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地元で市民オペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」&「道化師」を見てきたよ

 これは風邪をひく、ちょっと前の話です。地元…と言っても隣市なんだけれど、いわゆる「市民オペラ」というのを見てきました。

 「市民オペラ」と言うのにも色々あるけれど、ここの場合は、ソリストとスタッフはプロにお願いし、合唱とオーケストラは地元のアマチュアを起用して、合唱団とかオーケストラの団員さんから会費(参加費)を徴収し、それに税金と財団法人からの寄付を投入して、オペラの公演を開くという、実にうらやましい企画です。ああ、ウチの市にもあればいいのに(って、赤字財政だから、ありえないか…)。

 ここの「市民オペラ」、その存在は数年前から知っていたけれど、自分事ではなかったので、心に留める事もなく、なかなか見に行くこともできませんでしたが、今年は色々とチャンスがあったので、思い切ってチケットを入手して、初観劇してきました。

 合唱団の中には知っている顔もいます。昔、一緒に歌っていた人もいます。そんな顔を久しぶりに見るために、この市民オペラを見に行ったと言っても、言い過ぎじゃないです。おそらく、客の大半は私と同じ動機、つまり「オペラが見たいから見に行った」わけではなく、単に「知り合いが出るから見に行った」のだと思いますよ。アマチュアのコンサートなんて、だいたいが、そんな感じでしょ。

 会場は、いわゆる市民会館の大ホールでやりました。古い建物で、どこもかしこも薄暗く、座席は狭くて窮屈で、クロークも無くて、散々でした。耐震基準はクリアしているのでしょうか? 客席だけでなく、舞台もだいぶ狭そうでした。オケピも狭かったみたいで、指揮者が、客席のドアから会場に入ってオケピ入りしてました。そんな光景、生まれて始めてみましたよ。つまり、会場的には恵まれていませんでした。

 客の入りは…アマチュアの公演にしては、それほどよくなかったです。スカスカ…とは言いませんが、せいぜい半分くらいかな? だいぶ空席が目立っていました。でも、これは仕方ないかな? まず、チケットの値段が高いんですよ。プロの公演の安いところとそんなに変わらない値段なんです。プロ並のお値段でアマチュアの演奏ですからね、そりゃあ、純粋な音楽ファンは相手にしません。なにしろ、お金は大切だもんね。おまけに、4日間も公演するんです。知り合いの顔を見る程度なら、4日間も通う必要はないですからね、1日行けば義理がたつってもんです。ってなると、客席に空席が目立っても仕方ないかなって思います。

 でも、逆に考えると「4日もやるのに、こんなに観客が来ている!」とも言えます。この市民オペラは、実はすごい観客動員力かもしれません。だってね、湘南のような地方都市では、プロの一流オペラカンパニーであっても、外国のオペラカンパニーであっても、4日間も連続公演したら、こんなに客、入らないよ。まあ、1回程度ならば、満席にできるかもしれませんが、たった1回の公演で満席にしても、採算ラインには載らないでしょうね。そういう意味では、4回公演なんて言う超ロングラン(なんですよ)をして、そこそこの観客数を集めるなんて、スゴいです。やっぱり、アマチュアのオケ&コーラスの観客動員力を甘く見ちゃいけませんね。

 そんなわけで、最初から「アマチュアの演奏会だし…」って感じで、プロのオペラカンパニーの公演のような期待感はなく『まあ、作品を楽しめれば、それでいいか』程度の気楽な気持ちで、見に行きました。気持ちは“友人の子どものピアノ発表会”を見に行くのと同じノリです。

 演目は「カヴァレリア・ルスティカーナ」と「道化師」という、何とも救いのない、しかし、私の大好きな、ヴェリズモ・オペラでした。

 さて、公演の中身について語るよ。

 演奏は…やはり、全体的には微妙ですね。アマチュアは無駄に“熱い”ので、そこが評価の分かれ目です。

 合唱団は、その熱さがいい方向に向いていたと思います。歌はすべからくf~fffで、mfすらない歌唱でしたが、まあ、それは劇としてはアリなので、まあ良しです。訓練はちゃんとされているので不安げな歌唱はないし、あえて無理を承知の難点を言わせてもらえば、合唱のメンバーの平均年齢が高すぎる事が残念かな。別に「老人ばかりでダメ」って言っているわけではありません。白髪頭であっても、いい歌を歌えるなら、歌的には、それはそれでいいのですが、オペラって、歌であると同時に芝居でもあるんですよね。高齢化&過疎化が進んだ村じゃないんだから、若者~中年も合唱メンバーにいないと、見た目に変でしょ。だって皆さん、私の親世代の方々ばっかりなんだもん。そんな老人ばかりじゃあ、視覚的に残念ですわ。老人の方々はそのままでも(たとえ黙役であっても)若い人をもっともっと入れないと、芝居として、とても残念です。

