いやあ、出しちゃいました、マイナー作曲家“レオンカヴァッロ”(笑)。
思わず(笑)マークを付けちゃいましたが…。実際、レオンカヴァッロは、キラ星のごとく並ぶ大作曲家の群れの中に入れるには…ちょっと無名な作曲家である事は、私も重々承知をしています。でも、大好きな作曲家だし、ある意味、私の人生を大きく変えた作曲家であるので、無茶を承知で、ここに入れてみました(爆)。
レオンカヴァッロという作曲家は、世間的には無名作曲家されても仕方ないのです。だって、代表曲は「道化師」ただ1曲。それもデビュー作なんですよ。つまりレオンカヴァッロという作曲家は、音楽界の“一発屋”なんです。そう言われても仕方ない存在が、レオンカヴァッロなのです。
でも、その“一発”が、とても素敵なのです。
私が今のようにオペラにハマるきっかけとなったのが、このレオンカヴァッロの「道化師」だったのです。
この世にオペラというものが存在する事を知った時、その頃の私の音楽の師匠ともいうべき職場の先輩が「オペラを聞くなら、マリア・カラスとマリオ・デル・モナコを聞かないとダメ!」と言うので、さっそくこの二人の歌手の代表作を入手して、聞きました。
で、何を聞いたのか言えば、カラスは「椿姫」を、モナコは「道化師」を聞きました。
当時は、レコードからCDへの移行期で、もちろんネットなどあってない時代でした。多くの有名な演奏が(レコードだったので)廃盤となり、順にCD化されていた時代です。私が入手したカラスの「椿姫」は、モノラルのライブ音源で、実に音質が悪かったです。ほぼ、海賊盤のような音質で(今の私なら平気なのですが)当時の私には、その音質の悪さは耐え難いもので、どんなにカラスの歌唱が素晴らしいと言われていても、二度と聞きたくないと思ってしまったものです。
ちなみに、マリア・カラスの音源は、現存するモノは、どれもこれも音質的には誉められたものではありません。現在の音源を聞き慣れている耳には、耐え難いほどの低音質の録音ばかりですが…お好きな方にはこの低音質もまた味になっているようです。ある意味、フルトヴェングラーのライブ録音の第九もまた、音質的には最低最悪、海賊盤以下と言ってよほどの劣悪な音質なのですが、それでもオールドなクラシックファンに愛聴されています。おそらく、それと通じたモノがあるのだろうと思います。
カラスは素晴らしい歌手ですし、そのカリスマ性は他の歌手の追随を許さないことは私も同意しますが、その演技力や歌唱力に関して言えば、最近の歌手たちのレベルも上がり、決してカラスがトップであるとは言いづらい状況になってきたと思います。現在の世界トップのソプラノたちは、カラス並か、それ以上の演技力と歌唱力を持っていると思うので、オペラの勉強のためなら、何も無理して悪い音源(で映像があまり残っていない)カラスを聞く必要はなく、最近のハイビジョン収録のオペラで勉強した方が良いと思います。
マリア・カラスは、あの時代では、ずば抜けて素晴らしいソプラノだったのだと思いますが、後の続く世代の歌手たちは、みなカラスを目指し、カラスから学び、やがてカラスを乗り越えていったわけです。だって、カラスの全盛期って、もう半世紀も昔の話だよ。むしろカラスを乗り越えられなきゃ、ダメでしょってくらいの時間は経ってますって。
まあ、世代交代論的に言えば、モナコだってカラスと似たり寄ったりの状況でしょう。
しかし、カラスは聞けなかった私が、モナコは愛聴したのです。カラスがソプラノで、モナコがテノールだった…というのも一つの理由ですが、カラスの音源の低音質と比べると、モナコの録音は、なかなか優秀であり、現在の我々の鑑賞にも耐えうるレベルのものであった事も大きな要因だろうと思います。実際、モナコ関係の録音の多くは、スタジオ録音だしステレオ録音だし、なかなか良いんですよ。もちろん、カラスのEMIと、モナコのデッカといった、レコード会社の技術力の差もあったとは思います。
