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テレビドラマ「Glee/グリー」から、日本の合唱の未来について考えてみた

 最近の私が毎週楽しみにしているドラマが「Glee/グリー」です。

 アメリカで製作されている連続テレビドラマで、以前から、すごく人気の高い音楽系のドラマだという情報はつかんでいました。それもハンパ無い人気ドラマで、あちらではゴールデングローブ賞なども多数獲得しているほどの超人気作なんだそうです。

 それが日本では、CS放送のFoxチャンネルで放送されていました(すでに第1シーズン[公式サイトはこちら]は放送終了し、現在は第2シーズンを放送中)が、その放送は吹き替えではなく、字幕放送でした。私は字幕ドラマ/映画がキライ(笑)な人で「海外ドラマは吹き替えに限る!」と信じているので、興味はあったけれど、当時は華麗にスルーしてました。それに番組タイトルも「glee/グリー 踊る♪合唱部!?」という、ちょっと垢抜けないタイトルもスルーした原因だったりして(笑)。

 ところが、今年の四月から、NHKのBSプレミアムで、番組タイトルをオリジナルの「Glee/グリー」に戻し、旬の声優たちを使った日本語吹き替え版(公式サイトはこちら)を放送するようになったので、さっそくチェックしてみたところ、すっかり心が奪われました(爆)。

 いいねえ…これ、おもしろいよ。詳しくは公式サイトを見るなり、DVDを見るなり(第1シーズンはすでにDVD化されています)してもらうにして、こういうのが、21世紀のアメリカの部活の合唱部なんだねえ…。もちろん、ドラマだから、美化されていたり、デフォルメされていたりする部分も、当然あるんだろうけれど、日本の学校合唱部事情と全然違うのがおもしろいです。

 NHKでたまに放送される、ギャレス・マローン先生のドキュメンタリー(「クワイア・ボーイズ」ではランカスター校で少年合唱団の設立し、「合唱団を作ろう」ではサウスオキシー合唱団を作り、最新作の「ユース・オペラに挑戦」では、地元の下層階級のティーンエイジャーたちを集めて、グラインドボーン[イギリスの一流オペラハウス]で行われる新作オペラのコーラス隊として出演させちゃったと、実に大忙しなギャレス先生です)でも、薄々感じていたんですが、世界の合唱の流れと、日本の合唱の主流は、だいぶ前から乖離しているのではないでしょうか?

 無論、世界の合唱シーンが正しくて、日本のそれが守旧的でダメと言いたいのではありません。ただ、日本に限らず、どこの国でも、ヨーロッパやアメリカにおいてさえも、合唱という音楽そのものが衰退しているわけだし、とりわけ、若者に受けない音楽に成り下がっている事は分かります。

 こちらでは、かつてはどこの学校にもあった合唱部が無くなってしまって久しいですし、市民合唱団もドンドン高齢化し、活動停止を余儀なくさせられている団体も多数あります。かつては隆盛を誇った男声合唱団も、実に数えるほどしかありません。混声合唱団もかなり厳しい…。かろうじて元気なのは“おかあさんコーラス”ぐらいでしょ?

 おそらく、そんな現象は、あちらでも同じ事だと思います。ただ、あちらでは衰退する現状に手をこまねいているのではなく、なんとかして合唱を現代化し、時代に即した音楽に変化させ、若い世代の人間に合唱の灯火を受け継いでもらおうとしているのではないでしょうか?

 そういう現実があって、だからこそ、ギャレス先生の一連のドキュメンタリーが製作されているのだろうし、同様の流れがあって、アメリカでは「Glee/グリー」が製作されているのではないでしょうか? つまり、今や寂れかけた合唱が、少しカタチを変えて、盛り上がり始めている? だから「Glee/グリー」が世界的にウケている現状は、少しずつ世界の合唱シーンが変化しつつある、そんな兆しの現れ…なのかもしれません。

 「Glee/グリー」で描かれている合唱は『ショウ・クワイアー』というジャンルの合唱らしいです。たしかに、これなら若者に受けるだろうし、やりたがる子もいるでしょう。

