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新型コロナウィルス対応のオペラって…ありゃナシだな

 割と最近は、毎年のように見せていただいている、昭和音楽大学の大学オペラを見てきました。演目は「ドン・ジョヴァンニ」でした。今年の特徴は、新型コロナウィルスに対応したオペラ上演なんだそうです。
 まず最初に、全体的な感想を言えば、年々、音楽的な精度は高くなっているように感じられます。歌っている歌手にしても、合唱にしても、オーケストラにしても、レベルが少しずつ高くなっているように思われます。もちろん、時折は演奏にキズが見えないわけではないのだけれど、そんなモノよりも全体の満足度の方が印象深いです。
 つまり、音楽の演奏としては、ほぼ及第点以上の出来で「さすが、昭和音楽大学!」と言いたくなります。
 で、今年の目玉の新型コロナウィルス対応のオペラ上演ですが…まあ、実験としてはアリだけれど、実演としては無しだなって感想です。チケット代は格安なので、とてもコストパフォーマンスの良い優れた上演だと思います。
 そして、新型コロナウィルス対応のオペラ上演としては、よく考えられていると思います。
 まず、オーケストラピットを使用不能にして、オーケストラピットに蓋をして、その部分も舞台にします。大道具は使用しません。大道具を使用しない事で、舞台の奥の奥まで舞台として使用します。そうやって広くて奥行きのある舞台を確保したところで、その舞台中央にオーケストラを配置します。
 確かにあの狭いオーケストラピットにオーケストラを配置しては三密回避は無理ですね。なので、舞台中央の広々したところにオーケストラを配置します。そうする事で、オーケストラの各メンバーの間隔を若干広くする事ができますので、それでなんとか三密を回避しているのだろうと思われます。
 歌手たちが動き回る舞台は、オーケストラの前の部分(ここを舞台Aと仮に呼びます)とオーケストラの後ろの部分(舞台B)とオーケストラの横の部分で舞台AとBをつなぐ回廊的な舞台…まるで舞台上に2つの舞台をつなぐ花道ができたようです。ここを仮に舞台Cと呼びますと、当日の舞台は、まるで“コ”の字のような形(実際には“コ”の字の線対称で、舞台AとBをつなぐ花道は右側でなく左側)になります。
 舞台Aはほぼ、オーケストラピットの蓋の部分で、舞台Bは、本来なら大道具の裏になり、使用しない大道具を置くスペースなんだろうと思います。で、さらに舞台Bは2メートルばかり高くなっていて、舞台Bとオーケストラの境目には、数枚の幕がいつも垂れ下がっています。
 まず、中央にオーケストラが配置されている構造は、演奏前は「まるでオーケストラが主役見たいだな。きっとオペラが始まっても、オーケストラがガチャガチャ動く事で目立ち、オペラをぶっ壊すんじゃないか」と思っていましたが、実際に演奏が始まると、オーケストラはまあまあ大人しくて、全然気になりませんでした。ただ時折、指揮者の動きがうるさいなあとは思いましたが…まあ、気にしなければ気にならない程度でした。
 ソロ歌手たちは、主に舞台Aで歌い、舞台Bでは合唱が歌います。舞台Bの手前に常に幕(薄い幕[紗幕]や厚い幕[スクリーン])が下がっていて、合唱の飛沫からオーケストラのメンバーを守っています。また舞台と客席の間も5列ほど空列が続いて、舞台Aからの飛沫から観客を守っています。
 さらに、オーケストラメンバーは可能な限りマスクをし、歌手たちは必ずフェイスガードを付けます。そして、歌手たちは適度な距離を離れて演技をし、絶対に接触しません。
 大道具を使わない代わりに舞台Bとオーケストラの間の幕が、合唱が出てない場面ではスクリーンになり、何やらイタリアっぽい動画を映し出していました。
 衣装は着ません…と言うか、男性ソリストは皆タキシード、女性ソリストはドレスで通します。劇中で着替えることはありません。合唱は男女ともに上下黒のパンツスタイルです。まるで演奏会形式のオペラのようです。
