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2011年 ラ・フォル・ジュルネに行ってきたよ その5…野外演奏も捨てたものじゃない

 朝一番のマスタークラスに満足した私は、時間的にお昼になったので、昼食に向かってもよかったのですが、精神的に満足すると、空腹を一時は忘れるものらしく、このまま食事しに行くのがモッタイなく思ったので、食事は後回しにして(例によって、展示ホールの代わりの)マルキューブに向かってみました。

アンドレイ・コロベイニコフのブラームスとバッハ

 マルキューブは、ちょうどアンドレイ・コロベイニコフが出演するところでした。彼は去年、ホールCでショパンのピアノ協奏曲第1番を聞いているんですよね。これはなかなか期待できるって思いました。

 ステージに上がった彼は、一生懸命、ロシア人鈍りの聞きづらい英語で曲紹介をしてくれました。演奏曲目は以下のとおりです。

ブラームス:三つの間奏曲
バッハ/ブゾーニ:シャコンヌ

 最初の曲は「スリー・インテルメッツォ」って言いたかったのでしょうが、私の耳には「スリー・インスツルメント」って聞こえました。えっ? 三つの楽器がどうしたの? って頭に???がたくさん飛びましたが、演奏を聞いて納得。って、別に演奏された曲のメロディを知っていたわけではなく、短めの曲を三曲連続して演奏したので、ああ、これは“三つの楽器”じゃなくて“三曲の~”って言いたかったわけね…と頭の中を働かせて、「インテルメッツォ」と「インスツルメント」の聞き間違いだと判断したわけです。英語を話すのは、何も英米人だけじゃないわけで、訛った英語にも対応できる耳を作っておかないとダメですね、ちょっと反省。

 でもね、日本人の英語も鈍りがキツいし、ブラレイ先生のフランス訛りの英語もキツかったけれど、コロベイニコフ君のロシア訛りの英語は、相当キツいぞぉ。

 で、肝心の彼の演奏だけど…実に残念だった。彼の演奏は、マルキューブで聞いちゃダメだね。彼のような繊細で美音なピアニストを、あんなうるさい雑踏の中で、P.A.でガンガンに拡声しちゃったら、良いところなんて10パーセントも残らないよ。特に最初のブラームスなんて、やらない方がむしろよかったんじゃないかな? 本当につまらない演奏だったと思うし、コロベイニコフの名前を下げちゃうような演奏でした。でも、同じ演奏を、きちんとしたクラシック向けのホールやサロンで聞けたら、評価は全然別になったと思います。ま、彼のようなピアニストには、マルキューブは似合わないわぁ。あれは可哀相。まあ、彼と言うか、彼のマネージメントサイドの失敗だよね。会場の特性を考えて選曲する事って大切ですね。彼のような資質のピアニストが演奏しても、マルキューブのような雑踏の中でも、きちんと聞き応えのある曲を提案するのが、マネージャーの仕事だよね。

 その点、バッハの方はまだマシって感じでした。ブラームスが繊細なピアノならば、こっちは、粗野で粗削りっぽい感じの演奏でした。おそらく、チェンバロでの演奏を意識したメリハリだらけの演奏を意識していたのだと思います。ブラームスよりはマシだけど、やりすぎはやはり良くないと思いました。

 まあ、来年のラ・フォル・ジュルネはロシア音楽なので、きっと彼はまた東京にやってくるでしょう。その時のリベンジを期待したいと思います。
 
 
 さて、コロベイニコフ君の演奏も終わり、お腹もすいたので、昼食にしようと思いましたが、マルキューブって丸の内にあるんですよね。丸の内って、物価が無闇に高い町なんですよ。“丸の内価格”っていうの? さすが高級サラリーマンの町だけあって、ちょっとしたレストランのランチタイムであっても、ちょいとお高め。東京国際フォーラムまで戻って有楽町に行って食べるか、東京駅の向こう側に行って、八重洲で食べるかと迷ったところ、どうやらマルキューブのある丸ビルの地下はお弁当屋さん街のようなので、お弁当ならば、いくら高価と言っても限界はあるでしょうから、ちょいとのぞいてみる事にしました。

 案の定、ワンコインで食べれるものなんて見つけられなかったけれど、紙幣が一枚あれば、なんとか食事にありつけそうだったし、イート・インのコーナーもあったので、丸の内OL向けの、ちょっとオシャレで小振りなオムライス・ランチを食べました。美味しかったですよ、満腹とは程遠かったけれど(笑)。

 そこで食事とトイレを済ませて、さあ次は…と予定表を見ると、三菱一号館広場で木管四重奏をやるじゃない。ああ、これ、よさそう。これを聞きに行こうと時計を見ると、開演まで、もう5分を切ったところ。丸ビルから、三菱一号館まで、遠くはないけれど、普通に地上をアッチラコッチラ歩いたら、信号だっていくつかあるし、五分じゃ絶対に間に合わない。そこで考えた私は、地下通路を早足(走ってないよ:笑)で移動したら…三分で到着。やったね!
 
