ヴァイオリンのメンテナンス講習会を受講して以来、ヴァイオリンそのもの、と言うか、ヴァイオリンいじりに興味を持った私は、もっともっとヴァイオリンをイジッテみたいという気になりました。しかし、私の手元にあるヴァイオリンはスズキ君1梃だけ。これは借り物でから、さすがにイジくり廻すわけにはいきませんし、万が一、そんな事をして、壊しでもしたら大変です。安心してイジれて、壊れてもOKなヴァイオリンが欲しくなった私です。
そんな気持ちを抱えて、ネットを徘徊していた私は、ある日、アマゾンでおもしろいものを見つけました。それは鈴木楽器(スズキバイオリンじゃないよ。主に教育用楽器とか教材を取り扱っている会社です)から発売されている「スズキものづくり教材 バイオリンキット」という、学校向けの、ヴァイオリンの組み立てキット(一応、教材)でした。おそらく、総合の授業の中で使われることを想定したモノなんだろうなあ。学校の授業でヴァイオリンを作ったなら、それはそれでカッコいいよね。
さて、このキット、お値段は驚きの7000円! ま、楽器として考えると、破格に安いですが、個人向け学校納入教材としては、破格に高いですね(笑)。
キットの中身は、いわゆる“ホワイトヴァイオリン”と言われる半完成品である未塗装なヴァイオリン(付属品の一切付いていない裸のヴァイオリン)で、これに弦とかペグと駒とかの部品がついていて(さらに弓までついてました!)、これらを組み立てて、ヴァイオリンを作ってみましょうってキットなんです。
値段が値段なので、多くは期待してません。部材とか組立精度に文句は言いません。所詮は7000円の学校向けの教材キットなんですから。
だってね、7000円と言えば、ヴァイオリン界の常識で考えると、楽器本体はおろか、弦すら買えないよ(笑)。その弦すら買えない値段なのに、ホワイトヴァイオリンとその付属物一式と弓と松脂までついているキットが買えちゃうんでしょ。実にデタラメな価格設定です。これでちゃんとした楽器が買えたら、ばちが当たるというものです。
でも、この値段だからこそ、この前、メンテナンス講習会で習った事を復習するにはちょうどよいのです。だって、壊しても惜しくないし、どんなデタラメな事でも平気でできちゃいそう。そんな、自分で自由気ままにいじれるヴァイオリンとして購入しました。
つまり、ヴァイオリンと言うよりも、ヴァイオリンの形をしたオモチャを買ったわけです。
で、さっそく組み立ててみました。時間は約15分(笑)で完成です。
ちなみに、当然ですが、中国製のチャイナなヴァイオリンです。組み立てた感じは、写真の通りです。遠目で見ると、未塗装ですから、白っぽいのは仕方ないけれど、全体の印象としては、しっかりしているでしょう。サイズ的には、あんまりいい加減な部分はなく、見た目は普通のヴァイオリンです。
ただし、近寄って見ると、結構、細かいところがいい加減です。さすがチャイナクオリティです。穴という穴には、もれなくバリが付いてますし、ペグボックスの中なんか、刃物の跡までしっかり残っていますし、塗装のムラやはみ出し(白木に見えますが、よくよく見ると、ベージュ色の塗料がしっかり塗られています。って事は、本当はどんな色の木材を使っているのでしょうか?)もたっぷりあります。
ペグもテールピースもアゴあても指板も、エボニーに見えますが、赤茶けた木に黒い塗料を塗ってごまかしたフェイクなエボニーでした。フェイクなエボニーとは言え、それでも一応木材を使っています。廉価なヴァイオリンって、ペグとかテールピースはプラスチック製のモノが大半ですから、安物とは言え、それらよりは、幾分マシな安物って事なんだと思います。
組み立てが終わったので、さっそくチューニングをして、スズキ君の弓で弾いてみました(弦を切らずにチューニングできたよ:笑)。
オモチャと思ってバカにしていましたが、一応、ちゃんと鳴りました。音もヴァイオリンの音がしました。曲も普通に弾けました。ちょっと弾きづらい感じがしますが、これは弦の高さが、どこの部分でも高いので、ナットと駒を調整すれば解決する問題だと思います。
つまり、このキットのヴァイオリン。意外な事に、おもちゃではなく、ひとまず、楽器として扱ってもよさそうな感じがします(儲け物ですね)。
ただし、楽器として扱うと言っても、そのランクは…かなり下の方です。ま、値段から見れば、それも仕方のないことですが…。
