スポンサーリンク

合唱の声、独唱の声…再び

 先日、またも“見知らぬ人の発表会”に行ってきました。今回は、どこかの先生の門下の発表会ではなく、某合唱団主催の発表会でした。もっとも、その某合唱団とは、アマチュア団体さんなんですが、演奏会のチケットはプロ並の価格設定という、マジで合唱をやっている団体さんなんです。そんな合唱団主催の、そこの団員さんたちによる発表会ですから、期待しちゃうじゃないですか? ですから『普段はガチで合唱をしているけれど、今日だけ特別に独唱してみました』ってノリの発表会だったわけです。

 いやあ、なんとも雰囲気が独特でしたね。いわゆる声楽の発表会とは違っていて、トップバッターの方からオペラアリアを歌ってました…ってか、皆さん、ほぼオペラアリアを歌ってました。普通、発表会って、イタリア歌曲から始まって、途中ドイツ・リートと日本歌曲をはさみながら、終わりの方にオペラアリアの人を配置して…というパターンが多いのですが、ここはいきなりクライマックスでした。

 まあ、アマチュアの人たちですし、オペラアリアって、そんなに簡単ではないので、演奏自体は…まあ色々ありましたが、それはご愛嬌って事で、私的には(もっとレベルの高い歌が聞けると思っていたので)エラくガッカリしたわけですが、それにしても、なんか普通の声楽発表会とは、あれこれ違ってました。

 私が感じた違和感をいくつか書きます。

 まず、歌える人とそうでない人の差が激しいんです。歌える人は、そんちょそこらのプロに負けないほどの歌唱力があるのですが、そうでない人は本当にそうでないのです…ってか、あれだけの合唱団体ですから、ここまで歌えない人がたくさんいて、そんな人たちが発表会に出場すること自体が、私には驚きだったわけです。

 また、これだけの多人数が参加する発表会だと、歌えるにせよ、そうでないにせよ、色々な段階の人がいて、それはそれでおもしろいのですが、ここははっきり二極化されていました。それがまず最初の違和感です。

 次に、歌えていない人が下手かと言うと、それは違うんです。そこがまた違和感なんです。

 よく聞いてみると、歌えないように思える人の歌でも、皆さん、音程はドンピシャでヘマはないのです。だから実は、下手とは違うんです。でも、音程が合っていれば、それで歌えると言えるのかと言うと『むむむ…』って感じになるんですよ。

 どこが『むむむ…』を感じさせるのかと言うと、まずはリズムが甘いんです。リズムが甘いと言うか、なんかフニャフニャ、フラフラしているんです。きちんと歌っているのですが、でもその歌に『歌おう』という意思が感じられないほどにフニャフニャ歌っているんですよ。そこが違和感の最初です。

 次は、声です。皆さん、一応に、奥に籠もった感じの声なんです。「それじゃあ、そば鳴りだろ」って私は思って聞いていたのですが、合唱大好きな妻に言わせると「丸くて良い声」なんだそうです。確かに尖った感じは全くしない優しい声なんですが、そういう声が良い声? やっぱり違和感あるなあ…。

 それと皆さん、一生懸命に歌っているのに、声量の不足を強く感じました。よく声楽の発表会で、声の小さな人がいますが、あれって大抵、恥ずかしくて声が出せないか、未熟すぎて声が出せないかのどちらかなんですが、ここの人たちは、どうもそうではなく、これが精一杯のようなんです。別に恥ずかしいわけでもなければ、未熟ってわけでもなく、あのスタイルで歌うと、このくらいの声量がせいぜいのようなんです。なんか不思議な感じがしました。

 で「ああ、これが合唱の声なのか…」と思った次第です。つまり、声を磨く優先順位が、独唱と合唱では違うわけです。

 まず合唱で大切なのが、音程の正しさ。そして周囲の声とよく融け合う音色。この2つは最優先事項です。そう思って聞いてみると、この二点に関しては、どなたもクリアしていました。

 でも、あればいいけれど、無くても良い(つまり、優先順位が低い)のは、カッチリしたリズム感と声量。だって、リズムの方は指揮者の指示通りに歌えばいいのだから、個人として意思を持ってカッチリ歌う必要はないし、声量だって仲間と一緒に歌うんだから、一人ひとりがバズーカ砲のような音量を持っている必要はないわけだ。そう考えれば、彼らの歌唱スタイルも納得納得です。

 実は独唱曲だけでなく、重唱曲も少しばかりあったけれど、どの曲も大きな破綻もなくて、声の割には出来が良かったのですよ。おそらく、アンサンブル能力が極めて高いんだろうなあって思いました。丁々発止ではなく、手と手を取り合って…って感じなんですよ。

