ヴェルディ…と言っても、サッカーチームではありません。イタリアの作曲家です。オペラの分野では、大作曲家ですが、オペラ以外にも「レクイエム」は有名で、特に「レクイエム」の中の「ディエス・イレ(怒りの日)」は、曲名は知らずとも、誰もが一度は耳にした事があるだろう超有名曲です。もちろん、オペラ作品のメロディは、我々の生活の中にあふれていて、CMなどでもよく使われています。特に「乾杯の歌」は、誰もが知っている超有名メロディです。
つまり、多くの日本人にとってヴェルディとは“知られざる大作曲家”なんですね。
それにしてもヴェルディって、オペラ分野では圧倒的な名作の数々を作曲しています。とりわけ有名なのは「リゴレット」「イル・トロヴァトーレ」「椿姫」「仮面舞踏会」「ドン・カルロ」「アイーダ」「オテロ」の7作品で、これらの作品は、どこの歌劇場でもレパートリーに入っているほどの名作です。まあ、ヴェルディの“神セブン”って感じでしょうね。また「ファルスタッフ」「運命の力」「シモン・ボッカネグラ」「ルイザ・ミラー」「ナブッコ」「マクベス」などの作品は、神セブンほどではないにせよ、いつでも世界のどこかの歌劇場で、常に上演されている作品です。その他にも、他のオペラ作曲家の作品程度の頻度で上演される作品がまだまだあるんですよ。例えば「二人のフォスカリ」とか「シチリア島の夕べの祈り」とかね。ほんと、素晴らしいオペラ作品を多数作曲した人なんです。
おそらく、ヴェルディ(とワーグナー)がいなければ、オペラという音楽ジャンルは、バロックから古典派にかけて盛り上がった波が、ロマン派初期のロッシーニでピークを迎え、ロッシーニの壁を誰も乗り越えられず(ベートーヴェンやシューベルトですら乗り越えられなかったのです)、そのオマージュと模倣で行き詰まり、やがてオワコン化し「そういえば、昔はそんな音楽もあったよね」と言われて、消え去っていたんじゃないかなって個人的には思います。それくらい、ヴェルディって、オペラ復興の力となった作曲家だと思いますし、ヴェルディがいたから、プッチーニが出てきたわけだし、ヴェルディの諸作品が劇場を力づけたから、諸外国でオペラの花が開き、その中からオペレッタが生まれてきたわけだし、オペレッタが海を渡って、アメリカでミュージカルとして発展してきたのだから、世界中にある歌劇場関係者は、ヴェルディに感謝をしてもしきれないわけです。
ヴェルディの作品の音楽は実に素晴らしいのだけれど、残念なのは、言葉の壁だよね。彼はオペラを始めとして、実に多くの声楽作品を作曲しています。つまりは、歌の作曲家なんですね。歌だから、当然、歌詞があるわけです。当時はヨーロッパが文化の中心だった時代ですから、オペラを始めとする声楽作品は、ローマの言葉…つまり、イタリア語で書かれています。我々日本人って、そもそも外国語が苦手だし、それでも英語ならば学校でも教わっているので馴染みもあるけれど、声楽曲で使われるイタリア語やフランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語などは馴染みが薄いし、食わず嫌いもたくさんいるわけです。歌って、器楽曲ほどには、簡単に国境を越えないからなあ…。ヴェルディって、音楽史的には、とても大切な作曲家なだけれど、歌の作曲家だから、日本じゃ無名なんだよなあ…。
実は、ヴェルディはイタリアでは「国民の父」とも呼ばれるほどの偉人です。大作曲家である事はもちろん、「ナブッコ」の中のコーラス曲である「行け、我が思いよ、金色の翼に乗って」はイタリア第2の国家と称されている(我々にとっての「ふるさと」や「さくらさくら」みたいなものでしょう)を作曲し、ユーロ以前のリラ時代にはお札の肖像にもなっていたし、晩年の彼は国会議員にもなり、福祉活動をメインに働いていたそうで、実に立派な人物だったようです。長生きだったし…ほんと、モーツァルトとはかなり違った人生を歩んだ音楽家です。
日本は、もっとヴェルディを知るべきである! そう、私は強く主張したいです。
さて、私が好きな彼の曲と言うと…それこそ、何十何百と実に多くの作品を作曲しているのですが、その中から一曲を選ぶとするなら…いろいろと悩んで、やっぱりこの曲かな?
それはこの曲。歌劇「ドン・カルロ」の中のテノールとバリトンの二重唱で「Dio che nell’alma infondere/我らの胸に友情を」です。本当はこの曲、この音源の2倍ぐらいの長さがある曲で、後半がバッチリとカットされちゃってますが、それでもこの曲の本質は伝わるんじゃないかな? ヴェルディという人は、男声をすごく上手に書く作曲家で、とりわけ、テノールとバリトンの掛け合い(つまり二重唱)は、なかなか男臭くて良いんですよね。
決して派手ではないけれど良いでしょう? 歌っているのは、テノールがヨナス・カウフマンで、バリトンがトーマス・ハンプトンです。
でね。ヴェルディの音楽って、こんな感じで実に硬派で骨太で男臭いんですよ。イタリア人なのに、チャラくもなければ、軟派でもなのです。でもやっぱりイタリア人だから、どこか華があるわけで、そういう部分が世界中に受け入れられる要因だったんでしょうね。
ヴェルディ、大好きです。
P.S. 明日は連載をお休みして、別企画をぶち込みます。よろしく。
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