私は時折、吹奏楽等でフルートを吹く若い子たちと話す事があります。そんな時に、色々な悩み相談を受けることがあります。まあ、たいていの場合「他人に聞くよりも、自分でもがいて解決しなさい」というナイスな返答をするようにしています。
それはともかく、若いフルーティスト共通の悩みというのが、いくつかありまして、その中でもダントツ一番なのが「どうすれば大きな音で吹けるのか」という悩みです。これは本人が自分の音が小さい事を単純に悩んでいる事もあれば、吹奏楽等で活躍している子などは、指導者から「フルート! もっと大きな音で吹け!」とか言われる事もあって、気の小さな子は、本当に真剣に悩んでいたりするんです。
で、言われて、悩んで、もがいて、なんとか解決策を見つけようとします。例えば、勢い良く楽器に息を吹き込んでみたり(そんな事をしても、音色と音程が悪くなるだけで、大きな音にはなりません)、力いっぱいホールを押さえてみたり(パッドの痛みが早くなるだけですし、メカ調整の間隔も短くなります)、首や楽器を振ってみたり(気休めにもなりません)…、それはそれは涙ぐましい努力の数々をするわけです。
まあさすがに、この問題ばかりは、自分でもがいても解決できないので、色々とアドヴァイスをしてあげたりします。
まず最初に言ってあげるのは「気にするな」です。指導者だとかコーチだとか上司だとかと言うのは、基本的に無茶振りをするのが仕事です。無茶を言うことで、言われた方が何とかしようとして、その何とかする事で成長する事を期待して無茶を言うわけです。もちろん、このやり方はコーチングとしては正しくないし、一流の指導者は、そんな無茶ぶりはしませんが、二流以下の指導者は頻繁に無茶振りをします。
無茶は無茶なので、私は「気にするな」と言ってあげるわけです。
なぜ「気にするな」というアドヴァイスをするのかと言うと、フルートって、構造的に大きな音が出ないように作られているからです…というか、現代フルートって、長い歴史の中で、これでも大きな音が出るように改良された結果の楽器で、すでにフルートという楽器としては、マックスな音量が出るように最適化されているのが現代フルートだからです。すでに最大音量が出るように最適化されているの楽器なので、これ以上の音量の増大化は、フルート製作に技術的なブレイクスルーがない限り、ありえません。つまり、結論から言えば「フルートからは、これ以上の音量は出ません」という事になります。
これ以上の音量が出ない事が明々白々なのに、それ以上の音量を出せと要求してくる指導者の言う事など「気にするな」と、だから私が言うのです。
指導者が本当にフルートの音量の増大を願っているのなら、それを奏者に求めるのではなく、バンド内のフルーティストの数を増やせばいいのです。一本のフルートだけでは、大した音量は出ません。しかし、フルートの数を増やすことで、バンドの中でのフルートの音量は増えるわけです。つまり、フルートの音が小さいのは、フルート奏者の責任ではなく、バンドの指導者の責任なので、フルート奏者は「音が小さい」と言われたからと言って、何も気に病む必要はないのです。
だいたい、フルートなんて、何をどうあがいても、笛なんです。笛は、何を頑張ろうと、所詮、笛なんです。本来、ヴァイオリンやピアノなどと一緒で、室内楽で楽しむ楽器なんですよ。そんな笛を、ラッパや太鼓と一緒に野外に持ち出して演奏すること自体が間違いなのです。
フルートに音量を求めるなら、オーケストラにおけるヴァイオリンのように、バンドの中にたくさんのフルートを用意すればいいのです。はい、解決。ちゃんちゃん。
とは言っても、指導者ににらまれた若いフルーティストさんの悩みは、そんなアドヴァイスだけでは解決できません。
そこで、気休め程度ですが、ほんの少々でも効果のあるアドヴァイスをしてあげます。
最初のアドヴァイスは「毎日、走り込みをしなさい」です。体力を増やし、呼吸筋を鍛えるために、走り込みを命じます。
だいたい「音が小さい」と言われる子は、実際に楽器の音が小さいかどうかは別として、線が細くて、弱々しい印象の子が多いです。本当にフルートの音が小さいと言うよりもいかにもその子が吹いているから、音が小さそうに感じられるだけだったりするのです。
まあ、実際、そんな子は、か細い音で吹いていたりする事も多いです。
で、そんないかにも音が弱そうな子は、音が弱そうなオーラを放っていたりするので、まずはそのオーラを消して、指導者に注意されないようにすることを目指します。それには、毎日走り込んで、元気で活発になり、体力をつけて、呼吸筋を鍛えるのです。そうすると、実際に、音が大きくなったような気もするし…ね。
最初っから、元気いっぱいな子で、今さら走り込みなんて不要な子には、どんなアドヴァイスをするかと言うと…「楽器を変えてみようか」です。部活ならば、部室にフルートなんて、いくらでも眠っているでしょう。その中で、今自分が使っているのとは別の楽器を吹いてみようと薦めるのです。奏者と楽器の相性ってのがありますから、楽器が変わるだけで、実際にあれこれ変わります。また、実際に音量が変わるかどうか別としても、気分が新しくなるだけでも、効果がないわけではありません。
あと、子どもに言いませんが、相手がオトナの場合は「楽器を買い替えてみたら、どう?」とも言います。実際、楽器を買い換えると、多少なりとも大きな音が出るようになるものです。
素材の比重が重い楽器(つまり、貴金属製の楽器)は、よく音が響きますので、音量が多少なりとも増えます。また材質的には同じでも、厚管にすると、これまた音量が増えます。丁寧に作られた高級フルートも、響きが良いので、音量が多少なりとも増えるように感じられます。私の経験から言える事の一つとして、アメリカのブランネン・ブラザーズ社製のゴールドフルートは、爆裂的に大きな音が出ます。超高級フルートですから、お値段もかなりしますが、乗用車を買ったつもりになれば、買えない額ではないので、本当にお悩みなら、そういう選択肢もあります。
楽器を丸々買い換えなくても、頭部管を変えるだけでも、音はガラッと変わります。フルートの頭部管って、美しい音を出すために作られたモノと、大きな音を出すために作られたモノがあって、それらの両立はかなり難しいらしく、多くの頭部管は、どちらかに重点を置いて作られているからです。ざっくり言っちゃえば、ぱっと見、頭部管の息を吹き込む穴のカタチが、丸いほど美音系で、四角いほど音量系になりますし、穴の面積か小さいほど美音系で、大きいほど音量系になります。
まあ、そうやって楽器を替えても、微々たる変化ですが、それでもヤラないよりは精神的に楽なので、本当に悩んでいる方には、それを薦めます。
実際のところ、フルートの音量を増やすのは無理でも、遠鳴りのする良い音で吹く事で、音量が増えたかのような錯覚を、指導者や観客にさせる事は可能です。それをするには、しっかり腹筋で支えられたトルクの強い息(決して勢いの強い息ではありません)を、その楽器に適した分量(決して多くはないです)とスピード(決して速くはないです)で吹き込めばいいだけの話なのですが、それはそれこそ、他人に教わる事ではなく、自分でもがいて解決するべき事なので、私はあえて、そういうアドヴァイスはしないのです。
こんな事を書いている私ですが、私の場合は、そもそもフルートに音量は求めないようにしていますので、使用している楽器も美音系のアルタスだったりします。それで困る事はありませんし、プロ奏者でもアルタスを使っている人は結構いますので、要は本人次第なんだろうと思います。
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