 
木管四重奏

 三菱一号館広場って、いい場所ですね。とても東京のど真ん中にあるとは思えない。ミドリ多めのおしゃれな空間です。その一角に四人の木管奏者が現れました。別にグループというわけではなく、今日のこの日のためのアンサンブルのようでした。メンバーは、ファゴットが君塚広明氏、フルートが黒田聡氏、オーボエが中山達也氏、クラリネットが渡辺一毅氏でしたが、私、誰一人として知っている人がいませんでした(ごめんなさい)。演奏曲目は以下のとおりです。

ヤナーチェク:三つのアラビアの踊り
ブラームス:マリアのための三つの歌
マスカーニ:カヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲
フランセ:木管四重奏曲

 ここは野外/屋外にも関わらず、拡声無しの生演奏。でも周りを背の高い建物で囲まれているせいか、自然な感じでよく響いて、かなり聞きやすい状況でした。私は、演奏者からだいぶ遠くにいましたが、それでも十分に音楽が楽しめました。

 曲は、最後の曲だけが、木管四重奏のためのオリジナル曲だけれど、その他はアレンジものだそうです。ま、そりゃあそうだよね。有名な曲で、木管四重奏のために書かれた曲なんて、簡単には思いつかないよね。

 演奏場所が野外で、多少の風もあったので、四人の演奏者の譜面台には洗濯ばさみ(?)がたくさんありました。「我々木管奏者は野外演奏に不慣れで…」と言い訳してましたが、たしかに金管の人はお外も得意でしょうが、木管の人は、基本引きこもりだから、野外演奏は苦手でしょうね…。

 最初のヤナーチェクは、リードの楽器が大活躍って感じの曲で、なかなかおもしろかったです。やっぱり、リード楽器ってオリエンタルな感じがしますね。特にダブルリードのオーボエなんて、アラビアの民族楽器ですって紹介されたら、そのまま信じちゃいそうなくらい、音楽と音色がハマってました。

 ブラームスも、やっぱり、リード楽器が頑張ってましたね。フルートだけがエアリードで、音色が違うので、どうにも不利というか、孤軍奮闘な感じになってました。野外演奏は鳥の鳴き声と楽器の響きが重なり合って、ホール演奏とは、また違った良さがありますが、途中ヘリコプターの騒音と楽器の演奏音が重なって…じゃなくて、かき消されて残念でしたよ。

 一転して、マスカーニでは、フルートが主役で、その他の楽器は脇役にまわりました。私はそれまで「やっぱフルートの音は響かねーなー。金管どころか、リード楽器にも負けてんじゃねーぞー、見かけ倒しかぁ?」なんて、心の中で毒を吐いてましたが、すいませんでした、最初の二曲では、フルートはサポートにまわっていたんですね。きちんと主役を張ろうと思えば、立派に主役をなれていました。いやあ、マスカーニでは、フルートの響きが実にすばらしかったです。やっぱり、フルートは、こういう“祈り系の曲”が似合います。

 最後の“木管四重奏曲”はオリジナル編成のためか、どの楽器にも見せ場があるし、実にかっこ良かったです。現代曲だと紹介されたので、難解で楽しめない曲だったらどうしようと思ってましたが、いや実に楽しくてメロディアスな曲でしたね。こういう曲は、自分からはなかなか聞きにいけないタイプの曲なので、こういう曲を聞けるのも、ラ・フォル・ジュルネの楽しみの一つです。

 よかったですよ。後で妻が「あの木管四重奏曲が、あの日一日の中で、一番よかった演奏だったと思う」と言ってたくらいです。
 
 
 と言うわけで、最終日の昼下がりまでを書いてみました。続きは、また明日アップします。

コメント

  1. しーちゃん より:

    カヴァレリアはほんとに、フルートにぴったりな素敵な曲ですよね(*゚ー゚*)
    私も今度の発表会でフルート4本で吹きます。

    ところで、木管四重奏のフルートの黒田聡さんて、
    ムラマツで講師をされている方ではないでしょうか?

  2. すとん より:

    >しーちゃんさん

     カヴァレリアの間奏曲はいいですね。オペラで聞いている時は、間奏曲って、ほんと“休憩の曲”なんですよ。怒濤の前半が終わって、耳も心もジーンとしている時に、それらをリセットするための曲で、ここで調整を終えた耳と心で、改めて仕切り直しって感じで、後半のクライマックスに臨むわけで、実際、オペラを聞いている時は、この間奏曲って、全然聞いてません(笑)。それこそ、テレビで言うところのCMみたいな扱い。文字通り、前半と後半の間で奏でる曲って感じです。

     それを改めて取り出して聞いてみると、いい曲ですね。

     フルートを始めて、そう感じる事が増えました。フルートの曲の中には、オペラの曲をアレンジしたものがたくさんありますが、それらの曲は、オペラの中では、地味だったり、耳に止まらなかったりするような曲だったりします。例えば、フルートで言うところの「カルメン」なんて、オペラじゃ第三幕の前奏曲ですから、誰も音楽なんか聞いてない(笑)。あそこは、舞台の上に密輸入団の連中が現れて、思い思いの小芝居をしているわけで、観客的には、第三幕で破局を迎える、ホセとカルメンは、一体どんな歌唱/演技をするのだろうと、ワクワクしている場面ですからね。だけど、歌や芝居を取り除いて、その音楽だけを聞いてみると、結構いい曲なんですよね。こんないい曲を、こんな目立たないところで使うなんて、オペラって、ほんと、もったいないなあと思います。

     黒田聡さん…ググッてみたら、おっしゃるとおり、そうみたいです。その顔の方が、演奏してました(ムラマツ関係には疎い私です)。

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