声楽を学んで、ある程度になると、オペラアリアを歌います。
世の中には色々なアリアがあるわけで、中には超絶技巧が必要な難曲もあれば、初学者が取り組みやすい、比較的簡単なアリアもあるわけです。学習の順番としては当然、その手の簡単なアリアから学び始め、そこから段階を踏んで難しい曲に挑戦していくのが、普通です。
で、比較的簡単なアリアと言うのは、多くは脇役の歌手のために作曲されたアリアです。オペラには、若い駆け出しの歌手を念頭においた脇役が用意されていて、それらの役のアリアは比較的簡単なのです。
バリトンやメゾは、そもそも脇役が多い声種です。なので、初学者用のアリアがそれなりにあります。ソプラノは主役が多い声種ですが、実は脇役も多い声種です。ですから、初学者は念入りに脇役のアリアを選んで学んでいけばいいわけです。
そこで難しいのはテノールです。実はテノールって、脇役があまりありません。テノール役は、そのほとんどが主役です。だいたい、一つのオペラにテノールは、主役一人しか参加しない…なんて作品ばかりです。また、たまにテノールが二人いると、もうひとりは、脇役というよりもチョイ役だったりして、アリアすらなかったりするのです。つまり、テノールのアリアは、そのほとんどが主役用のアリアであり、どれもこれも難しいアリアばかり…だったりします。
ですから、とても軽い声質で最初から高音がラクラク出てしまう人であったり、そもそも天才で、何の苦労もなく歌える人たちは別として、多くの凡才テノールたちは、初学者レベルでは、歌えるアリアがなくて、本当に困ります。同程度のキャリアの他の声種の学習者たちがアリアをバンバン歌い始めても、テノールさんたちは、ずっとずっと歌曲ばかり歌っていたりするわけです。
歌曲は歌曲で難しいのですが、オペラアリアほど高い音はありませんし、自分の現在の音域に合わせて移調して歌えるので、初学者なテノールさんでも、歌曲なら歌えるってわけです。
というわけで、テノールは難しい…と言うよりも、テノールのアリアは難しいために、テノールはいつまでも進歩していないように見られがちだって話でした。
テノールはカメのようにゆっくりした歩みで成長していくのです。
蛇足? 私個人の話をすると、現在の私のレベルでは、テノールの簡単なアリアが歌えるか歌えないかのギリギリの立ち位置です。なので、よくよく選曲をして、難しい曲々の中からでも、比較的歌いやすい曲を選んでチャレンジしている最中です。当然、キング先生に習っていた頃は、アリアなんて歌えるほどの技量もなかったけれど、それでも先生に曲を与えられて歌っていました。当然、どの曲も、当時の私には難しすぎて、ちゃんと歌えるはずはなく、失敗ばかり積み重ねてきました。自分的には凹み、先生からは指導をしているのに何故歌えないと言われ続けていました。今思えば、無理ゲーを何度も何度も強いられていたのだなあと思います。
よく、歌を嫌いになって、歌うのを止めなかったものだと、当時の自分に感心してしまいます。当時の私、偉いなあ…。
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