まず、音量が気になりますね。というのも、この楽器の音量は、割と小さめです。いや、かなり小さめと言っていいでしょう。とにかく、消音器をつけたスズキ君よりは大きな音がしますが、ノーマルな状態のスズキ君とは勝負になりません。とにかく、音が小さいです。この楽器なら、消音器無しでも、夜中に弾けちゃかもしれません(笑)。
それと、音量も小さいですが、響きもかなり少ないです。ほぼ、弦の音ばかりが聞こえるという印象です。と書くと、マイナスな印象になるかもしれませんが、これって実は、マイクに乗せやすい音かもしれません。
肝心の音色ですが…かなり痩せています。おまけに、相当ノイジーな感じです。音色は極端に悪いです。「ザラッ」どころが「ザラザラザラっ!」って感じです。よく、美しい音を「ビロードのような肌触りの音」と形容しますが、このキットヴァイオリンの音は「紙やすりのような肌触りの音」というべき音でした。かなり、ハスキーな音色です。しかし、これだけハスキーの音のするヴァイオリンって、なかなか無いですよ。そういう意味では、かなり個性的な子です。
まあ、クラシック系の演奏には絶対に使えません。ポピュラー系の音楽であっても、相当、曲を選ぶような気がします。はっきり言って、私はこの音、大嫌いです(笑)。お店で試奏した楽器がこんな音がしたら、即返却です。ま、もっとも、こんなひどい音のする楽器は、さすがにお店に並んでないけれどね。いやあ、実にひどい音色です。音色というよりも音濁だね。はっきり書きます。これ、ひどいよ。これだけノイジーでひずんだ音のヴァイオリンなんて、ヴァイオリンのうちに入れたくないね。総合の時間にこのヴァイオリンを組み立てて、喜んで弾いた子どもがこの音を聞いて、これがヴァイオリンの音だと認識したら…これは責任重いぞー。こんなひどい音は子どもに聞かせちゃいけません。このキットヴァイオリンって、とてもとてもダメな音色の楽器です。
とにかく、この音を聞いた私の感想は(中国に他意はありませんが)「この子は、間違いなく中国の子だな。どこをどう切っても、安物チャイナヴァイオリンの見本のような音だな」です。今まで試奏してきた中で耳にした、安い中国楽器と共通する音がが聞こえます。いや、実際、この子は中国製なんだけれど(笑)。
中国ヴァイオリンであっても、良い音のする子はいるんだけれど、この子は…ダメでした。
ま、元々は、イジリ倒すために購入したヴァイオリンですから、音色の事を言っては、かわいそうというものです。ただ、音色にこだわらなければ(あるいは聞き分ける耳がなければ)特に問題はなさそうです。つまり、この子を受け入れるかどうかは、ひたすら、その人の美的センスって奴にかかっているわけです(大笑:だから子どもに聞かせちゃダメだって!)。
とにかく、この子のデフォルトの状態と力量は、よく分かりました。
この夏は、しっかりこの子と遊ぶつもりです。さあ、イジリ倒すぞぉ~。
名前が無いと不便なので、このチャイナなホワイトヴァイオリンちゃんに名前を付けることにしました。「キラメキ(煌き)」と呼ぶことにしました。名は体を…全然あらわしていませんが、せめて名前だけでも良いものにしてあげようという、オーナー心です。もちろん「キラメキのサウンドを奏でてほしい」という無体な願いが込められています(爆笑)。
とにかく、色々と手を加えて、なるべく普通のヴァイオリンに近づけてみようと思ってます。それもなるべくお金をかけずに(笑)。ま、オトナの夏の自由工作って感じかな? だから、失敗してもいいんです。妻とは、キラメキが完成したら、玄関の飾りにしましょうという事になってます(だって、玄関にヴァイオリンが飾ってある家ってのも、いい感じでしょ)。でも、うまい具合にそれなりの楽器になったら、使ってみてもいいかなって思ってます。
なので、気楽に遊んでみるつもりです。
おまけ。キラメキに付属していた弓を、先生に笑っていただこうと、前回のレッスンに持って行って、見てもらいました。そうしたら先生曰く「毛の取り付け方がちょっとアレだけれど、ちゃんとした(安い)弓じゃないですか」というお返事でした。「練習用として普通に使えるでしょう」とのお言葉。実際、先生がこの弓でヴァイオリン弾いても、普通に聞こえます。ううむ、どうやら価格以上の価値(7000円のヴァイオリンの付属品ですから、おそらく単品で買うと1000円程度?)がある弓のようです。もしかすると…儲け物?
