夢と言っても、一般的な「私の夢について」の“夢”ではなく、今回取り上げるのは、トスティ作曲「Sogno/夢」という歌曲についてです。
この曲は、以前、キング先生の元で学んだことがあります。2010年夏の話です。あの時は、ひどかったなあ…。正直、非は私にあったわけだけれど、今でもトラウマになってます。
あの頃の話を簡単にすると、2010年の夏頃、レッスンの課題に、トスティ作曲の「Sogno/夢」が出され、一生懸命、自宅練習を重ねて、レッスンに臨みました。自宅では楽に歌えるのに、レッスンでは全く歌えないわけで、あんまりそれが悔しいので、自宅で歌った音源を「ほら、自宅では歌えるのに、レッスンでは歌えないんだよ」とネットにアップしたところ、その音源を先生が聞いて、怒ったわけです。
何を怒ったのかと言うと、自宅ではレッスンよりも全音低く歌っていた、という事と、全音低く歌っていた事に気づかなかったという事。この二点を、本当にこっぴどく叱られたのです。それもレッスンの時間を丸々使って、たっぷりコッテリと…ね。いい年した立派なオッサンが、先生とは言えど、他人に一方的に延々と30分も罵声を浴びせられ続けられると…心、折れるよ。トラウマになるよ。私は今でも、あの時の、キング先生の怒りに沸騰した様子をまざまざと覚えているもの…。
ブログの記事的には…
…のあたりに、当時の事が書かれています。当時は、叱られた事に萎縮してしまったし、非は全面的にこちら側にあって、何を言っても言い訳にしかならないので、なぜ失敗してしまったのかを考えることすら放棄していました。ブログには、先生の体面を考えた表現で書かれていますが、実際のところは、曲の事だけでなく、普段の生活態度や音楽観、人格までも合わせて否定されたわけで、私も言い返したい気持ちは山のようにあったのですが、それらを堪えて何も言わずに飲み込んだものです。
一応、私も体育会系の人間ですからね。
でも、その時にきちんと気持ちを吐き出さなかったので、今でも心の底流でグチグチしているんだろうと思います。
どちらにせよ、先生の指示通りに練習してこなかった私が悪いんです。
さて、なぜ私は先生の指示された音(つまり調性)で練習してこなかったのかと言うと…もちろん、ワザとではなく、気がつかなかっただけなんだけれど…市販のカラオケを使って練習したからです。
私はピアノが弾けません。せいぜい、メロディの音取り程度しか弾けません。自分の歌の伴奏を弾く事は全然できません。おまけに、音程やら音感やらに難がありますから、無伴奏で練習をするわけにもいきません。それでも和声感だけは人並みにありますから、カラオケを使って練習(それもガイドメロディがあれば最高)すれば、そんなに大きくハズすこともなく、歌の出来の善し悪しもよく分かるようになり、練習もはかどるというものです。
当時、私が使ったカラオケは、音楽之友社から発売されている「独習と受験のためのイタリア歌曲集(2)」です。
このカラオケは「独習と受験のため~」と銘打たれているように、声楽初心者を対象とした、練習&学習用のカラオケで、うまく使えば、百人力となる便利なカラオケです。で、このカラオケに収録されている「Sogno/夢」はAs-durです。楽譜も付いてますから、それをみれば、この曲の調性は一目瞭然です。
対して、キング先生が指定したのが、全音楽譜出版社の「トスティ歌曲集1」に収録されているバージョンで、こちらの調性は、実はB-dur。つまり、カラオケ(音楽之友社)はAs-durで、先生が指定した楽譜(全音)はB-dur。ちょうど全音(カラオケのキーで言えば2つ)カラオケの方が低いわけです。
最高音で言えば、カラオケはFですが、先生指定の楽譜ではGとなります。そりゃあ、最高音がFとGでは、その難易度も雲泥の差です。特に、その当時の私はGが出なくて悩んでいた頃ですから、自宅では最高音がFですから、楽々歌えても、レッスンでは最高音がGになり、ボロボロになって全然歌えないのも、道理なんですよ。
当時の私は「音感なんてないし…」とぼやいてますが、音感どころか、付属している楽譜をちょっとでも見れば、その違いに気がつくはずなのに、そこに気が回らなかった当時の私が、スカタン過ぎるわけです。ほんと、言い訳なんて、カケラも出来ない状態なんですよ。
まあ、その一件以来、カラオケの調性にシビアになった私は、それ以降、市販のカラオケを使う時は、その調性を必ず確かめるようになりましたけれど…ね。