 でも、合唱団はまだいいです。薄目で舞台を見れば解決できる程度の問題だからです。私が大きな問題を感じたのは、オーケストラの方です。

 仮にも高い入場料を取ってのオペラ上演です。たとえ、アマチュアオーケストラと言えども、ちゃんと仕事をしてくれないとダメでしょう。「市民オペラ」は、有料の演奏会であって、立派な経済活動です。アマチュアと言えども、高額な入場料をいただいて演奏しているという事は肝に命じておかないといけないと思います。

 アマオケに上手な演奏は期待しませんが、最低限の事はやっていただかないと…。最低限の事とは「歌の伴奏」です。歌のジャマをせず、歌をしっかりと支え、歌手を助けるような演奏をするのが、オケの最低限の仕事だと思います。

 具体的に書けば、弦&木管楽器は、歌手の足を引っ張ってしまいそうなくらい、音程が甘かった所が多々ありました。練習が足りなかったのかな? 金管&弦楽器は、音量大き過ぎ。歌手の歌声をかき消してはいけないと思います。オペラの主役はあくまで歌手であって、オケではありません。

 これは“アマチュアの熱さ”が、オケの場合は、悪い方向に出てしまったためだと思います。一生懸命になりすぎて、ついつい、前へ前へという演奏しちゃったんでしょうね。あれじゃあ、歌手たちがカワイソウですよ。歌手たちは生身なんですから。

 しかし、オケは老若男女のメンバーがいてバランスが良いですね。なぜ、合唱ばかりが老人中心なのか? 若い人にとって、楽器演奏は魅力あるけれど、歌には惹かれないと言うのか? これは「この団体が…」と言うよりも、アマチュア音楽界全体で考えないといけない問題なのかもしれません。ここに限らず、どこも合唱(とりわけ混声合唱)の超高齢化が進んでいます。すでに活動を停止した団体もたくさんあります。そういう意味では、ここの「市民オペラ」だって、あと何年やれるものか心配なものです。

 若い男性(この世界では60歳以下は十分“若い”です:笑)の合唱離れをリアルに感じました。…まあ、そんな事を言っている私自身が「合唱、やめた~」とか言っているんですが(汗)。

 さてさて、歌手たちは言うと…主役クラスの方々は、さすがに素晴らしいです。オケがヨタヨタしようが、大音量で歌手を潰しにかかろうが、モノともしていませんでした。ちゃんとしたプロって、ちゃんとしてますね(納得)。でも、主役クラスでない方々は…オケにジャマされて、残念なシーンが多々ありました。観客としては、彼らの歌もちゃんと聞きたかったですよ。

 特筆すべきは、「カヴァレリア・ルスティカーナ」でサントゥッツァを歌った清水華澄氏の歌唱です。実に素晴らしかった! 発声・歌唱・演技・存在感、どれを取ってもgoodです。私は今まで「カヴァレリア・ルスティカーナ」って、テノールのためのオペラだと思っていましたし、いつもトゥリッド役のテノールばかりに注目していましたが、今回は、最初から最後までサントゥッツァに釘付けでした。もう、ほんの少しも目を離せないというくらいでした。そして、幕が降りた時には、私(お恥ずかしい話ですが)涙が止まりませんでした。「カヴァレリア・ルスティカーナ」で泣いた事なんて、始めてですよ。でも、それくらい、清水氏のサントゥッツァは私の魂を直撃するような歌唱でした。実際、私は魂を抜かれて呆けてしまいました。

 その後に行われた「道化師」の方は、カニオをやった笛田博昭氏が秀逸でしたね。いかにもな、力強いテノールでした。清水氏のサントゥッツァに魂を抜かれていなければ、たぶん感動モノだったと思いますが、実は私「道化師」が始まっても、ずっと「カヴァレリア・ルスティカーナ」の余韻の中にいたので「道化師」はうわの空で聞いてました。だって、サントゥッツァに魂を抜かれちゃって、感動があふれちゃっていたんだもん。もう、それ以上、何も入りません、お腹いっぱいだったんです。だから、笛田氏の歌唱が、理性では「おお、素晴らしい」と判断できても、心は「もう、お腹いっぱい、食べられないよ~(涙)」状態でした。…仕方ないよね。また、どこかでチャンスがあったら、笛田氏の歌唱は改めてじっくりと聞いて、味わいたいと思います。きっと、感動できるんじゃないかと思いますよ。

