ウィルアム・ボートン指揮
イングリッシュ・シンフォニー・オーケストラ
セント・マイケルズ・シンガーズ
輸入盤です(日本盤は無いようです)。このCDも昨日紹介したのと同様に、男声アルトやカウンターテノールが平気な人に向けのCDです(笑)。アルトパートはカウンターテノールが歌ってます。ただし、ソプラノは女声ですし、合唱団のソプラノ&アルトは女声です。
合唱の声は(実際の年齢は知りませんが)とても若い声です。特に女声は本当に若い声です。ソプラノなどは小娘と言うか女学生と言うか、そんな声ですし、アルトだって若いOLさんの声って感じです。爽やかに女性ホルモンが香る歌声って感じで、オジサン的には、音楽の内容よりも、合唱の声にうっとりしてしまいます。
このCDの一番の売りは、ショー校訂のノベロ版の譜面を使って演奏していることです。ノベロ版って、あのオレンジ色の楽譜です。この楽譜を使っている合唱団の方々って結構大勢いるのでは?
最近のメサイアのCDって、原典版と称してベーレンライター版を使った演奏か、ある特定の場で演奏されたマイナーなバージョンの楽譜に基づいたものが幅を利かせていて、実際に演奏の場で多く使われているノベロ版の楽譜に基づいたCDがなかなか無くってねえ…。そんなわけで、ノベロの譜面を使っている方々にはお薦めです。
とは言え、合唱部分に関して言えば、ノベロもベーレンライターも大きく違うことはありませんので、そこにこだわる必要は本当は無いのかなあと思ったりもします。実際私も、ベーレンライターの譜を開きながら、このボートンのCDを聞いたりもしてます。
私はオーケストラの響きを確認したり、合唱の歌い回しを調べたりする時に、このCDを聴く事があります。あと、CDの演奏に合わせて歌う時もコレかな。つまり、勉強用のCDとして使う事が多いかな、私の場合。
勉強用って書くと、演奏が良くないような印象を受けるかもしれませんが、決してそんな事はないです。きちんと水準以上の演奏してます。ただ、あまりに普通で、個性的ではないので、自分を音楽ファン(あるいはクラシック・ファン)だと自負している人には、他人に薦めるCDとして、これをチョイスするのは難しいかな。
普通ってどういう意味かと言うと、それはもちろん私が考える普通なんだけれど「普通に音楽ホールに行って聞けるメサイアの音」という意味です。分かるかなあ…。
どの辺が普通のメサイアかと言うと、まずオーケストラの響きがマイルドで普通。合唱の響きがマッシヴで普通。混声合唱な点が普通。メリスマのある曲のテンポがややゆっくりめで普通。オレ様なソリストがいなくて普通。指揮者が全体を無難にまとめてて普通。ああ、うまく伝わらない! とにかく普通のメサイアなんです、ただしとても上手に普通なんです、この演奏。客観的な見地に立てば、カウンターテナーがアルトソロを歌っているという点のみが特異的な部分です。しかし、私にとっては、メサイアのアルトソロは男声パートなので、これも普通な部分です。
つまりいい意味でも悪い意味でも(カウンターテナーがいる点を除けば)アクがないのです。メサイアって、それこそ星の数ほどCDがあるじゃないですか? そんな中に入ると、このCD、アクがなさすぎで、あまり目立つ存在ではないのです。と言うか、地味? でも地味とは言え、ワビサビうんぬんって世界ではありません。だから「普通」なんです。
普通のメサイア。いいですよ。普通だから勉強用に使える。普通だから、普通を確認したい時に聞ける。ある意味貴重な演奏なんです。
このCDを例の音楽の先生に聞かせたことはないのですけれど、やっぱり「アルトはキモい」って言われてしまうかな…。でも、アルトソロを男声が歌っているメサイアのCDって、案外あるんですよ。アルトソロを男声が歌っても普通だと思うのだけれどなあ…。
蛇足。
そうそう、ベーレンライターの譜面と書きましたが、私が持っているのは、本当のベーレンライター社の譜面ではなく、全音楽譜出版の奴。青い譜面ではなく、赤い譜面の方ね。青い方は高価だし、購入できる場所も限られているし、英語とドイツ語の両方が譜に書いてあって見づらいです。赤い方は英語しか書いてないし、安価だし、アマゾンでも買えるので「メサイアの譜面を是非手元に一冊」と言う方にお薦めです。
コメント
男性のアルトソロ、すっかり慣れてしまいました。
今となってはもうそれしか聴けないかも!
女性のアルトとかメゾは情念がありすぎて・・・。(笑)
ノベロ版って全く知りませんでした。
>Ceciliaさん
情念ですか…そうかもしれない。私は女声、とりわけ低音女声には色気を感じます。だから宗教曲などでは、アルトを女声が歌うにしても、できるだけ色気のない性別不明な声がいいなあと思ってます。宗教曲とオペラは違うもの…と思っていますもので。