 でも、この手の音楽は、いわゆるクラシック音楽ではなく、ポピュラー音楽なんです。だから日本の学校の先生たちには、ウケないでしょうし、既存の合唱団体の指導者たちも避けて通るんじゃないかな? 少なくとも、今の日本の学校合唱部で、これを部活としてやるのは無理かもね。と言うのは、20年ほど前にゴスペル(黒人霊歌を主体とした合唱)が流行った時も、あの流行を当時の合唱団体はうまく自分たちのものにできなかったわけでしょ。

 それはある意味、仕方のない話で、日本の合唱界には、その手の音楽が得意な指導者が少ないでしょ。だって“蛇の道は蛇”であって、ポピュラー系の合唱指導にはポピュラー系の音楽指導者が必要で、音大を出ただけの教員や、ガチガチのクラシック指導者では、とても歯が立ちません。

 「合唱=クラシック音楽」と考えがちな日本の合唱人には、ちょっと厳しいジャンルの音楽だったのかもね。

 でも、私は諦めてませんよ。あれから一世代ほどの時間がたちました。世代が変わるって、世界が変わるって事でもあります。

 と言うのも、あの当時と今では、少しずつですが、合唱界の方向性も変わってきたと思います。例えば“おかあさんコーラス”などでは、ゴスペルのようなダイナミックな音楽を歌う団体も増えてきたし、ショウ・クワイヤーと言うほどでもないけれど、振り付けのある合唱がドンドン普及しています。若い世代に目を向けると、フジテレビ系でたまに放送する「ハモネプ」があるじゃないですか。あそこは、アカペラ合唱という縛りはありますが、J-POPを自分たちなりに合唱にアレンジして歌っています。

 いわゆる“ザ・合唱曲”は敬遠されても、J-POPなら、今の若者たちも声を合わせて歌いたいわけだし、カラダを動かしながら、踊りながら/演技をしながら、歌うことに目覚め始めた子どもたちがいるわけです。

 だから、この子たちがオトナになって、指導する側に回った時に、日本の合唱も変わるかも…しれません。

 世代交代が色々なところで進めば、世の中は確実に変わっていくでしょう。今から1~2世代後の時代になると、日本の子どもたちも、学校の合唱部で「Glee/グリー」のような、ショウ・クワイアーをやっているかもしれません。ああ、その時代まで生きていられないのが残念だな。

コメント

  1. くろねこ より:

    はじめまして。
    音楽は素人なのですが、Gleeは娘がコーラス部なもので毎週親子で楽しみながら見ています。
    部内でもドラマのファンが増え始め ”Don’t stop believing” を歌おうと盛り上がっていたので、親馬鹿ですが、米の楽譜専門店からデジタル楽譜を購入しました。
    が、やはり顧問の先生に却下されました。文化祭で披露できたら盛り上がるのに、練習も許されないとひどく落ち込んでいます。
    許可された曲は課題曲のように楽しくなる曲が少なく、観客側も聞いて楽しくないので悪循環ですね。

  2. すとん より:

    >くろねこさん、いらっしゃいませ。

     “Don’t stop believe’”はオリジナルはジャーニーの1981年のヒット曲で、私はジャーニー・バージョンも大好きです。もちろん、グリー版も捨てがたいですね。

     せっかく、子どもたちが盛り上がっているのに、披露するチャンスが与えられなかったとは残念ですね。せめて文化祭のアンコールの時にでも披露できたらよかったのに…。

     普通の学校の普通のコーラス部の顧問の先生は、クラシック系の方が多いです。また、クラシック音楽至上主義者である事も多いので“Don’t stop believe’”のようなポピュラー音楽は、歯牙にもかけてもらえないのが、普通な事です。なので、顧問の先生を恨まないように。また、お嬢さんには、くれぐれもガッカリしないようにお伝えください。

    >練習も許されないとひどく落ち込んでいます。

     それは部活の時間内の話でしょ。本当にやりたいなら、休みの日に有志で集まって歌ってみるとか、部活が終わってから、少しずつ練習してみるとか、手がないわけではありません。先生にしても、部活の時間外なら、文句を言わないはずですよ。