コメント
おぉ~作りましたか。
私も去年の12月でしたか、作ったんですよ。先生への謝礼含めて5000円ってことで、価格帯は似ていますが、なんとなく発想というかスタンスがかなり違うバイオリンなのね。この記事よんでとてもその違いがおもしろかったですよ。
ご参考までに
「一日でバイオリンを作って、弾いちゃう!?(午前編)」
http://blog.goo.ne.jp/andante-dandanto/e/e29864b811215f82b8ce68a01f063a36
「一日でバイオリンを作って、弾いちゃう!?(午後編)」
「手作りバイオリン、さて音の方は??(動画有)」
「自作バイオリンでチャルダッシュは弾けるのか!?」
の四本立てでお送りしております。
>アンダンテさん
読みました&聞きました。いやあ、本当の本当に一日でできる自作ヴァイオリンを作られたのですね。見かけは、かなりのイージーさですが、出てくる音は普通のヴァイオリンでビックリ。いや、キラメキよりもずっと普通のヴァイオリンで、もっとビックリ。
キラメキはおそらく、ネットでよく見かける、セットで1万円以下で売られているようなヴァイオリンのホワイト版だと思います。つまり、見かけは合っているけれど、中身については何も考えられていない楽器っぽいもの。あくまで、次にちゃんとした楽器に行くための踏み台のオブジェですね。そこへいくとアンダンテさんのは、見かけはかなりアレだけど、色々と考えられているのが分かります。特にペグ回りは(ちょっとウクレレっぽいけれど)それもアリですよね。…と言うか、全体的な作りがウクレレっぽいですね。
私もいずれ、組み立てあたりから作るヴァイオリンをやってみたいと思いますが、やはり組み立てモノは、先生と工具が不可欠ですよね…。
どうやったらそんなおもしろい物、見つけるのですか。
なんだか買ってしまいそうです。
きちんと磨いて、彫刻施してみたり、
塗の粉塗ってきちんとニスかけたり、
最初っからマイクとプリアンプでも
仕込んでエレクトリック仕様にしたり…
メタルの鋲打ち込んでヘビメタ仕様にしたり…
想像すると楽しそうですね。
ちなみに接着は膠ですか?木工用ボンド?
でも、バイオリンは弾いたことがない…
フルートもキット作れば良いかもしれませんね。
この際、24Kのキットとかで、リッププレートとか、
トーンホールのチムニとか、ロウ付け大変だろうけど。
完成率が低そうな気がします。
失敗したら溶かしてインゴットにする!?
きらめきといえば、ある特急列車を思い出しました。
鉄道に「かなり」詳しい人なら分かるのですが、
この特急、扱いがニッチです。
Wikiからはそのニッチさは読み取れませんが…
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8D%E3%82%89%E3%82%81%E3%81%8D_%28%E5%88%97%E8%BB%8A%29
http://www.jrkyushu-timetable.jp/cgi-bin/jr-k_time/tt_dep.cgi?c=28283
>ひょっとこさん
自分流に塗装をしている(私もそこを狙ってます:笑)はたくさんいるみたいだし、改造やチューンナップはもちろんOKです。そういう意味では、確かにおもしろいです。
接着は…本格的なヴァイオリンはニカワを使用します。でもこれは…どうなんでしょう。おそらく、お値段から察するに、ボンドメインで作られていると思いますし、私はボンドじゃないかとにらんでいます。
フルートのキットは…私も無理だと思う。だって、金工だもん。安い金属を材料として使えば、アレルギーおこすよ(笑)。ちゃんとした材料にすると貴金属になっちゃうし(笑)。溶接(ロウ付け)の技術が必要だし、モノによってはメッキも必要だから、素人には手が出ません。
でも、フルートのキットがあったら、それはそれでとても楽しいと思います。
特急「きらめき」は、確かに私では、そのニッチさが分かりませんでした(笑)。
これほしい~~!!
作りたい~~~!!
でも7000円あったらほしいものが・・・。
でも作りたい~!
このことがあったのでニスの話が出ていたのでしょうか。
>Ceciliaさん
>このことがあったのでニスの話が出ていたのでしょうか。
はい、そうです。ヴァイオリンネタばかりをブログにアップするわけにもいかないし、なるべくリアルタイムであげておきたいネタもあるので、どうしても、この手の記事は、書きためておいて、頃合いを見計らってアップさぜるをえません。なにしろ、ここのブログには「1日1記事」という鉄のルールがありますので(笑)。なので、実はリアルでは、ニス塗りの段階に入ってます。
ま、順を追ってアップしていきますし、実はヴァイオリンの塗装って時間がかかるので、今はリアルとブログの時間差がありますが、そのうちに追いついちゃうはずです(笑)。
>でも作りたい~!
おもしろいですよ。ただ単に組み立てるだけでもいいですし、フィッティングを取り替えて楽しんでもいいし、塗装に凝ってもいいし、改造してもいいし。塗装だって、別にニスにこだわらなくても全然かまわないと思います。自分流のヴァイオリンを手にするのも悪くないかもしれません…が、今のところ、音は保証しません(爆)。少なくとも、素の音はダメです。塗装をすると、高次倍音が押さえられるので、キンキンした感じが無くなるはずです。弦を変えても、かなり違うでしょうし、駒に手を加えてもおもしろいですね。ま、とにかく完成したら、また音を出してみて感想をアップするので、それから購入を考えても遅くないですよ。
だって…使い物にならない楽器は、いらないでしょ(笑)。