前回の無声映画の話の続きです。
今回見た「福寿草」という無声映画は“オール・サウンド版”という珍しいタイプの映画でした。これはフィルムのサウンドトラックに、劇伴の音楽は入っているので、上映の際には楽士は不要なのだけれど、肝心のセリフは何も入っていないので、活弁士は必要…というタイプの無声映画なのです。つまり、無声映画だけれど無音映画ってわけじゃないって事です。なんとも、ややこしいです。サイレントからトーキーへの移行期間に作られたタイプの映画だそうです。
そんなわけで、今回の上映に際しては、山内菜々子さんが活弁士(活動映画の解説をする弁士)として登壇されました。
私は生でプロの活弁士さん付きの映画を見るのは初めてです。それも女性の活弁士さんですから、ほんと稀な体験です。
それにしても活弁士さんって見事ですね。ナレーションと登場人物をすべて演じ分けてセリフとして語るわけです。自然な感じで、老若男女を演じ分けるのですから、ある意味、落語家さんのようです。いや、画面に合わせて語るのだから、むしろ声優さんに近いかも。
ちなみに、実際に映画の上映時に語るセリフは、当時から公式の台本というものがあるわけではなく、映画を見て、活弁士さんが自分用に台本を書いて、それを使って上映するというスタイル(知りませんでした)なので、活弁士さんには、脚本家としての側面も必要なのです。活弁士さんって、実に興味深い存在です。
それにしても当時は、映画の脚本を活弁士さんが書いていたなんて、フィルムこそ全国共通していたものの、細かい部分の内容や演出は、各地の活弁士さんたちに任されていたわけですから、同じタイトルの映画であっても、活弁士さんごとに内容が微妙に違っていたわけです。特に地方で上映される映画は、当然、その地方の方言を使って語られたそうです。ううむ、なんともシュールですね。
今回の映画は、フィルム上映ではなく、Blu-ray上映なんだそうです、時代だね。でも、映像そのものは、4K修復など全然されていなくて、昔のフィルムのようにキズだらけのノイズだらけのもので、白黒なのに、明暗がシーンによってまちまちで「昔ならともかく、現代人には、この画質は相当にキツイなあ…」と思いました。いやあ、画質は考えうる限りの低レベルです。
おまけに再生速度が何とも奇妙で、全体的に、やたらと動きや場面転換が早くて、途中途中で映し出されるセリフの画面なんて、読むことすらできないほど、パッパパッパと画面が切り替わっていきました。
昔のカメラは手回しカメラだから、カメラマンさんごとに録画速度が違ったわけで、昔は上映の際の映写機も手回しだったから、それでも何にも問題は無かったのだろうけれど、今は(当たり前だけれど)機械でフィルムを送るわけで(それも、1秒で24コマだよね)録画したカメラマンさんがのんびりした人だと、今の機械で再生すると、早送りのような画面になってしまうし、せっかちなカメラマンさんが録画したモノは、スローモーションのようになってしまうわけです。
でも、そんなカオス状態のフィルムであっても、そこに活弁士さんの語りが入ると…まあ見れるものですね。ただ、見ているこちらとしては、映画を見ている…というよりも“映像付きの落語”を聴いている感じです。実に興味深い体験をしました。
45分の無声映画鑑賞体験の後は、活弁士の山内さんを講師に迎えて、アフタートークとして、短めの講演会が開かれました。
そこではなかなか興味深い話が聞かれました。例えば、現在の日本には、現役の活弁士さんが20人いるとか(逆に言えば、それしかいないのです)。活弁士さんの活動は、かなり精力的で、日本国内はもちろん、海外を含めて、飛び回るように仕事をしているそうです。
また、無声映画時代の活弁士さんたちの活躍ぶりも聞きました。当時は活弁士さんを目当てに映画館に通っていた人もいたそうで、ある意味、映画スター並の人気職業だったそうです。それがトーキーの普及と共に消えてしまったわけですが…。
無声映画を見終えた後は、まだ見ていなかった「吉屋信子展」を見ました。吉屋信子という小説家は、名前は知っていましたが、実はどんな作家だったのかは、よく知りませんでしたが、少女小説でデビューし、晩年は中間小説家として活躍した作家さんなのです。職業作家であって、本道の純文学作家ではないので、そりゃあ私は知らないわな。今風に言うなら、ラノベでデビューして、エンタメ小説で成功しました…みたいな感じの作家さんなんだろうね。男女の違いと個性の違いはあるけれど、同時代の似たようなタイプの小説家として、吉川英治が上げられるかな?って思いました(異論は歓迎します)。
吉屋信子って、日本におけるシスターフッドの源流…なんだそうです。なので、本人はもちろん、作品もレズっぽい感じはあっても(実生活はともかく)エロは無くて清冽なんだね。ある意味、LGBDQ+ な感じすらします。そういう意味では、時代の最先端を突き抜けた人だったと言えるのかもしれません。
近代文学館の後は、港の見える丘公園内にある沈床花壇に行きました。ここは香りの強いバラを集めた花壇なので、バラの香りの中にいるような気分になる場所です。
散々、目でも鼻でもバラを楽しみ尽くしたので、帰ることにしました。公園の前から、あかいくつ号に乗りました。これは観光用のコミュニティバスで、横浜市内の観光名所をゆっくりと巡ってくれるバスなのでした。で、これに乗って、あっちこっちの横浜名所をバス越しに楽しんで、最終的に桜木町駅に着きました。
もう夕方なので、バーガーキングでワッパーを食べてから、電車に乗って帰宅しました。当初予定では、まだ日が高いうちに帰宅するつもりでしたが、実際、家に着いた時には、すっかり日は暮れてしまいました。ヘトヘトに疲れましたが、実に楽しくて充実した一日を過ごせました。
実に感謝です。
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