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ファルセットをあえて使わないで歌ってみたら、失笑されました

 第九の練習に行ってきました。今回は合唱正指揮者のS先生のご指導でした…ので、練習場が、ちょっと混雑していました。さすが、S先生、大人気です。私も大好きです。

 そのS先生なのですが、今年は、すごくイメチェンして来られました。なにしろ、髪を短くして、ヒゲを蓄えてきました。おまけにダイエットをして、昨年よりも10Kgもおヤセになられたそうです。なんか、すごく、精悍なイメージになりました。女性陣からは、小さな声で「うわー…」って声が聞こえました。女性には、概ね、好評のようです。

 
 まずは発声練習からですが、最初に確認したのは、呼吸です。S先生の指導は、Y先生とおっしゃる事が同じなので、練習をしていても楽です。ってか、大抵の先生は、先生ごとに、その表現こそ違え、同じ内容で指導されますから、キング先生のご指導が個性的なだけだったのです。ですから、キング先生に師事していた時は、キング先生とS先生ではおっしゃる事が違ったし、指導している内容もその方向性が違っていたので、私は師事していたキング先生を尊重して、S先生のおっしゃる事をスルーしていたのですが、今は素直にS先生のおっしゃるとおりに出来るので、ちょっと、うれしいです。

 「息は吸わないでください。息は吐いた分だけ、カラダに入ってきますから、それで十分です。吸おうと思って、たくさん吸うと、カラダが硬くなるし、息を吸おうとすると、胸で吸ってしまう人もいるので、息は吸わないでください」

 「まず息を吐いてください、限界まで吐いてください。吐いて吐いて吐いたら、カラダをユルめてください。そうすると息が自然と入ってきます。入ってたら、それ以上吸わないでください。そこから息を吐き始めてください」

 「息が入ってたら、それを腰の筋肉で支えてください。支えるとは、息が一度に出て行かないようにする事です。ただし、ノドは絞めてはいけませんよ。そこから息を吐いてください。息を出し始めて、最初の10秒はお腹がへこまないように。次の10秒で少しずつお腹をへこまして、次の10秒で息を出し切る感じにググってとお腹をへこませてください」

 こんな感じで指導されていました。私はこれらの動作を、だいたい出来るのですが、あくまで“だいたい”なんだよねえ…。実はちゃんと出来ない事があって、それは“息を吐ききってユルめた時、息が腰に入らないで、下腹に入ってしまう事”。それは見事に、下腹にポッコリ入ってしまいます。

 なんでこんな事になるのかと言うと…これは、私がお腹を十分に後に引けていないから(涙)なんです。ちゃんと、お腹を後に引き続けていれば、息を吐いてユルめた時に、息が腰に入ってくるんだけど、お腹の引き足りていないので、息が腰ではなく、ユルミのあるお腹に入ってしまうのです。…まだまだ“支え”が足りないと自覚させられた私です。
 
 
 発声練習の最初に、S先生、恒例の初心者確認をしたところ、そこそこの人数がいる事を確認して、おっしゃいました。

 「第九って…これは合唱曲ではありません。この曲は交響曲であり、オーケストラの曲です。合唱も歌ではなく、オーケストラの一部として歌います。だから、歌うのが難しいのです」

 ああ、確かにそうかもね。そして…

 「第九は合唱曲ではないし、ドイツ語だし、高い音ばかりだし、本当に難しい曲です。この曲を初心者に歌わせるのは、日本だけです。しかし、この曲が歌えるようになったら、どんな曲も歌えますから、頑張っていきましょう」

 …って、励ましているんだか、引導を渡しているんだか分からない事をおっしゃってました。
 
 
 発声練習は、ハミングから始まりました。ハミングで大切なのは、響きをつかむ事なんだそうです。声はクチから出るとは考えずに“顔の骨に響かせて出す”というつもりで発声する事。その顔の骨に声を響かせるのを、つかむのがハミングなんだそうです。だから、ハミングでいい感じになったら、その調子で自然にクチを開けて歌うと響きをつかみやすいのです。

 響きを豊かにするには、ノドを広げる(ノドボトケを下げる)のが決め手です。これはいわゆる“あくびのクチ”です。ちなみに逆に響きを悪くするには、ノドを狭める(ノドボトケを上げる)のですが、これは“唾液を飲み込む動作”をすると、簡単にクチの中が狭くなるそうです。…って事は、歌っている最中に、あふれる唾液を飲み込むのは禁忌?
 