 大道具を使わない、オペラ的な衣装を着ない…のは、大道具を動かしたり、オペラの最中に着替えたりして、舞台裏が混雑するのを避けるためのようです。
 とにかく、よく考えているんです。新型コロナウィルス対策としては「出来ることはなるべく行いました」という感じになってます。その努力はよく分かるし、何としてもオペラを安全に上演したいという、関係者の皆様の強い願いはひしひしと感じます。
 でもね、観客の立場で言えば「こんなオペラなら、もういいや」って感じです。なぜなら…、
1)フェイスガードはダメです、絶対。これで歌手の声がくぐもり、変な響きも付いて、声の音色がかなり悪くなり、オペラが汚れます。特に女声への影響は顕著です。歌手の声が聞きたいのに、声が汚くなるフェイスガード着用はダメダメです。歌としてのオペラは、フェイスガードで決定的にダメになります。
2)衣装はきちんと着よう。このオペラは、声のバリエーションが少ないのです(男はたいていバリトンで、女はみんなソプラノ)。女性はドレスでもそれぞれ色が違うのでマシですが、男性はみな同じ色の同じ形の服装で、おまけに声まで同じ。もう、区別付きません。だいたい、ドン・ジョバンニとレポレロが同じ服装って…オペラじゃないでしょ、これ? 騎士長の娘と村娘が同じようなドレスってのも…いかがなもの? さらに死者で石像なのに、生者と同じ衣装を着ているってのも…どうなの? 衣装がみんな同じなので、誰が誰なのか、本当に分かりにくくなり、鑑賞の妨げにすらなっています。衣装を着ていないと、誰が誰だか分からなくなります。演技だけで人物の個性を出せるほどの演技力があれば別ですが、それを学生はもちろん、日本のプロのオペラ歌手にだって求めるのは酷というものだと思います。
3)きちんとお芝居をしよう。いちゃいちゃする男女はベタベタと互いを触り合うものです。愛情深い娘は、父が死にそうならば、その頭を抱くものです。殺したい相手に銃を向けるなら、中距離から銃を向けるのではなく、至近距離まで近づいてから銃を相手に押し付けるものです。そんな当たり前のお芝居が出来ないのなら、芝居をしない方が分かりやすいです。中途半端な演技は、見ていて謎です。かえって状況を分かりづらくします。それならしない方がマシです。
4)大道具の代わりに動画? ありえないでしょ? せめて、プロジェクション・マッピングなら分かります。でも、歌の内容とは特に関係のない動画をダラダラ流されると、歌の邪魔にしかなりません。せめて歌の内容とリンクした動画ならば良しだけれど、関係の無い動画は、ほんと邪魔です。それなら、大道具も動画も無しの方が良かったです。
結論)せっかく音楽の部分が上出来なのだから、このオペラを演奏会形式でやれば、とてもとても良かったと思います。舞台の奥がオーケストラで、手前が歌。歌は、ソロに限らず、合唱も歌う人だけが舞台に出るようにすれば、舞台の上はそんなに混まないと思います。フェイスガードは外して、観客との距離を十分に取れば、特に問題はありませんが、それでも観客が不安を感じるようならば、舞台の一番前に飛沫予防の紗幕を張りましょう。紗幕は声的には、フェイスガードよりもずっとずっとマシだと思います。とにかく、フェイスガードは絶対にいけません。オケのメンバーが歌手と同じ舞台じゃ嫌だと感じるなら、オケと歌手たちの間にも紗幕を張りましょう。
 こんな形式のオペラしか上演できないのなら、新型コロナが落ち着くまでは、オペラの上演は全部演奏会形式でもいいんじゃないの? 中途半端なことをされるくらいなら、演奏会形式の方がずっとずっといいんじゃないの? 私は、そう思いました。
 オペラにはいろいろな要素があるとはいうものの、やはり最優先にすべきなのは、音楽でしょ? その音楽をダメするような上演は、一時的には良くても、長期的に見れば、客離れしか引き起こさないよ。少なくとも、私は「こんなオペラはもう嫌だ、見たくない」と思ってますから。
 一生懸命に舞台を勤めていた学生さんたちが可哀想に感じました。

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