よく駅前で「憲法9条を守ろう」と大きな声でアジっている爺さんたちを見かけます。日本には言論の自由があるので、彼らが何を大声で主張しても良いと思うし、私もそんな事に気をかけませんが、彼らは時々、その主張の中で「憲法が改正されたら、徴兵制が復活してしまいます!」と叫んでいます。
徴兵制の復活? 別にそれって憲法改正とは全く関係ないし、それ以前に、たとえ憲法を改正しても徴兵制なんて絶対に復活しないのに、どうして、そんな嘘をつくんだろ? いや、嘘と言うか、デマだし、それで人々の恐怖を煽り立てるつもりなら、もはやテロですらあるでしょ? たちが悪いです。
憲法改正の是非は横において、今回は徴兵制復活なんてありえないって事を、私なりに書いてみたいと思います。
まず、徴兵制ってのは、かなりカビの生えた制度であり、現実的な制度ではないので、もしも憲法改正などがあって、これから軍関係の法規を整備する事になっても、日本が徴兵制を導入する事は、まずありえません。その理由として、私は以下の3点を考えます。
1)国際的には古すぎる制度
まず、現実問題として、現在徴兵制のある主な国を以下に列記します。
イスラエル・マレーシア・韓国・北朝鮮・中国・台湾・スイス・スウェーデン・ノルウェー・フィンランド ドイツ・オーストリア・フランス・デンマーク・ロシア・シンガポール・ベトナム・キューバ・タイ・ラオス・エジプト・クウェート・モンゴル・ギリシャ・ウクライナ・キプロス等、実は73カ国あります。
世界には約200の国がありますから、徴兵制がある国は、その中の1/3の少数派である事が分かります。その他の、世界の6割の国には、軍隊はあっても徴兵制度なんてありません。
また徴兵制がある国は、よく見ると、軍事的な野望が大きな国だったり、それらの国の近隣国でその驚異に怯えていたりする国だったり、テロリストが暗躍する国だったりします。まあ、ある意味政情が不安定な国が多いと言えないわけでもありません。あと、昔から徴兵しているので、惰性で徴兵制がある…って国も、きっとあるでしょう(笑)。
さらに言うと、これら徴兵制がある国であっても、大半の国が“良心的兵役拒否”が可能になっていて、合法的に徴兵を拒否する事ができます。なので、兵役拒否できずに、強制的に徴兵されてしまうのは、最初に書いた4カ国(イスラエル・マレーシア・韓国・北朝鮮)だけなんだそうです。
つまり、21世紀の現在、多くの国で兵士の募集は志願制を基本とし、たとえ徴兵制であっても合法的に徴兵を拒否する事が可能で、強制的な徴兵制を行っているのは、特殊な事情を持つ一部の国だけなんです。なので、今から日本が軍隊を整備するとしたら、徴兵制などという古めかしい制度を導入するわけないんです。
ちなみに、当然のことですが、現在の自衛隊は志願制です(言わずもがなですな)。
2)徴兵された兵士はむしろ邪魔
昔々の日露戦争のように、兵士の屍を積み上げてでも敵地を占領すれば勝ち…という戦争のやり方をしているなら、そりゃあ兵士はたくさんいればいいし、彼らはライフル持って敵陣に飛び込んでいくだけだから、脳筋兵士で十分なわけです。兵隊さんは質よりも数! とにかく歩兵がたくさんいないと戦争にならない…と言うのなら、大量に兵隊を揃えるために徴兵制は必要かもしれません。
現在の戦争はそんなに単純ではありません。無論、歩兵は必要ですが、すでに歩兵は戦争の主役とはなりえません。今の主役は、巡航ミサイルとか弾道ミサイルの各種ミサイルであって、それらを補うように空母運用の爆撃機が必要とされていたりします。とにかく、兵器の一つ一つがデリケートなハイテク機材なのです。ライフル持って突撃!って時代じゃないんです。
これらの機材を使用するには、脳筋なだけではダメで、きちんとした専門教育が必要なのです。つまり兵士の育成に時間とお金がかかるんです。おまけに、ハイテク兵器は値段が高い。どこの国でもハイテク兵器を揃えるために、兵士の数を減らし、その人件費を兵器購入にまわしています。