 
 曲の練習は、結局、一番最初からの復習という事になりました。音取りの確認はもちろんですが、ドイツ語の発音、意味、訳、イントネーションなど、副指揮の先生がやり残した事を確認しながらの復習でした。

 音の切り方(歌い方)の一つのテクニックとして『小節内切り』と言うのがあります。これは[四拍子なら]四拍のうちに、最後の音符の母音と子音を歌い終えてしまうという歌い方で、次の小節の頭に、前の音の子音を残さない、という歌い方です。通常は、音価一杯に母音を歌いますので、子音は次の小節にはみ出してもOKという歌い方をするのが多いのですが、小節内切りは、その小節内で音楽的なモノすべてを終了させるわけで、音楽の切れ目の箇所でよく使われます。この小節内切りをする箇所としない箇所を確認し、する箇所では、きちんと小節内切りができるように何度も練習しました。

 練習記号Gの八分音符の箇所は、各音符がスラーでつながっているけれど、慣習上、ここはスラーではなく、マルカートで歌うので、一つ一つの音にしっかりと腹筋でアタックをかけて歌う練習をしました。またテノールはこの箇所で何度も高いGが出てきますが、それらの高音は、すべて弱拍なので、そこにアクセントを置かないで歌うように注意されました。

 またこの箇所の後半に現れる、スタッカーティッシモが付いた二分音符の歌い方について、S先生はこんな事をおっしゃってました。

 「通常、スタッカートは、その音を短く発声すると考えられているし、スタッカーティッシモなら、さらに短く発声するように考えられています。しかし、それならどうして、二分音符のような長い音符にスタッカーティッシモが付いているのか? 単純に短く切るだけなら、この箇所を二分音符にせず、八分音符なり十六分音符なりで記載すればいいのに、なぜベートーヴェンは、それをわざわざ二分音符にしてスタッカーティッシモをつけたのか? これに対してカラヤンは『この箇所は、奈良のお寺の鐘の音のように歌ってください』と指示を出しました。つまり、たとえスタッカーティッシモであっても、二分音符は二分音符として、しっかり歌えと言う事なのです。スタッカートを、その音を短くして発声するというのは、我々日本人が誤解している事なのかしれません」

 ちなみに、S先生は、学生時代に、合唱団の一員として、カラヤンの棒で第九を歌った事があるそうです。これはその時の話だそうです。

 副指揮の先生が教えてくださった箇所は、練習の前半でザッと復習して、後半は、新しい箇所(練習記号は無し、595小節から)に入りました。まずは言葉を付けずに「ら、ら、ら…」でメロディーを歌って音取りをし、歌詞を朗読し、訳を確認し、リズム読みをし、最後に歌ってみるという手順でやりました。この箇所は3/2拍子という事もあって[特に男声が]リズムを正しく把握する事ができずに、途中総崩れになってしまいました。何度も本番で歌っているはずなんだけれど、どうも難しいようです。私は最初、きちんと歌っていたはずですが、あまりに周りが崩壊してしまうので、途中で歌うのを止めました。だって、いくら正しく歌っても、一人だけ周りと違って歌っていたのでは、変、でしょ? やはり二分音符を一拍としてカウントするのは、なかなか難しいみたいです。彼ら的には、3/2ではなく、3/4で書かれている方が、基準となる音符が四分音符になるので、分かりやすいのでしょうが、3/4ではワルツになってしまいますからね。この箇所は三拍子だけれど、ワルツじゃないわけで、だからベートーヴェンは3/2という表記にしたのだと思います。

 結局、難しい3/2は、何度も何度も丁寧に指導されて出来る様になりましたが、たぶん一週間もすると、また元に戻ってしまいそうな気がします。それくらい、難関な箇所…のようです。リズムって…やっかいですよね。

 で、練習の最後の最後は、またまた女性の方々には、先にお帰りいただき、男声合唱の復習をしました。

 425小節(一度合唱が切れて、再び入り直した“freudig, freudig,~”の箇所)の第一テノールは、高いGを連発して歌いますが、ここで『合唱の和を乱す奴がいる!』というので、S先生による犯人探しが始まりました。S先生は甘い事はなさらない人なので、第一テノール全員に、この箇所を、端から順番に一人ずつ歌わせて、注意しはじめました。

