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「あなたの声を良くするレクチャーコンサート」に参加してきました

 先日、妻の主治医である斉田先生が主催している「あなたの声を良くするレクチャーコンサート」に行ってきました。斉田先生については、先生の病院である「さいだ耳鼻咽喉科気管食道科クリニック」の公式ホームページをご覧ください。

 とてもおもしろかったですよ。先生ご自身がきちんと声楽を学ばれたテノール歌手でもあり、音声医学のトップ研究者でもあられるので、声に関する最近の研究成果を交えた興味深い話が聞けました。

 今回の記事では、レクチャーコンサートの概要についてレポートはしません。それについては斉田先生の御著書(出版準備中)をご覧ください。ここでは、斉田先生の話を聞いて、私が「ほぅ」と思った事とその感想をメモ程度に書き残しておきます。なお、先生のお話を聞いた私のメモを元に書いてますので、私の聞き間違いや誤解もたぶんに入ってますので、文責はすとんにあると了解してください。そこんとこ、よろしくね。

肺は背中にある
 いや、実際、そうなんですよ。レントゲンを見ると、肺って体の背中側にある器官なんですね。体の前面には心臓やら胃袋やらがあって、肺は実は背中にあります。だから、深く息を吸い込むと、背中が膨れるのは当たり前なんです。むしろ、息を吸って背中が膨らまなければ、それは息をちゃんと吸っていないって事なんです。息を吸って腹が膨らむのは、吸った気になっているだけで、実は全然息が吸えていないのです。いやあ、目からウロコでした。

肋骨下部はウンと広がる
 息を深く吸うと背中は膨らみますが、中でも肋骨下部は目一杯広がります。それはレントゲン動画で分かりました。肋骨上部は背骨と胸骨につながっているので可動域が狭いのですが、肋骨下部は直接胸骨につながっておらず、肋骨上部経由でつながっているので、可動域がとても広いのです。なので、肋骨下部を広げずに息を吸うと、肋骨上部はさほど広がらないので、やむなく肩が上がるのです(胸式呼吸ですね)。これもレントゲン動画で見て、よく分かりました。

声の高低は声帯の厚みで決まる
 音程は、声帯が輪状甲状筋に引っ張られる事で作られます。引っ張られた結果、声帯は薄く長くなります。声帯を弦と考えると、長くなることで高い音が出るのは矛盾しているような気がしますが、実は声帯は引っ張られるので、長くなるというイメージよりも、引っ張られて薄くなる(弦で言えば“細くなる”に相当する)というイメージで、高い音が出るそうです。つまり、高い音が出したければ、輪状甲状筋を鍛えていくしかないのです。

高い声ほど優しく歌う
 上記のとおり、高い声を出している時の声帯はとても薄くなっており、傷つきやすい状態になっています。その状態でムリムリに声を出すから、声帯に障害が生ずるわけです。なので、ムリムリな発声はダメで、薄くなった声帯からは優しい声を出すように心掛けないと、ノドが壊れてしまうのです。

男声と女声では声帯の使い方が全く違う
 これは驚きでした。ストロボスコープ映像で見て確認しましたが、男女では歌う時の声帯の使い方が全然違うんですね。いやあ、これも目からウロコの話でした。男声は声帯をしっかり閉じた状態から声帯の全面を使って発声しますが、女声は常に声帯の一部を閉じずに隙間を作った状態から声帯の一部分だけを振動させて発声します。これは、男声は(声楽的な意味ではなく、医学用語として)表声で歌い、女声は裏声で歌うからです。なので、男声の歌声は話し声とさほど変わらないけれど、女声は歌声と話し声(この時は男声同様に声帯の全面を使ってます)はかなり変わるのです。さらに女声は男声と比べて(常に息もれ状態なので)歌う時に多くの息を必要とします。

歌声にはシンギングフォルマントが現れる
 サウンドスペクトログラムを使って、歌手の歌声を観察してみると、おもしろい特徴があります。それは通常の話し声には現れない“シンギングフォルマント”が現れる事です。シンギングフォルマントとは男女ともに共通して3000Hz付近に強い音の密集(フォルマント)が現れることです。人の声は、周波数の低い第1フォルマント(これが音程を決めます)とそれよりちょっと高い第2フォルマント(これが音色を決めます)の二つで規定されます。なので、第3フォルマント以降のものは、あまり強く現れないので、普通は無視していいのですが、歌声では3000Hz付近に強いフォルマント(多くの場合は第4フォルマントに相当しますが、女声の高い声だと第3フォルマントになる場合もありました)が現れます。この“3000Hz付近に強いフォルマントがある声”が歌声ってわけなんです。