     結局、やったもん勝ちじゃないかな? で、ある程度出来上がったら「文化祭の最後の最後で歌いたいんです!」と言い出すこともできるでしょう。きちんと仕上がれば、先生だって、無下にダメだとは言わないはずですよ。

     ガンバ、諦めたら、そこで道は閉ざされるますよ…とお伝えください。

  3. ナゾナゾ博士 より:

    全く合唱とは縁の無い人間なんですが、グリーを見て聴いて、日本の合唱と何が違うのか?とふと考えました。 グリーの中の歌に何故自分がこうも引き込まれ、日本の合唱に関心が向かないか? 詰まる所、日本の合唱は『エンドユーザー』の事をまるで考えていないのではないか? 合唱においてのエンドユーザーは合唱を聴く観客です。 グリーでは、彼ら学生のお父さんお母さんが青春時代に聴いた曲から現代までの曲までのセレクトが非常に多い。 つまりエンドユーザーが夢中になってた曲を歌ってます。 日本の事情を勝手に分析すれば、クラシックが最高かつ崇高で、今の曲は邪道と思ってる。 だから今の曲を選ぶなんてとんでもない。と、耳にすら通さず排除する。 結果、今の観客=エンドユーザーの気持ちを無視している事にも気付かずに。 この事に一刻も早く気が付かなければ観客も離れる一方ではないのでしょうか。 これは合唱する方も同じで、時代時代で『歌いたい歌があるはずで』それを品がないからと歌わせて貰えない。 それでは歌い手も減るだけでしょう。 クラシカルな歌は立派な歌ですが、一方の今の曲だって立派な歌。 それを受け入れる度量を今の日本の合唱も持って欲しいものです。 誰の為に歌うか?僕は聞かせたい親に、友に、仲間に歌は歌うものだと思うんですが。

  4. すとん より:

    ナゾナゾ博士さん

    >日本の合唱は『エンドユーザー』の事をまるで考えていないのではないか?

     なるほど、つまり、マーケッティング的に言えば“顧客不在”って事ですね。それじゃを、商品は売れないし、その会社は倒産するしかないですね。日本の合唱界は、それに近いというわけですね。

     確かに、合唱の演奏会って、演奏は上手だけれど、つまらないものが多いです。

     おもしろい考察、ありがとうございました。私も目ウロコでした。

    >クラシックが最高かつ崇高で、今の曲は邪道と思ってる。 だから今の曲を選ぶなんてとんでもない

     うーん、ここんところは、ナゾナゾ博士さんは誤解してますよ。実は日本のほとんどの合唱団体は、クラシックを歌わないんですよ。クラシック歌えばいいのに…って、クラシックファンである私は常々思ってます。でも、ほとんどクラシック曲は歌いません。歌うのは、日本人作曲家による新作の合唱曲ばかりです。当然、合唱を歌う人以外は知らない曲です。で、大抵は、申し訳ないけれど、つまらない曲です。

     クラシックを歌わない理由は…クラシックの合唱曲って、ほとんどが外国語の歌唱ですし、その多くが宗教曲なんですね。おまけに、オーケストラ伴奏が前提だったりするので、町の合唱団あたりでは、なかなか取り組めない事情も分からないわけではないのです。

     それと、たまにポピュラー系の曲をメインに取り上げる団体もあります。そういう団体は聞いていて楽しいですよ。でも、合唱をやりたいと思う人や、合唱を指導している方々は、ポピュラー系の音楽が苦手らしく、そういう団体は本当に少数派なんです。

     どちらにせよ、グリーのような世界は、まさに“海の向こうの世界”の出来事なんですね。残念です。

  5. ナゾナゾ博士 より:

    ああやってしまった! すいません。やはりあまり縁の無い素人でした!  そう言えば日本の合唱の歌ってクラシックなものを聴いた記憶がありませんね。

    クラシックそのものは好きな方です。 いまの洋楽にも通じますが、『 オカズ 』って言い方で良いんですかね?  ベースのメロディーライン・リズムの上に 様々なメロディをのせて ( コレをオカズと勝手に呼んでますが ) 曲を作り上げている。 今の洋のポップスはクラシックに比べればオカズがグッと減ってるとは言え、 それでも日本のポップスに比べればはるかに多い。    そういうオカズを沢山作るテクニックを踏まえたうえで、魅力的なシンプルな曲を作ったりする。

