スポンサーリンク

声域と声種

 私は今でもキング先生に「君にはテノールは無理だから、バリトンに転向しなさい」と言われた事を、はっきりと覚えています。

 その時の私の気持ちは「このお方は、何をおっしゃっていらっしゃるのだろう」という困惑した気持ちでした。もちろん、こんな丁寧な言葉づかいではなく、もっとお下品な言葉遣いの方がふさわしい気持ちでしたけれど…。

 プロの音楽家ともあろうお方が、声域と声種の違いが分かっていらっしゃらない。または、教えることを放棄された…たぶん後者だろうと、今は分かりますが、その時は、前者ではないかと強く呆れてしまったのです。

 声域と声種は違うものでしょ! なぜ、それが分からない(涙)。…当時はマジで、そう思ったものです。

 閑話休題。声域と声種は違うものですが、案外、これがごっちゃになっているケースを見聞きします。それは、声域と声種がペアで考えられることが多いからです。

 例えば「高い声が出るからテノール」「低い声で歌えるからアルト」

 …んなわけないじゃん! 声域はあくまでもその人の持つノドの音域の話であって、声種は声質(つまり声の性格)で決まります。それはつまり…、

 ソプラノやテノールは、若い声です。それがソプラノやテノールの声質です。歌手の実年齢は関係なく、若々しい声で歌えるから、ソプラノやテノールなのです。メロディしか歌えないからソプラノなんてありえないし、高い音を出したいからテノールとか、もう馬鹿すぎる話です。70歳を越えて、もう高音はだいぶ無理になって、バリトンの音域でしか歌えず、バリトン役ばかり歌っているドミンゴであって、声は若々しいので、バリトン役を歌っても、声はテノールなわけで、これは声域と声種が本来的に異なるものだからです。

 メゾやバリトンと言うのは、圧倒的な美声です。それがメゾやバリトンの声質です。とにかく、美しくて耳障りの良い声で無理なく歌って人の魂を揺さぶる事ができるから、メゾやバリトンなのです。高い音も低い音も出ないから、メゾ? バリトン? それはメゾやバリトンをなめています、みくびっています。美しくて魅力的で、時にセクシーですらあるのが、メゾやバリトンなのです。なぜ、カルメンはソプラノではなくメゾなのか? つまり、そういう事なのです。

 アルトやバスと言うのは、愛情たっぷりな声なのです。母であったり、父であったり、王であったり、時には神ですら歌うのが、アルトやバスなのです。彼らの声の本質にあるのが“愛”なのです。声の中に愛があるのが、アルトやバスなのです。ただ単に、低い声を出すだけなら、ガマガエルだって出せるって話です。いかに声に愛を注げるか、それがアルトやバスってモンでしょ。

 そういう声質を考えずに、単純に声域だけで声種を判断するって、ちょっとおかしいと思います。声種を判断する際に、声域はむしろ考えなくても良いのでは…すら思います。と言うのは、声域はある程度訓練すれば、広がるものだから、最初は声域が狭かろうが、高い方や低い星に偏っていたとしても、あまり声域を考えなくても良いのだと思います。訓練を重ねていけば、やがて声は成長し、おのずとその声質にふさわしい声域になってくるものです。声域を広げていく事は、時間がかかるかもしれないし、訓練は大変かもしれないけれど、それでもなんとかなるものなのです。だから、声域よりも声質に注目して声種は判断しないといけないのです。

 声域は訓練次第でどうにでもなりますが、声質は神様から与えられたギフトですから、これは丸ごと受け入れるしかないのです。

 高い声が出ないからバリトン…? バリトンなめんなよ!って感じです。世界中のバリトンさんたちに謝れ!って言いたい気分です。

↓拍手の代わりにクリックしていただけたら感謝です。
にほんブログ村 音楽ブログ 大人の音楽活動へ
にほんブログ村

コメント

  1. アデーレ より:

    ソプラノ、メゾは厳密には音色よりパッサージュの位置できめますが、男声はどうなるのかしら??ソプラノは大体ファかフォ シャープ、メゾならミあたりですね〜。

  2. すとん より:

    アデーレさん

     パッサージュって、声の切り替えポイントで、ざっくり言っちゃえば、表声と裏声の切り替えポイントの話でしょ(すっげえ、乱暴でごめん)? 女声は、表と裏の切り替えがあるけれど、男声は(アクートを除けば)ずっと表声で歌うからね。無いわけじゃないけれど、あんまり意識しないかも。

     私は以前、F♯のあたりに声の境目があると感じていましたが、いつしか感じなくなって、最近ではA♭あたりで声の境目を感じてますが、ここの高さになるとパッサージュとは別モンだよね(笑)。

タイトルとURLをコピーしました