 いやあ、色々な人がいました。ある意味、全員が程度の差こそあれ、合唱の和を乱す犯人…だったのかもしれません。とにかく、皆さん、音程がフリーダム(泣笑)。ほとんどの人が音に届いていないので、先生が一人一人に正しい音程を口移しに教えて、矯正していきます。まあ、高いGって市民合唱団のテノールにとって、かなり高い音になります。邦人作曲家の合唱曲だと、この高いGがテノールのほぼ最高音になりますから、多くのテノールさんにとって、高いGは鬼門だし、出せない人も大勢いるわけです。…ちなみに、第九には、高いGどころか、高いAも出てきます。それも、後半になると、イヤになるくらい、たくさん出てきます(ボソっ)。

 で、私の番になりました。私が当該箇所を歌った時、周囲(主にバス)の方から、何人もの方が失笑されていました。いやあ、五十歳を過ぎて、他人に失笑されると言うのは、かなりヘコみますよ。

 そこで先生が間髪入れずに「あなたの音程はとても正しいです」と言ってくださいました。ちなみに私の前に歌った人で音程を誉められた人はいないんですよ(えっへん)。しかし「でも…」が続きました。

 「あなたの音程はとても正しいです。でも、その声では周りと合いません」

 ま、そりゃ、そうだよね。だから失笑されたんだよね。私以外のテノールさんは、高いGを皆さんファルセットで歌いました。でも、私はGをファルセットではなく、アクートで歌います。たぶん(バカにしているわけでないので、誤解して欲しくないけれど)、市民合唱団のテノールさんだと、アクートの発声が出来る人って、ほとんどいないと思います(アクートで歌うのは、とても難しい事です)。アクートで歌えないので、高い音は皆ファルセットで歌って逃げるわけで、だから、市民合唱団に属している人は、テノールの高い音はファルセットでしか聞いた事がなかったりするんじゃないかな? そこへ私がアクートでGを歌ったから「こいつ、なんか、変な声で歌っている!」あるいは「何、ソリスト気分で歌ってやがるんだ!」って事で、失笑されてしまったんだと思います。

 ……ちなみに、私はソリスト気分ではなく、歌い方の基本がソリスト仕様なんです、と言うのも、ソリストはどんな高音でも、例外を除いて、ファルセットは使わずアクートで歌いますから。もっとも、本来は合唱団のテノールだって、ファルセットじゃなく、アクートで歌うべきだと、私は思ってます……。

 それに、S先生ご自身は練習の時に、よくこう言います。「たとえ合唱であっても、テノールが高い音をファルセットで歌ったら“負け”だよね」 そう、S先生御自身は、テノールがファルセットを使って歌う事を良しとはされていません。ただし、次のように言葉が続きます。「テノールが高い音をファルセットで歌ったら“負け”だよね。だけど、アクートにこだわって、音が届かないのは、もっとマズイね。音が届かないぐらいなら、ファルセットを使って正しい音程で歌った方がマシというものだよ」 つまり、S先生はファルセット容認派でありますが、ベストな歌い方はアクートだと信じている方です。

 ちなみに、S先生ご自身はテノールですし、現役テノール歌手として、今もあちらこちらで歌われていらっしゃる方です。頭声は使われますが、いわゆるファルセットは使いません。

 だから、私がアクートでGを歌う事は否定しません。でも、あまりに周りと声が合わないのは、合唱指揮者として容認できないわけで、指導が入りました。アクートで歌いながら、ファルセット軍団と音色でケンカをしない方法を教えてくれたわけです。

 まず姿勢を注意されました。アゴを引き過ぎと言われて直されました。私はジラーレをするために、アゴをノド側に引き、額を前方に傾ける様にして歌っていましたが、顔は正面向きにし、アゴは下方向に落とす様に言われました。そして、ノドの奥を今以上に大きく開ける様に言われました。「今以上に…?」という感じで悩んでいたら「伸ばした人指し指を、クチの中に入れてごらん。その時に、指がクチの中で何も当たらないように、ノドを広げて……そうそう、かなり歌いづらいだろうけれど、そんな感じで歌ってみてください」と教えてもらいました。指がクチの中の何にも触れないほどに広げるとは、口の中をウルトラマックスに開かないと出来ません。

