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すとんが薦める初心者向けオペラ その8「メリー・ウィドウ」

 今回私が薦めるオペラは、レハール作曲の「メリー・ウィドウ」です。実はこの作品、オペラではありません。オペレッタです。オペレッタは喜歌劇と日本語では訳しますが、オペラがミュージカルに変化する過程に存在した中間物のようなモノで、オペラよりも音楽的には軽くてポピュラー寄りで、演じる人間も歌手ではなく俳優が起用される事も多く、オペラのように歌っていれば良いのではなく、歌も演技もダンスも水準以上に出来ないといけません。もっとも、その分、音楽的には、聞くにも歌うにも平易になっているわけです。

 オペレッタは、20世紀の前半にドイツで盛んに作られました。音楽的な基盤としては、当時ヨーロッパを席巻した、ウィンナ・ワルツがあります。このウィンナ・ワルツをメインに音楽を作って芝居をつけたら、オペレッタになりました…って感じのようです。ですから、ドイツのオペラって、ワーグナー以降、重厚長大になってしまったわけだけれど、オペレッタは同じドイツものだけれど、根っこがウィンナ・ワルツだから、洒脱で軽妙なんです。全編にダンスミュージックが流れるわけで、お客も難しいことは抜きにして、歌に芝居にダンスに、全力で楽しめるのです。

 この流れが20世紀中頃になると、アメリカでのミュージカルにつながっていくわけです。

 で、数あるオペレッタの中から、私がお薦めするのがレハール作曲の「メリー・ウィドウ」なわけです。

 「メリー・ウィドウ」はドイツの作品で、本来なら「ルスティゲ・ヴィトヴェ」と呼ぶのが正しいのでしょうが、我が国には、ハリウッドで映画化されたモノが最初に入ってきて、そのタイトルが(当然ですが英語タイトルなので)「メリー・ウィドウ」だったので、今でもこのオペレッタの事を「メリー・ウィドウ」と呼ぶことになっているようです。

 ちなみに、その映画は1934年にアカデミー賞美術賞を獲得している名画で、日本でも人気があったそうです。また1934年版に限らず、アメリカでは何度も映画化され、その都度日本に輸入され、その度に大人気になったんだそうです。

 さて、タイトルが英語化されてしまった事からも分かるように、オペレッタはミュージカル同様、原語での上演ではなく、上演国の言葉に翻訳して上演するのが通例なので、日本にはアメリカ経由で入ってきたオペレッタなので、アメリカでのタイトルで輸入され、そのまま定着してしまったのだろうと推測します。

 なので「メリー・ウィドウ」は上演する団体によって、使用言語が変わるという面白い作品です。私は以前、チェコの団体が上演する「メリー・ウィドウ」を見たことがありますが、当然使用言語はチェコ語でした。またフランス語で上演されたDVDも持っています。当然ですが、日本の二期会では日本語で上演します。今年のメトでのライブビューイングで「メリー・ウィドウ」を上演する予定になってますが、メトでは英語で上演するのだそうです。

 ね、面白いでしょ? ちなみに、吹奏楽でよく取り上げられる「メリー・ウィドウ」はこの曲のメロディーを接続してアレンジして吹奏楽用にしたもので、なかなかよい感じに仕上がっていると思います。

 ストーリーは以下の通りです。ちなみに、この話は元々現代劇で、時代は作曲された当時に設定されていますので、現在の上演では時代設定を、作曲された20世紀初頭に設定して上演されるバージョンと、現代劇として上演されるバージョンの二種類があります。

 パリにあるボンテヴェドロ(仮想の国家)の公使館は困っていた。それは、同国の大富豪と結婚したハンナが結婚後わずか8日で未亡人となり、そのハンナが同国を出て、パリに引っ越ししてしまったからである。もしも、ハンナがパリの男と結婚したら、彼女が引き継いだ莫大な財産が国外流出してしまい、国家存亡の危機(って、どれだけの財産なんじゃい?)に陥ってしまうからだ。

 なので、ハンナの持っている財産をボンテヴェドロに留めておきたい。そのためには、ハンナの再婚相手は、外国人ではなく、ボンテヴェドロの男でなければ困る…という命令を本国から命ぜられたので、ボンテヴェドロの公使館は頭を抱えているわけなのだ。