 で、そんな彼らの歌唱を、妻は好意的に捕らえていたようですが、私はそうではありませんでした。ああ、私も昔は合唱大好きで、あの頃の私だったら、彼らの声が素敵と思えたのかもしれませんが、今の私は、そこからだいぶ遠くに来ちゃったみたいです。

 音程とかリズムとかは(正確な事に越したことはないけれど)少々甘くてもいいのです。それよりも、歌に強い意思と感情を込めて欲しいし、なによりも美声で歌って欲しいし、圧倒するほどの声量で歌って欲しいのです。そういう歌声が聞きたいのです、私は。

 「それって独唱の話だよね。合唱じゃあ、そんな声で歌われても、うるさいだけだからねえ…」

 そうなんだよねえ。確かにその通りなんだよね。

 だから、合唱も独唱も、発声の基本部分は同じなんだろうけれど、修得する際に、優先する順番が違うので、合唱を主にやっている人と、独唱を主にやっている人では、声が違ってくるんだと思います。

 もっとも、それは(私を含めた)未熟な人々の話で、本当に上手い人は、合唱であろうと独唱であろうと、リズムも音程もバッチリだろうし、意志的に感情込めて歌えるし、周りによく溶ける優しい声でバズーカ砲のような声量で歌えるんだろうし…。

 歌を一つのヤマに例えるなら、出発地点と目指す頂上は同じなんだろうけれど、その途中で通る登山道が違う…って感じなのかなって思いました。その登山道の違いが、合唱の声とか、独唱の声とか、言われるのかなって思ったわけです。

 だって、その発表会で歌った“歌える人たち”だって、普段は合唱をしているわけですからね。合唱歌いも上達してくると、上手なソリストと同じになっちゃうってわけですね。

 つまり、本当は合唱の声とか独唱の声とか、そんなものは存在しないのかもしれませんが、進化の途中形態として、合唱用に訓練されている声と、独唱のために磨いている声というものがあるのかもしれません。

 そんな事を思った私でした。

↓拍手の代わりにクリックしていただけたら感謝です。
にほんブログ村 クラシックブログ 声楽へ
にほんブログ村

コメント

  1. アデーレ より:

    またまた、私の好きな?合唱と独唱シリーズ?ですね!私も両方してるので興味深いのですが。私も発声も好みも独唱よりなんですが、、やっぱり合唱の人は長年していても一人で歌える度胸がある人、まれですよ!発声的にも、声楽的な声というにはちょっと違うかな!声楽の個人レッスンは有効であり、長年、合唱を何十年やってもその声とは違い、で、また、それで良いのだと思います!プロは合唱も独唱も両刀使いでしょうが、アマチュア、まして私レベルには器用にできず、また、専ら独唱にどんどんはまり、合唱に声がはまらなくなってこまっておりました!日々、スキルを身につけるべく、頑張ります!

  2. すとん より:

    アデーレさん

     そう、プロ並になれば、合唱も独唱も両刀使いで行けるんでしょうが、やはり未熟なアマチュアシンガーだと、どうしても、どちらかに偏りがちになるんだろうと思います。

     現在の私は、明らかに独唱寄りですね…ってか、この声で合唱に行くと、うるさいだろうし、邪魔だろうと、自分でも思いますよ。ですから、合唱は決してキライではなく(むしろ好きなんですが)当面は、独唱オンリーで、たまに第九とかメサイアとか、ウルサイ奴が混ざっても迷惑にならない曲を選んで、単発で合唱を楽しむ事にしてます。

     いずれは合唱もやりたいと思いますが、独唱も合唱もと頑張らずに、ひとまず独唱を自分のモノにしてから、それから合唱を目指そうかなって思ってます。つまり、独唱と合唱の同時並行で学ぶのではなく、独唱経由でJターンのような形で合唱に手を出してみる…みたいな考え方です。だって、私、独唱も合唱もなんてできるほど、器用ではないですからね。

  3. だりあ より:

    独唱はもうバンバンにビブラートさせて、声を張って長い音符を歌い上げますが、合唱ではビブラートは基本ご法度ですよね。合唱歌っていてお隣の人や後ろの人がビブラートのきつい声のときはほんとに困ります。まっすぐ歌ってくれ~、と思いながら歌ってました。
    あと、やっぱり合唱の声はアンサンブルするのが一番大切なので、丸くなりますね。
    前に出たくなるようなメロディーも横に手をつなぐような感じで歌うように言われてました。なのに、つい歌いすぎてしまったりして、難しかったですね。

    >プロ並になれば、合唱も独唱も両刀使いで
    ビブラートのコントロールも、声質も使い分けも、きっと自由自在なのがプロの歌い手さんの持ち技なのでしょうね。とても器用な歌声、っていうことなんでしょうか。