徴兵して兵士を獲得しても、彼らはモチベーションが低いわけだから、それらを教育で高めなければいけないし、現在の兵器に対応できるようにも教育をしなければいけません。そうしないと使えないのです。で、徴兵期間というのは、一般的に半年~2年です。そんな短期間では、十分な教育を行う事ができず、結果、熱意と練度の低い、使えない兵士を大量生産するだけなのです(某国の軍隊を見れば分かるでしょ)。で、そんな彼らを飼うために膨大な人件費が必要とされるのです。
徴兵制で使えない兵隊に予算をつぎ込むぐらいなら、その分でミサイルを購入するのが現代の軍隊ってヤツです。
だから現在の軍隊は、多くの国で志願制、あるいは実質的志願制であり、最初から熱意の高い人間を集めて、彼らを集中的に教育を施し、長期に渡って働いてもらう事で、軍隊が軍隊として成り立つわけです。
つまり、必要なのはきちんと教育と訓練が施された職業軍人なんです。
徴兵された兵士なんて、今やただの穀潰しなんですよ。彼らを徴兵するなんて、ただの税金の無駄遣いなんです。だから、徴兵制度の復活なんて、税金の無駄遣いは、日本で出来るはずがないし、そんな事をしたら、軍隊の現場で働く軍人さんたちが真っ先に反対するでしょう。
3)政府が転覆する
確かに一部の保守系政治家さんたちは徴兵制の復活を唱えていますが、日本はきちんとした民主主義国家であって、選挙が正しく運用されています。なので、徴兵制復活となれば、日本人がそれに賛成するか? しないでしょ? 少なくとも、令和に生きる一般的な日本人たちは、老いも若きも、昔のような徴兵制復活には賛成しないでしょう。つまり、徴兵制復活が選挙の争点になった段階で、政府が転覆し、政権がふっとぶんです。
そんな自殺行為、普通の政治家の感覚でやれるわけないです。
なので、たとえ憲法が改正され、日本が戦争ができる国になったとしても、日本に徴兵制が復活することは、金輪際ないんです。
なんて事は、私ですら、このように思いつくんですよ。それなのに、大きな声で「徴兵制が復活します」と叫ぶのって、嘘にもほどがあると思うんですよ。
ほんと、たちが悪い。言論の自由とは、嘘や恐怖で他人の心を洗脳することではありません。そういうのは、テロ行為って言うんだよ。そんな嘘をついていると、別の点で、良いことを言っているとしても、誰も信用してくれないんだよ。分かっているのかな?
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蛇足 ちなみに、徴兵制は、現在の憲法の第18条(何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない)で禁止されているというのが政府見解なので、その一点だけで、日本では徴兵制の復活なんてありえないんですよ。あ、だから「憲法が改正されたら徴兵制復活!」って言うのかな? でも憲法9条ならともかく、18条は人権に関する規定だから大きくは変わらないと思うんだけどな。それこそ、もしもここが大きく変わって、我々の権利が大きく制限されるような憲法の案が出たなら、憲法改正そのものが不可能になってしまいます。そういう意味でも、徴兵制の復活なんてありえないんだよ。
コメント
すとんさん
徴兵制がある国はあるものの、拒否出来る国がほとんどなんですね!勉強になります!
徴兵が義務になってもモチベーションが低いために練度が低い兵士が量産されるのは想像に難くないですね。。僕もそうなると思います。
ショウさん
ちょっと考えて調べてみれば、徴兵制がいかに時代遅れの制度なのか分かるのですが、それを調べたり考えたりする人が少ないのが問題なのかもしれません。他人にだまされないためには、常に自分の頭で考えることが大切だと思います。
それにしても憲法を変えたくないからと言って、徴兵制うんぬんを言い出して、人々を恐怖で支配しようなんて、やり方が敵国のスパイかテロリストのようです。それを同じ日本人がやっているのかと思うと、なんか情けなくて情けなくて…。