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メサイアは何語で歌う?

 ヘンデル作曲の「メサイア」は、日本ではクリスマスシーズンに耳にすることが多いオラトリオですが、皆さんはメサイアを歌った事はございますでしょうか? もしあるなら、何語で歌いましたでしょうか?
 おそらく多くの人、特に最近歌い始めた方は「英語で歌ったよ」と答えられると思います。それは正解です。だって、メサイアは英語の歌詞に作曲された曲ですから、原語である英語で歌うのが、ある意味、正解です。
 また、私は聞いたことがありませんが、日本語で歌うというのもアリです。だってここは日本だもの、お客さんが分かる原語で歌うというのは、実はとても大切な事だと思うからです。
 だから、原語である英語とか我々の母語である日本語で歌われるのは良いとして、時々不思議な言語で歌うのを聞くことがあります。
 一番多いのは、メサイアをドイツ語で歌うケースです。もちろん、ドイツ国内でドイツ人相手のコンサートなら、何の問題もありませんが、例えば、日本国内のコンサートで日本人相手に日本の合唱団がメサイアをドイツ語で歌うって…今の若い人なら「ちょっと、訳分かんない」って言い出しかねません。
 でも、私が若い時は、まだまだそういうコンサートはあったし、ドイツ語でメサイアを歌っていた市民合唱団もポツポツありました。
 実は私が人生で最初にメサイアを歌おうと思って、入団を考えた合唱団は、ドイツ語でメサイアを歌っていました。結局は入団しなかったので、ドイツ語でメサイアを歌うチャンスを逸した私ですが、その時に感じた「なぜドイツ語でメサイアを?」という気持ちは、なんとなく今に至るまで残っています。
 当時を生きていた私が思うに、当時の多くの市民合唱団で、メサイアをドイツ語で歌っていた理由には、以下の理由が考えられると思われます。
1)指導者たちが、ドイツ語が得意で英語が苦手だから
 当時は、今からは想像できないくらいに、クラシック音楽界は、ドイツ偏重、ドイツ音楽偏重の時代だったのです。当然、指導者たちはドイツに留学して勉強してきていますので、ドイツ語が得意ですが…その代わり、英語が苦手でした。
 で、メサイアの楽譜を見ると、ドイツ系の出版社(例えば、ベーレンライター社)の楽譜を見ると、今でも楽譜には、英語とドイツ語の歌詞が併記してあったりする版があるわけで、そうなれば、当時の人たちはなら、ドイツ語で歌いたくなるというものです。
 ちなみに、ベーレンライター社のメサイアには、ドイツ語&英語の楽譜もありますが、英語だけの楽譜もあります。私は後に、英語だけの版の楽譜を買いました。だって、どうせ英語で歌うわけだし、その方が視認性が高いじゃない?
2)合唱団員たちが、ドイツ語の方が得意だったから
 当時の合唱団の皆さんが歌う曲は、日本語かドイツ語に偏っていたと思います。なので、英語で歌うという選択肢は無かったわけだし、当時の日本人は今の人たちと違って、英語がメッチャ苦手でしたから、外国語で歌うなら、歌い慣れたドイツ語で歌いたいなあと思うのも自然かもしれません。
3)英語の歌詞はゲスいと思われていた
 当時の風潮として日本では(今でもそうかもしれないけれど)ドイツ語の歌は尊いのだけれど、英語の歌はゲスいという、誤った認識がありました。それも堂々とね。それは歌う側にも聞く側にもあります。だから、尊いクラシックの音楽を歌う我々が、ゲスい英語の歌詞の曲なんて歌えないって思っていた…のかもしれないし、お客の方もせっかくお金を払って聞きに行くなら、尊いドイツ語の曲を聞きたい、ゲスい英語の歌なら聞きに行かないよ…って感じだったかもしれません。
 当時は英語で歌う歌はポピュラー音楽であり、ポピュラー音楽というのは、ロックにしろ、ラテンにしろ、ジャズにしろ、不良や変態が聞く音楽であり、上品な人たちはクラシック声楽とかシャンソンとかリートとか、イタリア語とかフランス語とかドイツ語の歌を聞くのが常識だったわけです。ヨーロッパは上品で、アメリカはゲスいんです。それが当時の感覚でした。
 そう言えば、映画もアメリカ映画(ハリウッド映画)は今ほどブイブイ言わせていませんでした。映画は、普通にドイツ映画も見ていたし、フランス映画とかイタリア映画がシャレオツって思われていたんですよ。そういう時代があったのです。
 当時は、英語とかアメリカ文化に対する、憧れと反発が同時にあった時代なんですね。まだまだ“鬼畜米英憎し”という気持ちがあったのかもしれませんし、ドイツやイタリアは同盟国だったわけだから、なんとなく親しみがあったのかもしれません。。
4)モーツァルト版のメサイアが普及していた
 当時の日本では、ヘンデルが書いた原曲のメサイアではなく、モーツァルトが編曲したモーツァルト版のメサイアが人気ありました。で、この編曲で演奏する団体も少なからずあったと思います。で、このモーツァルト版のメサイアでは、歌詞がドイツ語なのです(何しろ、モーツァルトはドイツ人だし、ドイツ人向けにメサイアをアレンジしたわけだし…ね)。モーツァルトの手が加わっているとなると、そりゃあ、みんなドイツ語でメサイア歌いたくなるわなあ。私だって、ヘンデルとモーツァルトのコラボ作品って思えば、ちょっぴりそんな気持ちになりますって。
 で、あれから数十年経ちました。今も日本全国でメサイアの演奏会が開かれていますが、今はほぼほぼメサイアは英語で歌われます。たまにドイツ語歌詞のメサイアもあるようですが、それでもほとんどは英語で歌われます。今の時代、日本では、クラシック音楽は、なるべく原語で歌いましょうという風潮があるし、古楽(メサイアは古楽の範疇にはいると思います)も尊重されるようになってきたので、メサイアは英語で歌われるわけです。
 何語で歌ってもメサイアは素晴らしい音楽だと思うけれど、歌う方の負担を考えるなら、使用する言語は統一してもらいたいと思うし、統一するなら、作曲家が音楽を付けた原語の方が良いかなって、個人的には思ってます。
 なので、メサイアは英語で歌うのが無難だと思っている私でした。