 そこでボンテヴェドロ公使であるツェータ男爵は考えた。公使館で働くイケメン書記官のダニロをハンナと結婚させて、遺産の流出を食い止めようと計画するわけだが、それがうまくいかない。と言うのも、実はダニロとハンナは、過去に付き合っていた事があるのだが、二人の身分が違うという理由で、ダニロの親が反対して、二人は無理やり別れたという経緯があるからだ。今更、金持ちになったからハンナと結婚するというのでは、ダニロはすっきりしないし、ハンナにしても、昔自分を捨てた男とヨリを戻すのはちょっと…というのである。

 ある晩、ハンナ邸で舞踏会が開かれ、そこに現れたパリのチャラ男のカミーユが、ツェータ男爵の妻であるヴァランシエンヌを口説きます。最初のうちは断っていたヴァランシエンヌだけれど、ついにはその誘いを断りきれず、庭の小屋で二人でイチャイチャし始めます。それに気づいた夫のツェータ男爵とハンナ。友人のヴァランシエンヌの危機を察したハンナは、ツェータ男爵が小屋に踏み込む前に、彼女と入れ替わります。友人を救うために、ついつい勢いでカミーユとの婚約を発表するハンナ。愕然とするボンテヴェドロ公使館の面々。これで彼女の持つ膨大な財産はパリのチャラ男のモノとなり、ボンテヴェドロは経済的破綻を余儀なくされるからです。また、それとは別に、実はダニロは、ハンナの事を憎からず思っていたので、思いっきり落ち込みます。その姿を見たハンナは、再びダニロに惚れてしまいます。

 もちろん、ハンナとカミーユの婚約は(勢いで発表したものだったので)すぐに破棄されました。その過程で、ダニロとハンナも和解をするが、それでもダニロはなかなかハンナにプロボーズをしない。イケメンでプレイボーイという設定にも関わらず、なぜかハンナの前では中学生のような反応を取ってしまうダニロ。なんとかダニロにプロポーズをしてほしいハンナ。ハンナの事は愛しているけれど、うまく自分の気持ちを表現できず、プロボーズをついつい避けてしまうダニロ(このあたり、まるで日本のアニメのよう…)。最後の最後に、二人はワルツを踊り、お互いの気持ちを(今更)確認し、ダニロは彼女にプロポーズをしました。そして彼らは結婚をし、彼女の財産も故国にとどまったのでした。ちゃんちゃん。

 …とまあ、ストーリー的には、まるで少女マンガなんですが(そこがオペレッタの特徴)音楽的には実に素晴らしいです。このオペレッタ、カルメン同様に捨て曲がありません。劇中のどの音楽も実に美しいのです。また、劇の進行はセリフで行いますで、ストーリーがサクサク進んで、これもまた実に気持ち良いのです。

 お薦めディスクは、これかな?

 このディスクは、オリジナルのドイツ語で上演されています。我々はどうせ字幕で鑑賞するのですから、使われている原語は何語でも関係ないとも言えますが、どうせ関係ないならオリジナル言語が良いのではないでしょうか?

 さて、このオペレッタを代表するナンバーと言えば、誰がなんと言っても「メリー・ウィドウ・ワルツ」と呼ばれる、男女の二重唱でしょう。しかし、この曲、名曲である上に、声の指定がないので、ダニロのパートはテノールでもバリトンでも歌えますし、ハンナのパートは重いソプラノでも軽いソプラノでも歌えます。そのせいもあって、YouTubeを漁ると、オペレッタの上演シーンよりもコンサートの中で歌われているのがバカスカ出てきます。それも名歌手たちの歌唱が! なので、最初はぜひオペレッタのシーンとして歌われているのを選ぼうと思いましたが、諦めました(笑)。この曲は、コンサートで歌われている画像で紹介します。…となると、やはりイメケン&美女の組み合わせが良いでしょう、という事で、この画像で紹介します。

 いわゆる名歌手による歌唱ではありませんが、やはりこの曲は年寄りのベテラン歌手よりも、若い歌手たちの歌唱の方が良いでしょう。特に音楽的に難しい部分もありませんし(笑)。

 しかし、聞けば聞くほどに良い曲だよなあ。私もいつかこの曲を妻と二重唱しようと思ってます。もちろん、間奏ではワルツを踊りますよぉ。

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