ひとことで言えば「難しい」です。時間もエネルギーも掛かりますから「難しい」と言うよりも「無理」というべきかもしれません。
私のフルートの先生であるH先生の元には、音大入学を目指して、若い人たちが大勢入門希望を持って、先生のお宅のドアをノックするんだそうです。一応、力量等を把握して“自分で教える生徒”“アシスタント(H先生のお弟子さん)の先生に任せる生徒”“断る生徒”と分けるそうです。
ちなみにこれら3つに分ける基準は、大雑把に言うと“自分で教える生徒”は基礎基本がしっかり出来ていて、純粋にフルート演奏を教えればいいだけの生徒で、“アシスタントの先生に任せる生徒”はほぼ素人で基礎からしっかりと教えてあげないといけない生徒なんだそうです。ちなみにアシスタントの先生のところで基礎が出来上がれば、H先生ご自身で教えるようにするそうです。
で、最後の“断る生徒”というのは、悪い癖が身についている生徒さんの事で、先生曰く「悪い癖を取るだけで何年も経ってしまって、気がつくと入試になっちゃうから、最初っから教えない事にしているんだよ」との事です。つまり、中途半端な経験者はお断りって事なのです。先生が教えるなら、中途半端な経験者よりも、全くの素人の方がうれしいらしいです。
で、そんな中途半端な経験者に該当する生徒さんは、たいてい吹奏楽部あがりで、部活で悪い癖をたくさん身につけちゃうんだそうです。ですから、H先生は、基本的に吹奏楽経験者は教えませんし、自分の生徒やお弟子さんには「吹奏楽をやっちゃダメ」と言っています。先生曰く「吹奏楽は、自分の演奏スタイルができあがってからやるなら、かまいません」との事で、修行中にやるのは良くないという考え方です。
以上はガチな生徒やお弟子さんの話で、オトナの生徒さんの場合は、あれこれ基準が違うそうです。もちろん、吹奏楽経験者もOKです。
私の場合、前のフルートの先生であった笛先生がしっかりと基礎基本を教えてくれたおかげで、オトナなのに基礎基本がちゃんとしていて、悪い癖が無いのは、実に珍しいと言われました。なので、今、H先生に直接教われているのかもしれません。なんか、申し訳ないです。
それにしても、間違った学習結果や悪い癖を取り除くには、本当に時間がかかります。私の場合、フルートは上記のとおり、ちゃんと教えてもらっていたので、特に問題はありませんでしたが、声楽の方は、あれこれ苦労をしました。
キング先生のところで学んだ事って、今の声楽の先生であるY先生の教えてくださる事とは、真逆な事が多いんですよ。キング先生のところで「やりなさい」と言われていた事は、Y先生の元では「それはやっちゃダメです」だし、キング先生のところで「それはダメだから、別のやり方をしましょう」と言われた事は「もっとやってください」って感じになります。最初のうちは、本当に頭が混乱しました。
Y先生がおっしゃる事は、割とオーソドックスな事で、別の声楽の先生たちと同じような事を注意されるような感じです。キング先生の方は、独自理論の元、個性的な歌い方を指導されるので、全然歌のスタイルが違っていて、それで教える方向が真逆になってしまうのだろうと思います。
私的には、Y先生が教えてくださるオーソドックスな発声法の方が合っているみたいなので、こちらの方向に自分を伸ばしていきたいと思ってますが、それをするためには…
1)キング先生のやり方を止めて、カラダから抜く。
2)一度、真っ白な素人状態に戻します。
3)そこにY先生のやり方を入れていく。
この3つの段階を経なければ難しかったです。
私の場合、キング先生には約5年ほどお世話になっています。で、1)のキング先生のやり方をカラダから抜けるようになるまで5年ほど掛かりました。つまり、習っていた時間と同じ時間、習った事をカラダから抜くのに時間がかかったわけです。5年でキング先生から習った事をすべて抜いたわけではなく、5年掛かって、少しずつ抜け始めたという感じで、今はだいぶ抜けましたが、それでもまだ抜けていない事もあります。
と言うのも、キング先生に習った事が、すでに私の中で定着していて、癖になっていることも多くあるからです。癖になってしまった事を取り除くのは、5年や10年では無理みたいです。
だから、門下って大切なんだろうなあって思うわけです。門下が変われば、やり方があれこれ違うわけで、私の声楽のように苦労をしてしまいます。フルートの場合、実は笛先生とH先生は同門で、大師匠が同じ方なんです。なので、私が笛先生の元からH先生の元に移動しても、あまり困らなかったのはそういうわけで、声楽のキング先生とY先生は、門下も学閥も全然違い、全く接点がないので、その間を移動した私は、こんな感じで苦労をしているわけです。
一度身につけた事をチャラにして、別の新しいやり方を入れるのは、ほんと難しいです。特にオトナになってしまうと、とてもとっても難しいと思います。ましてや、それが間違った学習結果であったり、悪い癖であったりしたら、そりゃあもう、悲劇としか言えないわけです。
つまり、最初っからちゃんとした先生にきちんと基礎基本を叩き込まれるところから始めないと、後でとっても苦労をするって話です。そう考えると、自分自身が先生という「独学」って、かなり怖い橋を渡っているのかもしれませんね。
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コメント
楽器の練習、しかり、
会社の仕事、しかり、
部活でも、仕事でも、
悪い先生・悪い先輩に教わった「間違い」って
直すのが大変、
っていうか、本人は「間違っている」ってことを知らないまま、
今度は、自分が先輩になって、後輩に教えてしまいますからね。
( ̄▽ ̄;) ( ̄~ ̄;) ( ̄□ ̄;)!!
おしまい
オペラ座の怪人の怪人さん
そう、先輩から間違った事を習ってしまうと、それを修正するのが大変なのです。
別に吹奏楽部の悪口が言いたいわけではないけれど、日本全国の大半の吹奏楽部の指導者は、音楽教師でもなければ、音楽の専門家ではありません。自分自身が生徒時代に吹奏楽部に所属していたという“先輩上がり”の方が割と多いのですが、そうでもない全くの素人が(恐ろしい事に)指導にあたっていたりします。
なので、大半の学校では、ずぶの素人である新入生が、一年前に楽器を学び始めたばかりの先輩と称する初心者から、楽器演奏の指導を受けたりするのです。ああ、まるで盲人が盲人の手を引いて道案内をしているかのようです。
でもこれは吹奏楽部だけの問題ではなく、それが学校の部活動の実情なのです。
学校の部活は、学校を卒業すると同時に部活も卒業してしまいます。部活は所詮、生徒たちの“青春の思い出”ですから、それに対して、技術的に正しいとか間違っているとか言い立てる方が野暮なのかもしれません。
でも、誤りが伝統として引き継がれていく事すらあるわけで、私はそういう風潮が個人的に悩ましく思っています。
自分たちは楽しんでいるのだから横から口を出すなと言われれば、そのとおりだと思うし、H先生のようなプロの音楽家から見れば、教えるのに値しない若者たち…と思われていると知ると、何とかしてやりたい気もしないではないです。
所詮、私は無力なのです。