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コメント

  1. 如月青 より:

    ドイツ語版のメサイアがあるとは知りませんでした!
    英語=ポピュラーという通念は今もあると思いますが、
    私が高校生のころは、ブリテンのイギリス民謡のアレンジなどは
    合唱コンクールの自由曲によくあったので、英語はゲスイという
    イメージはもうなかったと思います(年齢がバレますが昭和末期)。
    でも私の持っているモーツァルト・アリア集には、フィガロのように
    原文がイタリア語の曲でも、ドイツ語が並行してついていたりします。
    今「フィガロ」を日本でドイツ語でやるでしょうか?

  2. すとん より:

    如月さん
     ドイツ語版のメサイアだと、オーケストラが普通の市民オケとかでも対応できるんで重宝なのですよ。
     ヘンデルの原曲(?)だと、五部の弦とオルガン、ティンパニ、管楽器がオーボエとファゴット、トランペットって感じで、ちょっと楽器編成が変わっているし、オルガンが入っているので、ちょっと面倒なんですね。その点、ドイツ語版(って事は、モーツァルト版)は普通のモーツァルトの交響曲を演奏するような編成のオケでいいんです。
     まあ、歌う人は、伴奏楽器の事まで考えない人も多いのですが、オケ的にはかなりの大問題みたいです。
    >今「フィガロ」を日本でドイツ語でやるでしょうか?
     フィガロに限らず、オペラは私が若い時は日本語上演がデフォルトでした。たまに原語上演の時がありましたが、そんな時は、入り口で日本語訳が書かれたプリントを渡されましたが、客席は真っ暗にされちゃうので、そんなモノも見えず、結局、ちんぷんかんぷんのまま観劇する事を余儀なくされ、つまらなかった記憶があります。結局、意識の高い「こんな高尚な音楽を聞いちゃう、ボクちゃんって教養ある知識人だよね」というタイプの人ばかりがお客さんだったと思います。
     歌う側からすれば、原語で歌うのが一番楽なんですね。だって、学生時代から原語で勉強して原語で歌ってきたわけですからね。でも、それじゃあお客さんには何も伝わらないので、オペラ公演の際には日本語訳詩で歌うわけですが、公演ごとに日本語訳詩も異なり、そのたびごとに歌詞を暗記し直さなきゃいけなかったらしく、当時の事をプロ歌手の皆さんに尋ねると、大変だったと口を揃えて答えられます。
     今では当たり前になった、会場での字幕装置が普及し始めて、ようやくオペラ公演は原語上演が普通になってきたと思います。今でも、字幕装置が使えない状況の時は、日本語上演をしているようですが、今では、それはよっぽどの時ですね。
     この前見たオペラ(確かドン・ジョヴァンニだったと思う)は低予算オペラだったので、字幕装置ではなく、ステージに普通の携帯用のスクリーンを貼り、プロジェクター経由で、パワーポイントで作った字幕を表示していました。ああ、こういうやり方もあるんだなって感心しました。
     ちなみにフィガロの場合は、原語はイタリア語です。でも、ドイツ本国では昔々はドイツ語で上演していたらしいので、楽譜にはその名残が残っているのではないかと思います。…ってか、昔は各国とも、今のミュージカルのように、現地の言葉に翻訳されてオペラは上演されていたようですよ。

  3. SKG より:

    お久しぶりです。
    私の地元では以前10年ほど年末に市民オケとメサイア(抜粋)を
    やっていました。私も参加していましたが英語でした。
    終曲のアーメンコーラスは各パートのポリフォニックな掛け合い
    が素晴らしくまた歌いたいですね。
    オペラは最近は「原語で字幕」というのが私には一番良いです。
    イタリア語など前置詞型の歌詞割当の歌を後置詞(格助詞など)型の
    日本語で置き換えるとどうしても強拍と弱拍の関係が変になるので
    聴き取れなくなります。

  4. すとん より:

    SKGさん
     私も「原語で字幕」がいいなあと思っている人です。それは単純に、日本語で音を多く使う言語なので、洋物を日本語に訳すと、意味を半分ぐらい捨てないと歌詞がメロディに乗りません。でも字幕なら、捨てるのも2~3割程度で済みますから、字幕の方がより伝わるので、字幕が好きです。
     一番良いのは、原語をそのまま理解できる事ですが、それはさすがに私の語学力では英語でも無理なので、諦めてます。
     メサイアの合唱の中では、私、アーメンコーラスが一番好きです。歌っていて、とても楽しいですからね。そこはSKGさんに同意します。

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