まあ「Sogno/夢」は歌曲ですから、「歌曲は作曲家が指定した調性で歌わないといけない。移調という作業は作曲家と作品への冒涜でしかない」というポリシーの持ち主ならともかく(ちなみにキング先生はそういうポリシーの方です)、その歌手の音域に合わせた調性に移調して歌えばいいじゃんというポリシーの方もいらっしゃるわけだから、トスティの「Sogno/夢」だって、出版社によって、様々な調性のバージョンがあっていいわけです。
当時の私は、音楽之友社のカラオケは、声楽初心者向けのカラオケだから、全音低い調性で収録されているだ…なんて、勝手に考えて,自分を納得させていました。
あれから月日もたち、私も色々な事が分かるようになりました。
別に音楽之友社のカラオケは、声楽初心者向けのカラオケだから全音低く収録していたわけではなく、音楽之友社から出版されている「トスティ歌曲集」の「Sogno/夢」もAs-durですから、カラオケの方も、あえてAs-durで収録されていたに過ぎないのです。
もうちょっと調べてみると、河合楽器から出版されている「トスティ歌曲集」の「Sogno/夢」はAs-durだし、イタリアのリコルディ社から出ている「Sogno/夢」もAs-durなんです。でも、全音出版社から出ている「Sogno/夢」はB-durなんです。
たぶん、トスティ自身は「Sogno/夢」をAs-durで書いたんじゃないかな? だから、大半の楽譜出版社では「Sogno/夢」はAs-durなんじゃないかな? 特に、オリジナル楽譜を出版しているリコルディ社の「Sogno/夢」がAs-durだしね。
どうやら、全音出版社の「Sogno/夢」が、何らかの理由を持って、全音高く移調されているんじゃないかしら? そう考えるのが、普通ですよね。
「Sogno/夢」という曲を考えると、その曲調からして、音域はあまり高く設定しない方が良いんじゃないかな? この曲は夢の曲で、まどろみの中で歌われている曲なんだから、うつろな感じが欲しいわけだし、そういう意味では全体のキーは低い方が良いだろうし、歌手にも無理をさせずに楽に歌わせた方が効果的だし、そう考えると、B-durよりもAs-durの方が適切なんじゃないかな?
それなのに、なぜ全音楽譜出版社は全音高く移調したバージョンの「Sogno/夢」を採用したのか? 全音楽譜出版社は、もしかすると、高音志向なのかもしれません。私が先日歌ったデ・クルティス作曲の「Non ti scordar di me/忘れな草」も、私が使用した音楽之友社の楽譜ではg-mollでしたが 全音出版社版では半音高いgis-mollでしたからね。
またはピアノニストの事を考えたかも(笑)。だって、As-durはbが4つだけど、B-durならbが2つだものね、黒鍵4つよりも黒鍵2つの方が弾きやすいでしょうしね。
でも、本当のところはよく分かりません。知っている方がいらしたら、ぜひ教えてほしいです。
で、キング先生の時は、全音版の「Sogno/夢」で散々な目にあった私でしたが、今回、Y先生と改めて「Sogno/夢」に取り組むわけですが、この楽譜問題もあるので、先生にはあらかじめ「全音版で行きますか? それともリコルディ版で行きますか? 全音はB-durで、リコルディはAs-durです」とお伝えしたところ「全音版でやります」とのお返事をいただきました。世界的にはどうであれ、日本では全音版で歌うのが主流、なんだそうです。そう言われれば「トスティ歌曲集大成」を録音した松本美和子氏も、全音版の楽譜を使って録音されているものね。
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コメント
思い返すと、自分も高いほうのキーで練習しました。
しかし、先生的には、ソプラノがこのキーで歌うとキンキンして聴こえて、あまり好きではないとおっしゃってました(あくまでレッスン用ということで、高いほうでやりましたが)。
テノールでしたらまた違うのかもしれません。
リベンジ期待しています♪
すとんさん、おはおうございます。
今日はたっぷりと訪問させて頂きました。
2010年の音源2曲、柔らかい声で息も流れていて良かったと思います。
(上を見ればきりが無い、それが向上に継ると思いますが)
最近のUpされたので拝聴したのは、確か「星は光りぬ」、「君なんかもう」だった様な・・?