    日本のポップスはなんとも音が少なすぎな曲一辺倒で、スカスカな気がしています。  これも数回しか聴いたことのない印象ですが、日本の合唱にも同じイメージが。  

    聴いた事はないですが、クラシックの合唱。 間違いなく聴きごたえがあるのでしょうね。聴いてみたいものです。

    最近グリーで歌われた曲で聴き込んでいるのはEmpire State of Mind。 Jay-Zの曲ですが、合唱にラップを持ち込んでるのも驚きだし、 よくもここまでグリー(合唱)として作りこんでるな。と感心。

    話が纏まらなくなって来ましたが、クラシックだろうがポップスだろうが『 同じ音楽という皿に乗った料理 』としか自分的には見れない訳で、美味しそうに見えなければ食べないし 美味しくなければ食べない。 年を経て美味しさが分かる料理もありますが、それでも『 食べてみたい 』と思わせる努力は料理人ならばして欲しいと。そう思いますね。

  6. すとん より:

    ナゾナゾ博士さん

     ナゾナゾ博士さんのおっしゃる“オカズ”が日本の音楽には足りないという指摘は私も同意します。“オカズ”って、ブラック・ミュージックの影響、とりわけ、ゴスペルとかジャズの素養がないと、厳しいんじゃないかな? 洋楽の基本はジャズですからね、彼らはドンドン“オカズ”を入れて演奏してきますが、日本の音楽とかクラシック音楽には“オカズ”が基本的には無い(ただし、クラシックでも古楽は“オカズ”がバンバン入ります)ので、日本の合唱人は、歌う人も指導する人も“オカズ”が苦手なんでしょうね。

     あと、好みの問題もあるかもしれませんよ。日本人って、ゴージャスなものよりも、シンプルでコンパクトなものを好む(ワビサビとかイキとか好きでしょ)ので、音数が少なめがいいのかもしれません。

     クラシックの合唱がお聞きになりたいなら、これからのシーズンはピッタリですよ。毎年12月になると、ベートーヴェンの第九が、どこでも演奏されます。テレビでも何度も放送されますよ。ちょっと気をつけていると、すぐに見つかると思います。第九は4楽章構成なのですが、最後の第4楽章が合唱曲なんです。大オーケストラと大合唱団、それに四人のソリストが加わって、天上の音楽を奏でます。素晴らしいですよ。クラシックの合唱をお聞きになりたいと言うなら、まずは第九を聞かれるといいです。日本の合唱とも、ポピュラー系の合唱とも違った素晴らしい音楽を聞くことができると思います。

     ひとまずYouTUBEで聞かれるなら、以下のビデオの6分20秒あたりから聞かれるといいですよ。演奏は標準的な名演で、曲の全容がよく分かると思いますし、歌詞の訳詩も出るのでお手軽だし、欠点は…ドイツ語の発音が現代ドイツ語の発音で、ベートーヴェン時代の発音では無い(と私は習ってます)のが残念かな?。
    http://www.youtube.com/watch?v=xuu-GACWPTE&feature=related

     ついでに、グリーの「Empire State of Mind」も、知らない人のために、YouTUBEの画像を貼っておきましょう。この曲、カッコいいですよね。
    http://www.youtube.com/watch?v=APjJwt7rc6I&feature=related

    >クラシックだろうがポップスだろうが『同じ音楽という皿に乗った料理』としか自分的には見れない訳で

     同意します。音楽は所詮エンタメなんですから、まずは楽しくないとね。聞いている人が楽しいのはもちろんですが、アマチュアならば、演奏している人も楽しくないとね。演奏する側にとって、音楽ジャンルの壁はやはり厚いと思いますが、せっかくの音楽、合唱、なんだから、楽しめないと残念ですよね。

     その気持ちがあれば、きっとどんなジャンルの音楽であっても、楽しいだと思います。

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