 ちょっと、練習が必要な歌い方だけれど、アクートのまま、合唱で歌うコツのようなものを教わりました。口を最大限に開く事で響きを増やし、ジラーレをあまりさせずに、明るい音色を保って、ファルセット軍団と折り合いをつけて歌う…という手口ですね。うん、今回の練習に出て、良かったです。

 この話を帰宅してから妻にしたら「S先生は歌手の味方だからねえ…、普通の合唱指揮者だったら、アクートで歌うテノールなんて、追い出すんじゃないの?」 …でしょうね、だから今までも追い出されてきたのかもしれない(汗)。でもでもね、DVDとかTV放送とか見ると、合唱団のテノールって、皆さん、アクートで歌っておりますよ。ファルセットで歌っておりませんって。だから、私は、テノールの歌唱として正解なのは、やっぱりファルセットじゃなくて、アクートだと思うんですよ。でも、音楽は生ものだし、周囲のテノールがファルセットで歌うのなら、ファルセットも正解なのかもしれませんが、やっぱり私は、高い音をファルセットで歌うのはイヤだな。アクートで歌えるのに、ファルセットを使うのは、とてもイヤだな。だって、それって“負け”じゃん(笑)。
 
 
 しかし、今回、一人一人が歌っているのを聞いて、本当に皆さん、高音は、ファルセットで歌っているだねえ…。合唱と独唱では、発声方法に違いはない…けれど、その運用方法には、もしかして、大きな違いがあるのかな? そして、私は合唱好きだけれど、かなり、声にしても、歌い方にしても、独唱寄りになってしまったのだろうなあ。私がもっともっと歌が上達すれば、合唱の声と独唱の声の使い分けが出来るようになって、合唱も独唱も可能になってくるのだろうけれど、今はそこまで余裕がないので、合唱で歌うと、色々とぶつかるんだと思う。

 まあ、頑張っていきましょう。

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コメント

  1. 椎茸 より:

    合唱をしていてイヤなことってあんまりないのですが、
    「他のパートor他の人に笑われる」これはいや~~~ですよね。
    つい、「自分だってできてないくせに…」とか、いやな気持ちが芽生えてしまいます。なんでかな。一生懸命やっているのがわかれば、笑う気になんてならないはずですが…

    それはともかく、テナーは合唱といえども、輝かしい高音を聴かせてくれたほうがいいと思います。そうするとパートの声が合わなくなることも容易に想像できるので、ファルセットを多用する事情もよくわかりますが、それでも何人かは非ファルセットで歌わないと、フニャフニャになりそうですね。
    男声合唱団のトップテナーもファルセットでしょうか? ちょっと違う気もします。そのへんが参考になるような気もします。

  2. すとん より:

    椎茸さん

     まあ、合唱に限らず、他人に笑われるのはイヤですし、いい年したオッチャンにとっては、相当なダメージを受けるものです。とは言え、人はそれぞれですから、私は、なるべく気にしないことにしています。

     “他人を笑う”という行為は、相手を笑って慰みものにする事で、相手を蔑み、自分よりも下位の存在として[心理的に]見なす精神行為です。ですから、他人を笑う人は、たいてい自分自身が強いストレスを感じていたり、劣等感を持っていたりする場合が多く、そのために、精神的に自分より下位の存在を作り出して「自分はまだそこまではダメじゃない」というふうに安堵感を得ようとする、一種の代償行為です。なので、私は他人を笑うような事はするまいと思っていますし、他人に笑われても気にしないようにしてますが…それでもやはり、神経を逆撫でするような声で笑われるとカチーンときます。人間修行が足りていないのです。

     テノールのファルセットと、アルトの地声。合唱でよく問題になる発声ですね。本当は、それぞれ頭声や胸声で歌って欲しいのだけれど、なかなかそれが出来る人が少ないので、合唱界では、やむをえずファルセットや地声で歌うという習慣(?)が生まれてきたのだろうと思いますが、それはあくまでも“やむなく”のはずではないかと、私は思いますが、最初からそれしか知らなかったら、そんなものだと思ってしまうのでしょう。

     やはり、内声部って、難しいんだよねえ。

    >男声合唱団のトップテナーもファルセットでしょうか? ちょっと違う気もします。

     そう言われれば、そうですね。地元にも男性合唱団はありますが、そこのメンバーって、第九には参加しないのです。別の場で「なんで第九に参加しないの」って尋ねた事がありますが「第九を歌うと、声を痛めるから歌わない」って答えてくれました。なるほどって思いました。

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