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メトのライブビューイングで「夢遊病の娘」を見てきた

 ベッリーニ作曲の「夢遊病の娘」をメトのライブビューイングで見てきました。キャスト&スタッフは以下のとおりです。

 指揮:リッカルド・フリッツァ
 演出:ロランド・ビリャソン

 アミーナ:ネイディーン・シエラ(ソプラノ)
 エルヴィーノ:シャビエール・アンドゥアーガ(テノール)
 ロドルフォ伯爵:アレクサンダー・ヴィノグラドフ(バス)
 リーザ:シドニー・マンカソーラ(ソプラノ)

 今回の公演は、実に大当たりです。とてもおもしろいです。私的には大絶賛です。

 ベッリーニの「夢遊病の娘」は、あまり有名ではない作曲家による、さほど有名ではないオペラ作品です。実際、テーマ(と言うかネタ)は時代遅れだし、脚本は陳腐だし、歌唱は激難だし、結果的に見応えのない、つまらないオペラ公演になりがちです。唯一の救いが、メロディにあふれている事ぐらいでしょうか? それすら、きちんと歌手が歌えなければ、聞けたものではありません。

 今回の公演では、歌手たちが、あの激難の音楽を高水準で歌ってくれています。もう、これだけでも胸ワクワクです。特にソプラノとテノールがスリリングなんですよ。シエラが凄腕ソプラノというのは知っていましたが、テノールのアンドゥアーガが掘り出し物です。実に良いテノールなのです。見た目は若き日のビリャソンそっくりで、彼が歌っているのかと思ったくらいですが(笑)。

 それだけでも素晴らしいのに、今回の公演は、演出が実に見事です。陳腐な脚本を演出によって、惹きつけられる舞台に変え、時代遅れなテーマが、実に現代的な結末に変えられています。

 実に素晴らしいオペラ公演だし、21世紀型のオペラに仕上がっていると思いました。

 一番の功労者は、今回、演出を担当したロランド・ビリャソンですね。ビリャソンと言えば、現在でもトップテノールの一人ですが、彼がこの公演の演出をしています。彼はテノールとしても逸材ですが、演出家としても凄腕なのかもしれません。演出家としての彼に、今後も期待できそうです。

 もちろん、彼の演出にだってツッコミどころは満載ですが、それを補って余りある素晴らしい改変に舌を巻きました。そもそも、オペラそのものがオワコンなのですから、それを現代化していくってのは、どこかに無理があるわけで、その無理を受け入れられるかどうかなんだと思います。

 19世紀のスイスの寒村って舞台設定ですが、スイスと言うよりも、閉鎖的で反文明的な集落…例えばアーミッシュのような舞台設定となっていますし、西洋社会なのに、ハグや握手を回避し、お辞儀の文化になっているのも、なんか変です。あとスイスの設定なのに、登場人物の多くが黒人なのも変と言えば変だし、それも演出的に意図された変なわけで、それを受け入れられるかってところが、この演出における分水嶺なんだろうと思います。

 なんか、どこか、異世界感があるんだよなあ…。でも、それが逆に良いのです。

 そもそもテーマである「夢遊病って何?」って思うわけだけれど、主演のシエラ自身がかつて夢遊病患者だったそうで、もうそうなると「え? それってリアルな話なの?」って考えてしまうと、結局、そんなアレコレも受け入れざるをえないわけで、設定された寒村の排他主義な雰囲気も「これはこれでリアルな演出なんだろうなあ…」って思ったり思わなかったします。

 それにしても主演のシエラは黒人ソプラノで、演じているアミーナって白人娘の役なんだけれど、そんな異世界感たっぷりのためか、今回の公演では、彼女の黒人の部分が全然気になりませんでした。それは舞台に乗っている歌手や俳優の多くが黒人たちで、黒人であるシエラが普通の存在に見えた事とか、舞台はスイスだけれど、スイスではなく、黒人が普通にたくさんいる異世界な寒村…って自然と思うことができたからなのかもしれません。これも演出やキャスティングの上手さだと思いました。オペラって、前提として「黒人のいない世界」の話だから、黒人歌手にとっては、そこがハンディになりがちだし、黒人が歌っていることに(私などは)疑問を感じるわけだけれど、今回は、そこが気になりませんでした。

 まあとにかく“見て欲しい”の一言に尽きます。それくらい気に入りました。

 結局「歌唱がすごいよ」って事にまとめておきます。

蛇足 アメリカにおけるポリコレって根深いと思うよ。白人の役ばかりのオペラなのに、無理くり黒人キャストを登場させなきゃいけないのは、ほんと噴飯ものだよね。それに「人種の多様性」とか言いながら、まず東洋人は舞台に出てこないのもメトだしね。もっとも、東洋人歌手って、黒人歌手以上に違和感があるけどなあ…。

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