シンギングフォルマントが強調された声はホールに響く
 シンギングフォルマントは3000Hz付近の音で、この音程は、ピアノで言うとほとんど右端の音程になります。つまり、ピアノでも滅多に使わない音であり、オーケストラでもまず使われないほどの高音になります。オペラ歌手の歌声はこのフォルマントが第1フォルマントや第2フォルマント並かそれ以上に強力なので、彼らの歌声はたとえ音程的にはそれほど低くなくても、音響的にかなりの高音であって、これに拮抗する高い音程の音は、楽器は通常では使われないので、歌手の歌声は、一番高い音程成分を含んでいるので、オーケストラをラクラク越えてホールに響き渡るのだそうです。つまり「響きの豊かな歌声ほど、楽々とホールに響く」というわけです。

シンギングフォルマントを強調するためには、軟口蓋を上げろ
 シンギングフォルマントを強調する方法は二つあるそうです。一つは咽頭を押し下げる方法で、もう一つは軟口蓋を引っ張り上げる方法です。容易なのは咽頭を押し下げる方ですが、これをやっちゃうと母音の響きに影響が出るため、歌手はこの方法を採用するべきではなく、より難しいけれど、母音への影響が少ない、軟口蓋を引っ張り上げる方法を習得するべきなのです。

美しい声はシンギングフォルマントに限らず、すべてのフォルマントが強調される
 歌声の特徴はシンギングフォルマントなんですが、これが出現するだけでは、声は美しくなりません。やはり耳で聞いて美しい声は、サウンドスペクトログラムにかけると、シンギングフォルマントだけでなく、すべてのフォルマントがエネルギに満ちあふれています。やっぱり、声に多くの倍音を含んでいる方が、美しいと感じる声になるようです。

タバコを吸うと、女性はポリープになるが、男性は咽頭ガンになる
 声とは直接関係ないですが、タバコの影響にも性差があるようです。
 
 
 以上ですが、実におもしろいレクチャーコンサートでした。時間の割に話が濃かったので、細かい説明はかなり省かれていました。貴重な画像を次から次と見せてくださったのですが、画像分析に関する説明は、ほとんどしなかったので、自分で画像が読める人(私はレントゲン画像とサウンドスペクトログラム画像は、学生時代に散々やったので一応読めますが、ストロボスコープ画像は、その頃はそんな器材は無かったので、ちょっと苦手です)は、すごく興味深かったと思います。

 それと「レクチャーコンサート」ですから、斉田先生ご自身も何曲か歌われましたが、これはとても素人レベルの歌声ではありませんでした。あれだけ歌える人が声の専門医であり、なおかつ妻の主治医であるので、妻は安心して、ノドを壊せるというものです(ちょっと違う?)

 で、先生のレクチャーもとてもよかったのですが、実は一番感動的だったのは、先生の奥様でいらっしゃり、藤原歌劇団のプリマでもある、斉田正子氏の歌声を間近(5mほどの距離です)でたっぷり聞かせていただいた事。いやあ、ホンモノは違うよ~。目の前で、藤原のプリマさんが持ち役である「椿姫」のヴィオレッタの第一幕のフィナーレを歌ってくださったんですよ。ほんと、あの歌声には魂が抜かれますよ。

 勉強、大好き(はぁと)。

コメント

  1. もり より:

    今日のお話、すごく面白かったです。
    高い周波数を含む声はオケにも負けずにホールの一番後ろまで届く、と、レッスンでいつも言われてますが、この「シンギングフォルマント」を含む声、ということなんですね、きっと。
    こうして、構造的に説明していただくと、理解できた、できそう、な気になります。
    出来ないんですけど(笑
    レクチャーコンサート、行ってみたいなと思いました。

  2. すとん より:

    >もりさん

     斉田先生のレクチャーコンサートは、本当にお薦めですよ。病院の公式ホームページに案内が随時出るようですから、そちらをチェックされると良いと思います。ちなみに、次回は“2010年12月9日(木)港北公会堂(時間未定)”だそうです。