ちなみに、モナコのライブ録音(最近は結構出回ってますよね)は、実はあまり薦められません。音質がカラス並に悪いのはもちろんとして、歌唱としても、表現を優先するあまり、あっちこっちに歌唱的な破綻はあって、コレクター商品としての入手ならともかく、オペラの勉強には向きません。そういう事を考えていくと、ライブ録音がたくさんレコード化されたカラスって、本当に歌が上手いんだなあと改めて思うわけです。
閑話休題。そんなわけで、モナコが歌う「道化師」を、私はオペラを学び始めの頃、浴びるほど聞きました。そして、ある意味モナコが歌う「道化師」が、私にとって、すべてのオペラの評価基準の物差しにすらなりました。それくらい、私の血肉となったのが、この録音だったのです。
ちなみに、この録音は、さすがに現在では廃盤になっています。まあ、中古屋に行けば、高価な値段で取引されていますが、オペラの勉強のなら、そこまでのお金を支払ってまで入手する必要はないでしょう。現在安く流通しているDVDの方が良いと思います。
さて、このモナコの「道化師」にハマったのは、もちろん主役を歌うモナコの素晴らしさがあったとは思うけれど、やはり作品の素晴らしさがあった事は事実です。どんなに歌集が素晴らしくても、つまらない作品だったら、こんなにハマるわけないですもの。
実際、その後も、色々なテノール歌手が歌う「道化師」を買い求め聴き漁りました。歌手によって、表現の違いもあり、深い感銘を受けた演奏もあれば、残念なモノもありましたが、それであっても、オペラ「道化師」がイヤになる事はありませんでした。それどころか、ますます大好きになって…。私にとって「道化師」というオペラは、それくらい大切な作品になってしまったわけです。
たぶん「道化師」にどっぷりハマってしまった人は私一人だけではないと思います。この作品にハマっている人は、世界中にたくさんいるんだと思います。だから、今でも世界中の歌劇場で上演されるわけです。
でも残念な事に、作曲家であるレオンカヴァッロにとっては、これが最初で最後の成功作だったのです。
どんな気分だったのでしょうね。彼は「道化師」以降も多くのオペラを書いていますが、どれも現在上演される事はありません。当時的には、失敗作の連続であったと聞きます。
あと、彼は歌曲も多く書いていますが…現在でも普通に演奏される曲は「Mattinata/マッティナータ(朝の歌)」くらいでしょう。良い曲ですが、この曲は、曲の良さで残ったのではなく、当時の大スター、エンリコ・カルーソのために作曲され、彼が歌って録音してヒットしたおかげで残っている曲なのです。彼が書いた多くの歌曲は「Mattinata/マッティナータ(朝の歌)」クラスの歌曲は他にもたくさんあります。輸入盤を漁ると、レオンカヴァッロの歌曲集もありますし、歌曲の楽譜も割と簡単に入手できますが…なかなか実際の演奏会では聞けませんよね。
実際に、レオンカヴァッロは、普通に良い曲はたくさん書いてます。ただ、歴史の流れの中では、いずれ消えてしまう程度の作品ばかりなのは否めないでしょうね。そういう意味で、やはり彼は“一発屋”なのです。
最後に面白い作品を紹介します。この曲も、やがて歴史の中に消え去ってしまう事は必定なのですが…。テノールと管弦楽のための交響詩です。珍しいジャンルの曲ですよね。タイトルは「5月の夜」です。歌詞はフランス語です。この曲は、詩人と音楽の女神の会話を交響詩にした作品です。詩人の歌唱をテノールが、音楽の女神の部分はオーケストラが演奏するという意欲作で、決して悪い作品ではないのですが…それでも残らないというのが、いやはやなんともです。
この曲がフランス語ではなく、イタリア語かラテン語で書かれていたら、もう少し演奏のチャンスも残っていたろうになあ…なんて思ったりします。
演奏時間は、小一時間です。お時間のある方は、どうぞ。
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