ヴィブラートとは、ヴァイブレーションの事。略せば“バイブ”って事で『振動』を指します。
音楽用語としては、そもそもは“声の振動”を意味し、声に輝きと潤いを与えるものだと言われています。で、声のヴィブラートがあまりに美しかったので、各楽器もそれをマネて音に振動を与えるようになったわけです。
ちなみに、楽器はそもそもがノン・ヴィブラートの音が基本ですから、ヴィブラートを“付ける”訓練をしますが、声の場合、そもそも声が自然に振動するものですから、特にヴィブラートの練習というのはしません。音楽ジャンル(女性歌手が少年歌手のパートを歌う必要があるジャンルなど)によっては、ノン・ヴィブラートで歌う必要あるので、そのためにヴィブラートを付けずに歌う訓練をするほどです。
横道にそれますが、少年の声(ボーイソプラノなど)には、基本的にヴィブラートはかからないんですね。でも、成人女性の声にはヴィブラートがかかってしまうので、同じ音域(ほぼ)同じ声色であっても、少年と成人女性の声には違いがあります。
閑話休題。ヴィブラートとよく混同されるものに“こぶし”があります。ヴィブラートが無意識に付加されるモノであるならば、こぶしは意識的に付加していくモノです。そういう意味では、楽器のヴィブラートは意識的に付加していくモノですから、歌の世界(日本の歌謡曲とか演歌の世界です)の“こぶし”に近いモノなのかもしれません。
声のヴィブラートは、音程の振動を指します。ですから、低い声はゆったりとヴィブラートがかかり、高い声は小刻みにヴィブラートがかかっていきます。音程とヴィブラートの振動感覚というのは関連があるので、これを無視して作為的にヴィブラートを掛けると、違和感が生じ、汚く聞こえます。
作為的…とは違いますが、結果的に不自然な振動を与えてしまい不快感を与えてしまうのが、いわゆる“縮緬ヴィブラート”と呼ばれるものです。これは声の老化の一種で、声帯周りの筋力低下に伴い、発声動作に痙攣が伴うようになり、そのために不自然な振動が声にかかってしまう事が原因だと考える人がいます。作為ではないので、本人には自覚はないのですが、ヴィブラートの振動が音程とは関係なくつけられているので、聞き心地が良くないのです。こうならないためには、歌う人は、ある一定の歌うための筋力維持というのが必要になるのだろうと思います。
で、楽器のヴィブラートですが、ヴァイオリン等の弦楽器のヴィブラートは、声と同じ音程に振動を与えるヴィブラートですが、フルート等の管楽器のヴィブラートは、声とは違って、音量の変化によるヴィブラートで、厳密に言うと(管楽器のヴィブラートは)ヴィブラートと呼ぶべきではないのですが、他に呼び名がないし(声の)ヴィブラートの効果を目指してかけているので(管楽器のヴィブラートも)ヴィブラートと呼んでいいのだろうと思います。
ま、そもそもヴィブラートは、声に輝きと潤いを与えるための技法であり、たまたま元祖である声は音程を揺らして効果を得ていたわけですが、音量を揺らして同じ効果を得られるなら、同じものと扱ってもいいんじゃないかって考えるわけですね。
ヴィブラートは、いわば美しい楽音を作り出すための技法の一つであって、歌の場合は、正しい発声方法が身につけば、自然と身につくものであり、特に意識するものではないと思います。
楽器の場合は、意識的に習得しないと身につかないものなので、ヴィブラート奏法ができるようになるためには、そのための特別な努力と修練が必要になります。弦楽器の場合は、ヴィブラート奏法は、かなり古い時代に一般的になってしまったため、ヴィブラートのない弦楽器の演奏音というのは今では考えられないので、たとえアマチュア奏者であっても、頑張って習得していかないといけないと思います。
そこへいくと管楽器のヴィブラートは、これが奏法の中に組み込まれてきたのは、割と最近(フルートなら20世紀前半のモイーズから一般的になってきた…と私は聞いています)なのだそうで、近年の流行りと言えば、言えます。なので、管楽器のヴィブラートは、歌や弦楽器のヴィブラートとは異なり“マスト”なものとはまだまだ言えないと思います。ネットでは、初心者に毛の生えたくらいの人(ごめんなさい)がヴィブラートの習得に励む様子がよくアップされていますが、私が個人的に思うに、ヴィブラートに励む時間があったら、もっと基礎的な訓練に時間をかけて、まずはきちんとフルートが吹けるようになるのが先決だと思います。ヴィブラートはあくまでも、音に輝きと潤いを与えるための技法であり、いわばオプションですから、オプションを習得する前に“きちんと普通に吹けるようになる事”が前提になってくると思います。
オプションよりもメインを先に身につけろよ…って話です。オプションはメインを終えてからで十分だろうって…事です。
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