     私は、シンギングフォルマントを始めとして、初めて知った事も多く、今回のレクチャーコンサートで、色々と目が開かれた思いがしました。それに先生はお話も上手なので、かなり難しい話もあったのですが、妙に納得しちゃう自分がいました。

     “ホールに響く声(音)”と言うのが、音量ではなく、フォルマントの違いだったと言う事は、本当に、色々と考えさせられました。いたずらに大きな声を出すよりも、多くの倍音を含んだ声の方がより遠鳴りがするなら、自分の発声に対する態度を改めないといけないし、先生に常に言われている事って、こういう事だったのかと、今さらに納得しています。

     ああ、サウンドスペクトログラムが欲しいです。自宅の発声練習の時に、サウンドスペクトログラムを動作させながら、発声練習をしたりして(それじゃあ、機械に頼りすぎ?だね:笑)。

  3. Cecilia より:

    斉田さんご夫妻には昔から興味がありました。
    声楽を始めた頃、音友にインタビュー記事(正子さんの)が載っていて、耳鼻咽喉科のご主人と結婚されたなんてうらやましい~と思いながら読んだ記憶があります。
    そのレクチャーコンサート、とても勉強になりそうですね。
    しかも奥様の主治医??
    うらやましい・・・。
    やはり都会は良いですね~。
    すとんさんは「都会じゃない」っておっしゃるかもしれませんが私から見ると充分都会です。
    私もこの記事を繰り返し読んで勉強させていただきます。

  4. すとん より:

    >Ceciliaさん

     ウチは都会じゃないですよ、リゾートです(笑)。ただ、都会に出やすいのは確かなので、今回のレクチャーコンサートは横浜で行われたのですが、ヒョイヒョイ行っちゃいました。ある意味、毎日がリゾート気分で(だってリゾート地に住んでいますから:笑)必要があれば、すぐに都会に出られるというのは、恵まれているのかもしれませんね。

     斉田先生は長いこと、著書を書かれていらっしゃるようで、間もなく出るような出ないよう事をおっしゃられてました。御著書が世に出たら、マスト・バイだと思いますよ。本なら、都会も地方も差がないですからね。

  5. みるて より:

    いいですね、斉田先生のレクチャーコンサート。
    斉田先生はわたしの主治医でもあるので1回伺いたいと考えつつ新潟からは遠いのです(涙)
    声というより
    体をパーツに分けて説明して下さるのでとてもわかりやすいんですよ、診察時でも。
    斉田正子さんもいいソプラノさんなので
    お二人の歌を聴くだけでもよさそうだなぁ。
    でも次回も木曜日なのね(涙)

  6. すとん より:

    >みるてさん

     斉田先生は、プロアマ問わず、多くの歌手たちがお世話になっている、凄腕の先生ですね。…私はお世話になる予定が今のところないのですが(笑)。

     レクチャーコンサートはどうしても休診日に行う都合上、木曜日開催が多いとの話です。今回は、珍しく土日(それも都会で開催)だったので参加できました。いつもの木曜日の港北公会堂なら、私も参加できません。

     御著書を執筆中という事なので、早く出版なされるといいですね。それもできれば、DVD付きだとなお良いと思います。

  7. marie より:

    はじめまして。

    レクチャーコンサートについて、分かり易くレポートして下さっていて、とてもお勉強になりました。
    ありがとうございます。

    子育てが終わり、声楽を始めて2年ですが、体調がすぐに影響してしまうので、難しくもあり、面白いなぁと感じています。

    ベッリーニの曲を、いつかは綺麗に届く声で歌えるようになりたいと思っています。

    すとんさんのブログ、音楽の事が盛り沢山で、とても楽しみです♪

  8. すとん より:

    >marieさん、いらっしゃいませ。

     ベッリーニの曲、いいですね。一般の方に知られている曲はあまりありませんが、ショパンにも通じるメランコリーなメロディーがたまらないですね。いかにも“ロマン派”って感じがいいです。

    >体調がすぐに影響してしまうので、難しくもあり、面白いなぁと感じています。

     …ですね。それゆえに、体調を常に気にするようになり、健康には良い傾向かなって思います。風邪気味になると、無理せずに、すぐに休養しようとしますから(笑)。結果として、健康でいられるような気がします。

     私も美しい声で歌い続けられるように頑張ります…よ(爆)。

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