それらが2010の、残念ながらトラウマ曲の様ですが、曲の様にリラックスして聞こえる様になったら、もう「鬼に金棒!?」ですね~ (^^)♪
私は歌ではトラウマになる程の指導は受けてません。 温湯環境、だから、先生をプラス1したい訳なんです。
でも、バレエでは発表会追い込みの練習時にありましたよ(~~);
芸術家は怒涛の迫力を持っている方が多いと思います。
大の大人が子供達も居る場で、叱られ気持ちも体もかたまりました。
本番前の非凡庸テンションは噂には聞いてましたが、「とうとう洗礼受けたわね」と先輩達に言われました><。
そこまでされて、本番が良くなってたかと言うと、本人目には一応笑顔でもビビリがアリアリ。
すとんさんの様に年数経って再チャレンジだと、良いのかもしれませんね。
楽譜も先生と同じとは限らないですね、特にソプラノ、多分テノールも。
かつての先生が、昔は転がし付きの楽譜はなくて、カデンツア集を買って勉強したと。ずっと昔のを使っている先生はOptが載ってる楽譜に驚いてましたよ。
違うバージョンも有り、オペラアリアもそれだけ楽しめる感じがします。
今日はM先生の2度目のレッスンです。
軟口蓋を伝わらせる発声練習(鼻声でなく、鼻に抜くてもない)はくすぐったくなりますが、曲を歌うと中底音域が綺麗になります、私の場合は。
それでは,又~
芸術家には、穏やかな温厚なご性格を期待したいと思いつつ、
しかし、指導者であるならば、多少の厳しさも必要と思いつつ、
指揮の斎藤某さん、バイオリンの江藤某さん、などは、
それはそれは、猛烈に厳しい指導であったと、お弟子さんが語っておられ、
厳しいけど偉大な先生が、偉大な生徒を育て上げたこともあれば、
厳しさに耐えられずに、芸術を止めた生徒もいるだろうと思うと、
芸術を指導することの難しさを感じた、今回のエッセイでございます。
椎茸さん
私も高い方のキーで練習しますよ。
>テノールでしたらまた違うのかもしれません。
まあ、さすがにキンキンする事はないでしょうが、キーが高いと、まどろむ感じではなく、シャッキリ感たっぷりの歌になってしまいます。つまり『曲想と合わない』って感じかな? さすがにテノールが歌うにしても、もう少し低いキーの方がいい感じになると思いますが…やっぱり高いキーで歌いたくなるのが、テノールのサガってやつです(笑)。
wasabinさん
2010年の音源の「夢」は低いキーで歌われたものです。低いキーで歌えば、声を張らずに済みますから、リラックスした感じになるんだと思います。でもまあ、テノールなんて、声を張ってナンボですからね。同じ声を張るなら、上手に美しく声楽的に声を張ってみたいものだと思ってます。
人は叱られたからと言って、上達するわけじゃないんです。叱られると、ビビって次からはヘタを打たない様に過緊張になるか、萎縮して腰がひけて余計失敗するようになるだけです。ま、よほどの信頼関係がなければ、教師に対する恨みだけが確実に残る事になります(笑)。
大切な事は、叱るんじゃなくて、諭さないとね。それが教育の基本のキなんだけどね。いやほんとに、他人を叱ったって、一つも良いことなんてナインですよ。
operazanokaijinnokaijinさん
芸術家は職人ですから、技術さえしっかりしていれば、性格なんて、どーでもいーんだと思います。あとは、人格の欠点を覆い隠し、面倒みてくれる有能なマネージャーさえいれば、どーにでもなります。
そして芸術家は職人ですから、そこに弟子入りすれば、そりゃあ手厳しく鍛えられるのは当然です。だって、師匠ですから。でも、教師はサービス業ですから、優しくなければいけません。客に逃げられます。
職人と教師は、本来は両立しないものだと思いますよ。
