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帯状疱疹日記 その13 デミックスだよ、デミックス

 話は入院2日目のお昼から再開です。

 あんまり頭が痛いので、それを主治医の先生に訴えたら、カロナール(弱めの鎮痛剤)が処方されました。毎食後に飲んでくださいとの事なので、お昼を食べたら、さっそく飲みました。カロナールだけでは痛みが治まらなかったら、ロキソプロフェンも合わせて飲んでいいですよと言われたので、なんか安心しました。ほんと、頭痛はイヤだものね。

 そうやって、心の安心を得て、ほっとしていると製薬会社の方がやってきました。本日分の治験を開始しましょうと言います。で、薬(鎮痛剤)は飲みましたか? と尋ねられたので「ついさっき、処方されたカロナールを飲みました」と答えたら、なんかガッカリされました。なんでも、治験は鎮痛剤を飲んだら、その後2時間経過しないとできないのだそうです。だったら早めに言ってくれれば、カロナール飲まなかったのになあ。

 そんなわけで、治験開始が15時にズレ込んでしまいました。アンケートに答えて、点滴打って、バイタル計測です。

 アンケートは、あまり考え込まずに、その時の感覚で答えてほしいというので、前回との整合性とか矛盾とか気にせずに答えていきました。なんかねえ、私の答えが製薬会社さんの期待とは違うみたいでガッカリさせてしまったようなのです。

 とにかく点滴です。今回の薬は更に少ないです。10分ちょっとで点滴終了です。その後のバイタル計測も1時間で終了です。

 その後は、頭が痛くてベッドでうずくまるか、タブレットで読書するか、パソコンをパチパチ打つか…という過ごし方をしていました。もっと元気が出れば、音楽を聴く事も出来るんだけれどなあ…。

 やがて5時になったので、本日2回目の治療の方の点滴となります。治療の点滴は、1日に3回で、6時と14時と20時が本来の点滴タイムなんだそうだけれど、治験の時間がズレ込んだので、こちらもズレちゃっているわけです。

 18時は夕食です。ほんと、入院していると、食事くらいしか楽しみないよね。食事中って、不思議と頭痛がしないんです。きっと意識が食事に向かっているからかもしれません。なので、食事中は、YouTubeを見たり、音楽を聞く事が多いです。で、この時、何を聞いたのかと言うと…2022年版のビートルズの『リボルバー』です。

 2022年版のビートルズの『リボルバー』って、実はデミックス盤なんですよ。デミックス。リミックスじゃなくてデミックスです。

 このデミックスという技術は新技術で、ドキュメンタリー『ゲットバック』の時に開発された技術なんだそうです。

 どんな技術なのかと言うと、AIを使った技術で、一つの音声トラックに複数の音声(楽器とか人の声とか)が入っているとして、そのトラックの中の音に関して「これはピアノの音」「これはギターの音」「これはジョン・レノンの声」「これはポール・マッカートニーの声」とかいう具合に学習させておくと、その一つの音声トラックからAIが分析して、各音声ごとに分けたトラックを新たに作り出すという技術なんです。

 分かりやすく言うと、ケーキをAIに学習させると、小麦粉と卵と砂糖といった材料に分離してくれるという類の技術です。

 ビートルズを始めとする、古い録音だと、一つの音声トラックに複数の楽器音や人の声が入っているが当たり前です。その極端な例がモノラル録音で、これってすべての音が一つのトラックに録音されているのです。

 デミックスとは、こういう古い録音に対して用いる事で、各音声ごとに新しくトラックが作られて、そこから今風のマルチトラックが作成され、改めてリミックスをやり直せるっていう、分かる人にはよく分かる、素晴らしい技術なのです。

 その新技術を使って、ビートルズのアルバムとして初めてデミックスされて製作されたのが、2022年版の『リボルバー』なのです。いやあ、これ、凄いよ。

 実は『リボルバー』というアルバムは、ミックスが変というので有名なアルバムでした。実際にオリジナル盤を聞いてみると、楽曲は素晴らしいのに、ミックスがとても残念なアルバムに仕上がっています。それが2022年盤で聞いてみると、素晴らしい楽曲の詰まった普通のアルバムに仕上がっていて、素直に楽曲の良さが楽しめます。いやあ、もはやオリジナル盤は廃棄して、こちらのデミックス盤を正式採用しましょうよ…ってくらいの話です。

 ほんと凄いよ、全然別物です。

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