歌手(に限らないけれど)にとって、一番の敵は、若い時の自分なのかもしれません。錦織健さんは、今だって、すごいスター歌手ですよ。ただ、少し若かった時と比べると…という話だし、それが10年前なんて、まさに絶頂期じゃないですか? あの頃の錦織さんの生歌を聞いているなんて、ほんと、うらやましいですよ。

    >私の錦織健さんはあの時のままです!

     それでいいんです。ほんと、そう思います。

  3. 椎茸 より:

    ボヘミアン・ラプソディーって初めて聴きましたが、いいですね~!
    錦織さんが、この曲ほんとに好きなんだなって感じがします。
    しかし、これはたしかに歌い続けるのが大変そうです![E:sweat01]
    錦織さんも、もう50代半ばなんですねえ・・・

  4. すとん より:

    椎茸さん

     ボヘミアン・ラプソディーって、いい曲ですよね。たしか、イギリスで調べた「20世紀に作曲された最高の曲ランキング」とかそういういうヤツで、堂々の1位を取っていた名曲なんですね(これは有名な話です)。

     曲が良いのは良いのですが、歌うのが実に難しいのも、この曲の特徴です。オリジナルは、クイーンというロックグループなんですが、彼ら自身、この曲をライブでは生では歌うことができず、一部レコーディングされた音源を流しながら歌っていました。作曲者が生で歌えないほどに難しい曲って、どんだけ?

     よくあるのが、ライブだと、複数の歌手たちがそれぞれの得意分野ごとに分担を決めて歌うやりかたです。やはりロック色の強いパートと、しっとりとしたバラードパート、まるでオペラアリアのようなパート、それぞれを同じ歌手が歌のは厳しそうです。それを全盛期の錦織さんは一人でこなしていたのだから、本当にすごいと思います。

  5. 腰痛持ちの笛吹き より:

    おはようございます。
    錦織さん、すごい歌唱力でフレディーマーキュリーより
    きっとテクニックやなんかも何枚も上手なんだろうな…と思うけど、
    この動画を見て、やっぱり歌って、歌唱力より「声」そのものの魅力って
    大きいなって感じました。
    もちろん、クイーンのボヘミアンラブソティに慣れ過ぎていて、そして好きすぎて
    それ以外は受け付けないって心理が働いているのかもしれませんが。
    朝から大変興味深い動画見させて頂きました。
    ありがとうございます。

  6. すとん より:

    腰痛持ちの笛吹きさん

    >やっぱり歌って、歌唱力より「声」そのものの魅力って、大きいなって感じました。

     そりゃあそうですよ。歌の魅力で、歌唱力は二の次、三の次ですって。まずは声の魅力、次が曲そのものの魅力、そして歌手のキャラクター。歌手の歌唱力は、その次ぐらいですって。実際、歌唱力なんて素人に負けちゃう程度しかなくても、立派に歌手をやっている方って、結構いらっしゃるでしょ?

     まあ、やっぱり「ボヘミアン・ラプソディー」はオリジナルのフレディーの歌唱が一番だというのは、私も同意しますが、最近は、オペラ系の男性歌手さんたちが、よく「ボヘミアン・ラプソディー」を歌っていますので、そういうオペラ調で楽しむのオツですよ。

  7. 都わすれ より:

    茅ヶ崎でのコンサートのことですよね。私も行きました。あの日は、祝日でとても道路が渋滞していて、会場への到着が大幅に遅れてしまった。と錦織さんが開口一番におっしゃってましたよね。いつもは開演三時間前に楽屋に入られて発声練習を始められるのはファンの方ならご存知と思いますが。 
    私は一曲目を聴いてすぐにわかりました。本当にギリギリに来られたんだなあと。
    こういうことは私の知る限り一度もありませんでした。
    それと、もっと大変だったのは、気管の中に虫が入ってしまったことです!あのホールは古くて、なぜか舞台の上に虫が飛んでいました。それは多くのファンが目撃していました。歌っている時虫が口に入っても小さな虫なら食べる、と錦織さんは言っておられましたが、あの日は小さくない虫が気管に入ってしまったようでした。タイムトウセイグッバイを歌っておられた時だと思います。突然音程が狂ったのでびっくりしました。普段ではありえないことですから。
    そのあと錦織さんが、虫がのどに入ってしまった。と話されてましたよね。それでアンコールも二曲で終わられたのです。そのお話を聞いておられなかった方もいたのですね。それを年のせいだなんて・・・
    錦織さんの名誉の為にも書かせていただきました。
    なお、虫の事は大変心配いたしましたが、大事にいたらなかったようで安心いたしました。

  8. すとん より:

    都わすれさん

     虫の件は私も覚えていますよ。そんなトラブルは当然ノーカウントです。本当は、これで終わりにしたいのですが、それでは都わすれさんが納得しないでしょうから、あえて書きます。

     開演3時間前の楽屋入りは、別に錦織さんに限った話ではなく、舞台の人は、たいていそうですよ。もちろん、もっと早く楽屋入りする人もいます。だから、ファンでなくとも、あの日の錦織さんの遅刻が大幅だった事は分かるし、だから、本人も“本日の逸話”として取り上げたんだと思います。

     でも、それと調子の悪さは関係ないですよ。だって、彼はプロだもの。楽屋入りが遅くても、行きの車の中でウォームアップぐらいはしてくるでしょうし、舞台に出られるほどに調子が上がらなければ、舞台の開始時間を遅らせればいいだけの話です(そんな人は掃いて捨てるほどいます)。あの日は、彼自身が「これでいける、これでOK」と思ったから舞台に出てきたわけです。彼自身が「OK、いける」と思ったものを、会場入りが遅くなってから歌がダメでした…と言っちゃうなら、それは錦織さんの判断ミスを責める事になります。むしろ、そこは気がついても、目をつぶってあげるのが、テノール歌手に対する礼儀だと私は思います。

     それに、あの日の彼は、コンサートの初めは、きちんと上り調子だったじゃないですか! 問題は、そこではなく、その上り調子を1時間もキープできなかった事です。歌のスタミナが、以前ほどはなくなっている事が問題と言えば問題ですし、そこは衰えたと言ってもいいんじゃないですか?

     それにネッスン・ドルマの事は、虫のせいにはできません。元々、あの曲は彼の声に合わない曲なんです。若い時ならパワーで振り切れますが、今やそれも厳しくなった。それだけの話です。

     年を取れば、肉体的な力は衰えます。でもね、力に頼れなくなった分、テクニックの切れが見られるようになるわけだし、経験を積み重ねることで、丁寧な歌唱ができるようになるわけで、それを人は円熟味と呼ぶわけです。

     錦織さんは、肉体的に峠を越したのは事実でしょ。年を取ったのも事実です。いいじゃないですか? 錦織さんが歌手として、次の局面に向かっているだけの話です。人はいつまでも30代のままではいられない、それだけでしょ。

     錦織健は“我らがテナー”なんですから、我々ファンと一緒に、年を取っていけばいいだけです。年を取ることが不名誉とは…歌は美容じゃないですよ。年を取った歌手には、年を取ったなりの魅力があるでしょ。ただ、全盛期の頃とは、それはだいぶ違うし、出来ないことも増えるし、レパートリーも狭くなるでしょう。でも、それが、人間が歌うという事なんだと思いますよ。

     それと、虫は新しいホールにだって飛んでますよ。虫とホールの新旧は無関係です。何気にあのホールをディスるはヤメテください。

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