  4. すとん より:

    だりあさん

     プロの方で、独唱も合唱もという人の中には、声を使い分けている人もいます(ってか、本人がそう言ってましたねえ)。独唱の時はギンギンギラギラの声で歌い、合唱の時はフワフワの声で歌うと聞きました。

     ビブラート問題は、難しい問題ですね。ある程度の声量になれば、勝手にビブラートは付きますし、逆に言えば、ある一定のところで声量を抑えてしまえば、ノンビブラートの声になります。

     ですので、ビブラートの有無は、本来は、独唱合唱の違いではなく、どこまでの音量が必要かで許容されるか否かという話なんだろうと思います。

     ですから、別に独唱だからビブラートをつけるべきとはなりません。適度のビブラートは許容されるだけで、ビブラートの付けすぎはダメです。また逆に言えば、合唱はハモる必要があるので、なるべくビブラートを目立たせないよう歌う必要があります。

     ビブラートにも音程が揺れるビブラートと、音量が揺れるビブラートがありますが、声は弦楽器同様に音程が揺れるビブラートなので、あまり激しくビブラートがかかると、綺麗にハモらなくなるのですよ。(ちなみに、フルートは音量が揺れるビブラートなんですね)。

    >前に出たくなるようなメロディーも横に手をつなぐような感じで歌うように言われてました。

     あ、とても分かりやすい例えですね、感謝です。私は合唱を歌っていた時も、常に「前へ、前へ」と思って歌っていました。今考えるに、実に合唱に不向きな歌唱スタイルだったと思います…ってか、根っからのソリスト気質だったようです(笑)。

  5. ねぎ より:

    初めて書かせていただきます。私も今、市民合唱団に所属している関係で、大変興味深く読ませていただきました。以前、声楽の個人レッスンを受けていた関係か、合唱指導者によく注意されます。目立つ声などいらないと。
    家ではどうしてもベルディとかプッチーニのアリアを歌いたくなるので、ちっとも合唱声にはなりません(笑)。
    今は、いろいろしがらみがあって団をぬけられないので、私も合唱曲はすべてピアニッシモで歌おうかなと思っているところです。また、このテーマを取り上げていただければ幸いです。発表会、がんばってください。
    また、読ませていただきたいと思います。
    p.s.私もデル・モナコが大好きです。

  6. すとん より:

    ねぎさん、いらっしゃいませ。よろしくね。

    >目立つ声などいらないと。

     そうなんですよね、これ、合唱界の正義ですから。でも、こちとら、目立つ声しか出せないんだから、仕方ないっす。

    >私も合唱曲はすべてピアニッシモで歌おうかなと思っているところです。

     良いと思います。あと、音量を下げるだけでなく、なるべく歌いクチも優しくすると尚良いです。とにかく、声は張らない事です。張ったら、合唱壊しちゃいますからね。

     まあ、合唱クラッシャーの私が言うのも、なんですがね(笑)。

  7. 通りすがりの学生 より:

    初めてコメントさせていただきます。
    今現在声楽を学んでいる最中の学生という身分ですが失礼いたします。
    合唱と独唱の違いというと、まさしくこの通りだと思います。少し補足を入れさせていただくと、使用するエネルギーの差かなと思います。
    (私もそれほど上手なわけではないのですが)合唱と独唱の時とでは声が少し違うかなと思います。はっきりと変えているわけではないのですが、合唱の時は周りの声をよく聴いて合わせるように、ハモる様に無意識に歌っています。声を届ける方向としては一度上でメンバーの声を合わせそれを会場に届けるイメージです。独唱の場合は自分の顔から声がそのまま会場へ飛ばすイメージで歌っています。何か助けになれば…

    またビブラートの問題ですが、合唱では邪魔になるだけだと思います。友人に聞いた話では声が無意識にビブラートをかけてしまう方もおられるそうです。信じられないですが…難しい問題だなと思います。答えははっきりしているんですけどね。

    読ませていただいて、そうだと思うところもあればなるほどと思うところもあり勉強になりました。ありがとうございました。これからも頑張ってください!

  8. すとん より:

    通りすがりの学生さん

     お名前が入っていなかったので、勝手に命名してしまいました。ご勘弁を。

    >声を届ける方向としては一度上でメンバーの声を合わせそれを会場に届けるイメージです。独唱の場合は自分の顔から声がそのまま会場へ飛ばすイメージで歌っています。

     あ、なるほど、なんか分かるような気がします。私は常に、声を観客席に“産地直送”で届けようと心がけていました。しかし合唱の時は、産直を止めて、きちんと市場を経由するようにするのが良い…のですね。なるほど。

     ありがとうございました。

タイトルとURLをコピーしました