 「どうせ、アマチュアの音楽会だから…」とみくびっていた私が馬鹿でした。反省します。

 いや、実にいいモノを見せていただきました。確かに、演奏に傷はたくさんあったけれど、結局、オペラはソリスト次第なんですね。ソリストの歌唱を聞きに行くものなんですよね。私、次回の「市民オペラ」も見たいなあと思いました。今度はちゃんと“期待して”見に行きたいと思います。
 
 
 さて、今回の「市民オペラ」ですが、アマチュア歌劇団員として、アマチュアがオペラをするという事で、色々と感慨深く見させていただきました。はっきり言っちゃえば、これは“憧れ”ですね。だって、きちんとしたオペラの舞台に、アマチュアが出演できるんですよ。立派な舞台装置の中で、きちんと衣装を着て、オーケストラの伴奏で…ですよ。たとえ合唱とは言え、うらやましいです。

 もっとも、ここに参加するためには、隣市の有力合唱団に加入しないといけないらしいので、私にはムリだな。私の場合「合唱団員としてのキャリア不足」「声のサイズ(声、デカ過ぎ&通り過ぎ)が合唱向きではない」と「あふれる歌心(“甘すぎる音程&リズム感”とも言えます:笑)」から、合唱団のオーディションに合格できるとは思えないよ。それに、つい先日「これからは、しばらくソロで行く!」と決めたばかりだし(笑)。

 私的には、あんなに大きな舞台でなくてもいいし、伴奏もピアノ1台で十分だけど、ソリストとしてオペラをやりたいです。ノリ的には小さな町のアマチュア演劇集団のノリかな? プロの手はなるべく煩わせずに、自分たちの力で、自分たちの力の及ぶところで、コツコツと小さな舞台を実現できたらいいなあと思います。そのために、自分でアマチュア歌劇団をたちあげたんだから。道は遠いし、力量も遠く及ばないけれど、いずれはなんとか形にしたいです。

 でも、やっぱり、その一方で、大きな舞台で歌いたいという憧れはあります。もちろん、それもソリストとして(爆)。別に主役クラスでなくてもいいんです。ほんの一声二声だけのチョイ役でいいんですよ。…って妄想ですね。

 こちらの「市民オペラ」を目標に、我が歌劇団も、焦らずに、小さな一歩を積み重ねていって、やがては自分たちなりのオペラ公演ができるようにしていきたいと思います。

コメント

  1. 水香 瑶妃 より:

    オケは指揮者に問題アリって感じですね… 流石に指揮者は音楽をしっかり学んできた方をお呼びしているでしょうから、ダイナミクスレンジがしっかりしていないのは音程&リズム以前に残念、指揮者どうした? って感じですね。
    すとんさんが主役を張ってオペラ公演できるのを私も密かに応援しています。すとんさんはチョイ役が似合わない方かなぁと思ってるんで(笑)

  2. BEE より:

    やはり行かれたんですね。(^O^)
    うちの方からも母が何人かの友達と行ってました。
    母はとにかく笛田博昭さんを絶賛してましたよん
    それから合唱も上手かったと言ってました。

    とりあえず、延々と東海道線に乗って行った甲斐はあったようです。

  3. すとん より:

    >水香瑶妃さん

    >オケは指揮者に問題アリって感じですね

     いやいや、どうもそういうわけでもなく、指揮者のコントロールを軽くイナス、じゃじゃ馬のようなオケのようです。それにおそらく指揮者は、本番(と、多くてもゲネプロとあとほんの数回)の時だけやって来る、雇われ指揮者ですから、責任があるとしたら、練習指揮者の方でしょうが…それにだって、指導の限界というのは、やっぱりあるものです。

     とは言え、たとえ事情はどうであれ、やはり音楽的な最終責任は、本番指揮者が負うものですから、水香さんのおっしゃるように「指揮者どうした?」というクレーム(?)で良いのだと思います。

     私が思うに、このオケは、通常のオケ演奏ならそれなりなのかもしれませんが、歌劇場管弦楽団としては、練習不足&経験不足なんだと思います。オペラって、合わせ物ですし、歌手ってわがままですからね、オケも簡単ではないんだと思いますよ。

    >すとんさんはチョイ役が似合わない方かなぁと思ってるんで(笑)

     ありがとうございます(勝手に誉められている、と解釈していま~す)。

  4. すとん より:

    >BEEさん

     お母様も耳がよろしいようで…。笛田氏&合唱は確かに良かったですよ。

    >延々と東海道線に乗って行った甲斐はあったようです。

     湘南は遠いですからね。でも、本当に行った会はあったと思いますよ。それくらい、二人のソリストは良かったですもの。私も、あの市民オペラをナメてました。申し訳ないと思ってます。あれは、素晴らしい企画ですよ。プロの技量とアマの熱意で一つの舞台を作るって、素晴らしいと思います。

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