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グレン・グールドと私 その1

 10代の頃の私は、バンドをバリバリやるポピュラー系の人でしたが、大学生になって、ロック以外の音楽にも興味を持つようになりました。その頃、親しくしていた友人にいわゆるクラキチ(クラシック系音楽の鑑賞を専らとするオタク)がいました。彼を仮にA君と呼びましょう。そのA君の影響もあり、私は少しずつクラシック音楽に興味関心を持つようになりました。

 A君はクラシック初心者である私に、まずどんなディスクを聞けば良いのか、など懇切丁寧に指導してくれました。A君は本当に親切だったし、彼から得たものは多かったけれど、彼に惑わされてしまった面も多かった。今日はそんな話。

 クラシック初心者としては、まず、バッハって気になるじゃないですか。名前は有名だけれど、ベートーヴェンやモーツァルトほどには初心者の耳には入ってこない。でも興味はアリアリ。そこである日、A君に「バッハを聞くなら、まず何を聞いたらいいの?」と尋ねました。

 ちなみにあなたなら、どう答えますか? 現在の私なら「トッカータとフーガ」や「小フーガ、ト短調」などが入ったオルガンの名曲集を薦めますね。もし質問者がもう少し歯ごたえのある曲でも平気なら「マタイ受難曲」の抜粋盤をお薦めしますよ。

 でもA君は違った。彼の持論は「クラシック音楽は、最高の名曲を最高の演奏で聴かなければいけない」でした。

 そこで彼が出してきたのが、グレン・グールド演奏の「ゴールトベルグ変奏曲(新盤)」でした。A君にとって「ゴールトベルグ変奏曲」は最高の名曲であり、グレン・グールドは最高の演奏家だったのです。だからそのように即答してきました。

 ええ、素直にレコード屋に行って買ってきましたよ、私。そして聞きました。そして…最悪な気分になりました。

 だって、変なんだもん、この演奏!(試聴するならこちら

 ピアノの音はブツブツ切れて、下手丸出し。ピアニストは鼻唄歌ってて、耳障りったら、ありゃしない。録音だって、変にこもってて安い管球アンプみたいな音だし。なんか、同じようなフレーズを何度もくり返してバッカじゃないの! なんか、聴いてて眠くなる~。サイテー。

 当時は真剣にそう思いましたよ。まるでお金をドブに捨ててしまったような気持ちになり、とてもとても悲しかったです。そして、私はバッハを大嫌いになりました。

 たぶん10年くらい「バッハ大嫌い病」でした。バッハと言うだけで、避けて通ってました。古くさくてつまらない曲を作る、名前だけ有名な、昔々の作曲家であると、レッテルを貼っていました。

 そのうち「G線上のアリア」とか「トッカータとフーガ」などの通俗名曲がバッハ作であると、私の頭の中で整理されてくるようになると、「バッハの曲の中にもいい曲があるかもしれない」と思うようになり「マタイ受難曲」を聴くに及び、ついにバッハを見直しました。

 それから、狂ったようにバッハにはまり、色々な演奏者で色々な曲を聴きました。そして思ったことは「バッハは器楽曲にも声楽曲にも素晴らしい作品の多い、偉大な作曲家である」こと。そして「私が嫌いなのは、バッハではなく、グールドであること」が分かりました。だって別の演奏で聴いた「ゴールトベルグ変奏曲」は、溜め息が出るほど美しい曲だったんだもの。

 演奏次第で、どんな名曲も駄作にしてしまう。なんて演奏家って罪深いのだと、これまた真剣にそう思いました。そして、なぜこんな演奏家のレコードが今だに売られているのだろうとすら思いました。

 そして、グレン・グールドとは完全に縁を切りました。切りました…切ったつもりでいました、つい最近まで。

 長くなったので、続きはまた明日。

コメント

  1. Cecilia より:

    グレン・グールドの「ゴルトベルク変奏曲」・・・皆川達夫さんの「バロック音楽の楽しみ」という番組で聴き、素直に好きになりました。
    その後、ピアノでバッハを弾くときに「グールドの真似をしちゃだめ。」という話をよく耳にしました。
    真似はよくないとは思いますが、多くの人が「最高の演奏」と認めているグールドの演奏を参考にしたらいけないのはなぜか・・・とよく考えました。

    ちなみに私は昔からバッハが大好きで嫌いになったことはありません。
    でもなぜかピアノブログの人でバッハの記事が少ないような気が・・・。
    バッハのことを書くのは弦楽器系の人がほとんどのように思えます。

    私が初心者にお勧めするのはやはりブランデンブルグ協奏曲やチェンバロ協奏曲のような楽しい曲!
    オルガン曲でも明るい雰囲気の曲が好きです。(番号は自分のブログを見ないと思い出せません。)
    実はカンタータのシンフォニアが好きです。

  2. すとん より:

    >Ceciliaさん

     ピアノブログの人がバッハの事を語りたがらない理由は、やはり楽器の問題があるのではないでしょうか?

     バッハはピアノのためには、ただの一曲たりとも作曲していないのは事実です。だって、バッハの時代には、まだピアノがなかったから、作曲したくてもできなかったのです。

     通常、バッハのピアノ曲と思われている曲は、すべてチェンバロのための曲、または楽器の指定のない曲のこと。これだと純粋ピアノ人間にとって、語りづらいのでは?

     それでも昔は平気で、バッハのチェンバロ曲をピアノで演奏していましたが、最近は古楽の見直しもあり、バッハを現代ピアノでなく、本来の楽器であるチェンバロで演奏するケースが増えてきました。現代ピアノで弾いても美しい曲は美しいので、問題ないと言えば問題ないけれど、バッハ自身は現代ピアノではなく、チェンバロの音色を想定して、その楽器のために作曲したのだから、バッハの曲についてピアノで語るのは、原曲ではなく一種のアレンジものについて語ることになるのではないかと思います。

     例えて言えば、無伴奏チェロ曲を、本来の楽器であるチェロを無視して、ギター演奏版(これが案外たくさんある)だけで語ってしまうような居心地の悪さ…?

     あれ、文章がまとまらないや、ごめんなさい。

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