まずは極端なところを例に出して話を進めたいと思います。
みなさんは当然でしょうが、ムソルグスキー作曲の「展覧会の絵」という曲をご存じだと思います。原曲はピアノ曲ですが、後にラヴェルがオーケストレーションを施したものが有名ですね。私も今年のラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日 音楽祭2007)でこの曲を聞きました。いいっすね、これ。
この「展覧会の絵」という曲、メロディもきれいだし、曲想も具体的で、クラシック初心者にも安心して薦められる、非常によくできた入門曲だと思います。
ここに一人のクラシック入門者がいるとします。その人は「展覧会の絵」という曲が有名なので、ぜひ素晴らしい演奏で聞いてみたいと思う。ついては何かお薦めのCDはないかと、あなたに尋ねているとする。
さて、あなたは誰の演奏したCDを薦めますか? 定番のカラヤンですか? 最近流行りのゲルギエフですか? それともピアノ版にこだわってリヒテルですか? いっそピアノもオーケストラも両方演奏しちゃったアシュケナージでいきますか?
でもね…
まさかクラシック初心者に富田勲を薦める人はいないでしょう。
まさかクラシック初心者にエマーソン・レイク&パーマー(以下、EL&P)は薦めないでしょう。
なぜならクラシック音楽の「展覧会の絵」を聞きたいクラシック初心者に、現代音楽と化した冨田勲版の「展覧会の絵」は薦めないだろうし、プログレッシヴ・ロックになったEL&P版は絶対薦めないと思うからです。別にこれは、演奏の善し悪しとは関係なく「クラシック音楽」としての「展覧会の絵」という枠組みからは、富田勲やEL&Pは外れるので、薦める事はないだろうと思われるからです。
ベニヤミーノ・ジーリ。偉大なるテノール歌手ですし、彼の歌うイタリア古典歌曲は素晴らしい歌唱であるけれど、あれがイタリア古典歌曲の典型だと思われるのはちょっと…と思います。展覧会の絵における富田勲やEL&Pほどではないにせよ、イタリア古典歌曲という枠組みからは外れる歌唱をしていると思います。
次回は、その枠からの外れ方に関する私感を述べたいと思います。
蛇足。
若い音楽ファンの方々へ。クラシック音楽とかプログレとかの枠は取り払って、ぜひEL&Pの「展覧会の絵」を聴いて下さい。この演奏は20世紀後半のポピュラー音楽における一つの事件であり、20世紀ロックの名盤・定盤の一つだからです。まだ音楽にコンピューターが関わっていなかった時代の、それゆえに音楽と身体性とが密着していた頃の熱いロック魂が感じられます。ここで聴ける音が、たった3人の若者たちの肉体に生み出され、それがライヴ録音で収録されているって信じられますか? 私は最初に聴いた時、たぶん大学生だったと思いますが、正直「ありえない音楽」だと思いました。
コメント
「展覧会の絵」・・・うちにはリヒテルとブレンデルのがあります。(ブレンデルのほうにオーケストラヴァージョンも。)
ELPの「展覧会の絵」はビデオとCD合わせていくつあるか!
(夫のです。)
夫はムソルグスキーの曲と知ってショックを受けていました。
ELPといえば、「エルサレム」という曲について以前記事を書きました。
http://blog.so-net.ne.jp/santa-cecilia/2007-06-05
私はこの曲をELPで知ったので、偶然合唱曲で聴いて驚きました。
ELPのエルサレムは知っていましたし、作曲者がメンバーではないということも知っていましたが、その人がクラシックの作曲家とは知りませんでした。と言うよりも、Hubert Parryという作曲家のこと、知りませんでした。いい勉強になりました。