毎朝、人間が起きて、金魚たちがいる居間に行くと、金魚たちは「さあ、ごはんをおくれよ」と大騒ぎをします。それはそれは大騒ぎをします。なにしろ、金魚たちにとっては、その日のハイライトがエサの時間なんですから、五匹の金魚たちが我先にエサを求めて大騒ぎするのが、常です。
そんなある日、例によって、朝になり、エサの時間になって、金魚たちが大騒ぎをしているのを見ていたら、その日は騒いでいるのが四匹でした。
「あれ? 一匹、足りない…」
黒デメキンのミドリがエサをねだっていないのです。金魚がエサをねだらない…金魚に食欲がないというのは、実はかなりヤバい事なんです。
「どうした、どうした。具合が悪いのか?」
ミドリは他の金魚たちと違って、よく水底に沈んで寝ている事が多い金魚です。水底に沈んで寝る金魚って、あまり元気とは言えない子なのです。元気な金魚は、水中に浮遊したまま寝るわけで、いつも水底に沈んでいる子がエサをねだらないとなると…飼い主的には、かなり心配になるわけです。
で、さほど広くもない水槽の中にいるはずのミドリを探してみたら、水槽の奥の方で悠々と泳いでいました。でも、なんか変です。よく見ると、クチが小刻みに動いています。さらによく見ると…何かをくわえています。まるでクチに栓をされているかのように、まるで哺乳瓶をくわえている赤子のように、何かをくわえています。
何をくわえているのか…じっーと観察をしていたら合点できました。くわえていたのは、タニシの中身でした。タニシの中身の奥の方をクチの中に入れ、タニシのフタの部分が、ちょうどミドリの口元に来ていたので、パッと見た感じでは、まるでクチに栓をしているように見えたわけです。
タニシを一人で口いっぱいに頬張っている最中なら、そりゃあエサを食べには来ないよなあ…。
でも、ちょっと心配しました。と言うのも、金魚には鼻がありません。彼らは基本的にクチ呼吸なんです。クチから水を飲んで、エラに送って酸素を取り込んで、不要な水をエラから外に吐き出すのです。なので、年がら年中、クチをパクパクしているわけです。サカナの種類によっては、エラだけで呼吸しているモノもいるし、ドジョウのように腸呼吸できるモノもいるけれど、金魚はクチから吸ってエラから吐き出すタイプの呼吸しかできません。つまり、クチに栓をすると、呼吸困難になるはずなのですが…とりあえず、苦しんでいる様子はなく、むしろタニシをクチから離す事を恐れている(だって、タニシがミドリのクチが落ちれば、すぐに他の子がやってきてタニシを持って行ってしまうでしょう)から、あえてモグモグしているようにも見えます。
しかし、金魚って、どうやってタニシを貝から引っ張りだして食べるんでしょうね。手もなければ、道具も使わずに…ほんと、不思議です。
蛇足 その翌々日の事。またエサの時間にミドリがエサ争奪戦に参加せず、一人で勝手にタニシを食べていました。例によって、悠々と泳いでいたのです。「この子は、本当にタニシが好物なんだな…」と思いました。で、しばらく眺めていたら、ミドリの行動が変になりました。普段はもたもたした子なのに、急にやたらとスピーディーな泳ぎを披露し始めたかと思うと、尻を上にアタマを下にして縦になって水面に浮かび始めました。「あれあれ、何が起こったんだ!」 やがて勢い良く、ミドリのクチから食べかけのタニシが吐き出されました。…おそらくタニシがクチの中で詰まって、息が出来なくなって、もがいていたようです。タニシを吐き出して楽にはなったようですが、自分が一度吐き出したタニシをウロウロと探していたミドリですが、最終的には見つけられずに、吐き出されたタニシは緋ドジョウたちが美味しくいただいていました。自分のエサを見つけられない金魚って、生き物として、どーなんだろ?
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