音楽に限りませんが、日本では“レッスンプロ”という存在の方がいらっしゃいます。こういう方々は自分の事を、プレイヤーだと思ってらっしゃるのでしょうか? それともティーチャーだと思ってらっしゃるのでしょうか? 『二兎を追うものは一兎をも得ず』だと思いますが…。
すとんさん、こんにちは。
歌に関してはよくわからないので調性の事。
ピアノに関して言えば、譜読みは黒鍵が少ない方が楽ですが、弾くのは黒鍵が多い方が楽だったりします。黒鍵が多いと鍵盤が手の形にうまく合うんですよね。
音感は私も相対音感しかないので、耳からだと違う調性で聴きとってしまうことが多いです。
声楽は声に合わせて楽譜が何種類もあるので紛らわしいですね。以前シューベルトの「冬の旅」の楽譜を買いに行ったら、「低音、中音、高音がありますけど?」と言われ、「オリジナルと同じ調のものを」と頼んで、店員さんを困らせたことを思い出しました。
Yokusiaさん
>「オリジナルと同じ調のものを」と頼んで
確かに、声楽の楽譜って、同じ曲でもいくつもあって、どれを購入して良いか迷いますよね。自分が歌う人なら、自分が歌える種類の楽譜を購入すれば良いのですが、オリジナルの調性にこだわりたい人とか、器楽関係者だと「どうせ買うなら、作曲者の書いた調性の楽譜がいい」って思いますよね。調性が違うと、和音の響きとか変わってきますから。
輸入譜だと、結構、そこは明記してあるモノも多いですよ。原調のモノは何も書かれていないことが多いですが、移調譜の方は、原調は何調かと書いてあるんですよ。でも、日本で販売されているものは書かれていないことが多いです。
きちんと勉強しておけば、オリジナルは何調なのか調べることも可能でしょうが、いきなり楽器店に行って楽譜を見たくらいじゃ分かりません。不親切と言えば不親切ですね。ほんのひと言なんだから、楽譜出版社はそれくらいの情報を楽譜に入れてくれてもいいのにねえ…って思うとき、あります。
imslpにもあるRicoldi版はGs duraです。
1886年版ですから、これが原調だと思いますよ。
私はイタリア在のソプラノですがこの調で歌います。
(歌詞の内容は男性のものですが....)
とおりすがりさん
>imslpにもあるRicoldi版はGs duraです。
>1886年版ですから、これが原調だと思いますよ。
私が持っているRicoldi版は出版された冊子ですが“Londra 1886”とありますので、1886年にロンドンで作曲されているようです。こちらはAs-dur(変イ長調)です。
別にあなたと争うつもりはありません。ただ、私の手元にあるモノとは違いますねって話です。変ト長調だと、だいぶ低いですね。これだと最高音はEbになります。音域的に中声用の移調されたモノとも考えられます。
ただ、曲の性質から考えれば、このくらいまで低くてもいいかもしれません。なので、この調がオリジナルである可能性は否定できません。
トスティの「夢」の原調が何なのかは、実は、今年発売されたばかりの全音の「トスティ歌曲集[新版(第4版)]」の解説に、最新の研究を踏まえて書かれていますので、それを見れば解決です。実は私、その楽譜を昨日見てきましたが、昨日はたくさん楽譜を買い込んだので、トスティを後回しにして買いませんでした。なので、今は手元にありません。ただ、「夢」の解説箇所を読んで「やっぱり移調してあるんだな」って納得したものです。で、原調が何なのか、もはや「夢」に興味を失っていた私は、きちんと見てきませんでした。私の乏しい記憶力では“変イ長調”と書いてあったような気がしますが、もしかすると“変ト長調”と書かれていたかもしれません。
どなたか「トスティ歌曲集[新版(第4版)]」をお持ちの方、解説を読んで、その結果をこちらに教えてくださると、うれしいです。