今回お薦めするのは、オッフェンバック作曲の『ホフマン物語』なんですが、これも何とも奇妙で変わったオペラなんです。
まず、未完成なんです(笑)。でも有名な作曲家の遺作という事なので、未完成部分を(カルメンを補筆完成させたギローという作曲家が)何とか補筆して上演可能な形に仕上げて上演してみたわけです。で、それはそれで大成功だったらしいのです。
で、その成功を見た他の劇場でも(当時はオペラ作曲家の地位よりも、劇場支配人や歌手たちの方が地位が上だったし、そもそも作曲家自身がすでにこの世にいないので)自分たちの劇場の都合に合わせて、自分たちの劇場に合うように、色々と手を加えた様々なバージョンの『ホフマン物語』が生まれるわけです。
さらに、本来、未完成だった楽譜に書き加えられるはずだった作者の草稿(と思われる楽譜の断片)が、あちらこちらでポツリポツリと見つかり、見つかった曲がまた素晴らしかったものだから、それらもドンドン付け加えられて、その度に新しい版の『ホフマン物語』が生まれたのです。
あんまりたくさんの異なる楽譜が生まれたので、今度は音楽学者たちが色々と検討し、真筆補筆偽筆を選り分け、なるべく作者の意図通りの作品に再構成しようと努力した結果、なぜか複数の再構成作品が出来上がってしまい、決定版が複数、世に存在するようにななり、それらはそれらで、それぞれ、未だに上演されつづけている…とまあ、百花繚乱的な状態のオペラなんです。
だから、3幕版もあれば、4幕版もあるし、5幕版もあるし、ヒロインの数も2人だったり3人だったり、その登場順番も版によって違っていたり…とまあ、あるはあるは別バージョンって状態です。だから、解説するにしても、どのバージョンで解説したら良いのか…実に迷う次第です。この私自身、何度か『ホフマン物語』を見てますが、その度に違う『ホフマン物語』を見ているぐらいですから(笑)。
ストーリーはこんな感じ。
ある歌劇場近くのバーに、売れない詩人のホフマンが、親友のニクラウスと共にいた。ホフマンは歌手のステラに惚れていて、ラブレターを書いて渡したのだが、返事がなくて、少し凹んでいた。実は彼の書いたラブレターは、彼の恋敵であるリンドロフの手に渡り、にぎりつぶされていたのだ。そうとは知らないホフマン。やがて、オペラの幕間となり、大勢の客がバーにやってきた。浮かれるホフマン。ある客がホフマンに恋をしているのかと尋ねると、それを否定するが、リンドロフにからかわれる。ムキになったホフマンは、如何に自分が持てない人生を歩んできたのかと話し始めるのであった。
最初の恋話は、オランピアの話だった。若き日のホフマンは、科学者スパランツァーニに弟子入りをし、科学者になろうとしていた。ある日、スパランツァーニは、娘のオランピアを社交界におひろめするのだと言って準備を始める。オランピアを見て、一目惚れするホフマン。ニクラウスは「あんな人形のどこがいい」と言って取り合わない。夜会が始まって、招待客にお披露目されるオランピア。客人たちは、オランピアの素晴らしい出来に賞賛した。そう、オランピアは自動人形(つまり、アンドロイド)だったのだ。ゼンマイで動くオランピアは、しばしばゼンマイが切れてしまい、動きが止まるのだが、その度ごとに発明者のスパランツァーニが慌ててゼンマイを巻く。オランピアの美しさに心を奪われているホフマンは、その事に全く気が付かない。
夜会は食事会となり、一同は場所を移動する。当然オランピアは食事をしないので居残り。ホフマンもオランピアと共に会場に残る。あれこれとオランピアを口説くホフマン。やがて暴走して部屋から出て行ってしまうオランピア。クチ、ポカーンのホフマン。ニクラウスは、ホフマンにオランピアがゼンマイ人形である事を告げるが、ホフマンは取り合わない。
そこに、オランピアの目玉の部品を作った下請け業者であるコッペリウスが現れ、スパランツァーニに代金の支払いを要求する。スパランツァーニは手形で支払うが、その手形は不渡りであった。怒り狂うコッペリウス。代金が支払えないのなら…と言って、オランピアを破壊してしまうコッペリウス。バラバラにされるオランピア。バラバラにされたオランピアの残骸を見て、ようやくオリンピアが人形であったことに気づき、失神するホフマン。招待客は、人形に恋をしたホフマンを見て、大笑いをする。
次の恋話は、高級娼婦のジュリエッタの話である。ベネチアの歓楽街で大勢の貴族たちが女遊びをしている中に、ホフマンとニクラウスもいた。ホフマンはジュリエッタの事が気になっていたが、ニクラウスに「娼婦に惚れるなんて止めておけ」と忠告される。
魔法使いのタベルトゥットは、ホフマンの影を欲していた。そこで、ホフマンがジュリエッタに惚れている弱みにつけこみ、彼女に大粒のダイヤモンドを渡し「ホフマンを誘惑して見事に影を奪ったならダイヤをあげよう」と約束する。欲に目がくらんだジュリエッタは、言葉巧みにホフマンを誘惑し、無事に影を奪う。喜んだジュリエッタは、従者の差し出すワインを飲むが、それは毒入りであった。ホフマンの腕の中で死ぬジュリエッタ。それを見て、大笑いをするタベルトゥット。またも、失恋をしたホフマンであった。
最後の恋話は、病弱な歌手であるアントニアの話。アントニアは病弱であり、歌い続けいると死んでしまうと医者から告げられていた。ある日、ホフマンとニクラウスがアントニアの家にやってきて、なぜ突然引っ越してしまったのかと尋ねる。アントニアは何を尋ねられているのか分からない。ホフマンとアントニアは明日、結婚する事を約束をする。
そこにミラクル医師がやってきたので、ホフマンとニクラウスは身を隠す。ミラクル医師は、アントニアの母が死んだ時の医者だったので、アントニアの父は彼を信用していなかった。ミラクル医師はアントニアに、その若さと美貌と才能がありながら、歌わないでいられるものかと言い放つ。怒る父親。
医者と父親が出ていったのを確認して現れるホフマン。医師と父親のやりとりを聞いていたホフマンは、アントニアに歌を止めるように説得する。納得するアントニア。
一人になったアントニアの元にミラクル医師が現れ、彼女に歌をそそのかす。抵抗するアントニア。その時、アントニアの母の亡霊が現れて、アントニアに歌うように強要する。狂ったように歌い始めるアントニア。やがて歌い疲れたアントニアは死んでしまう。驚くホフマン。ホフマンはまたも失恋したのだった。
以上の話をし終えた頃、歌劇場の公演も終わり、プリマドンナであるステラがバーにやってくる。酔いつぶれるホフマン。彼女の到着が遅かった事を愚痴るニクラウス。満面の笑みでステラを迎え、腕をとって、二人きりでバーを退出する、リンドルフとステラ。残されたホフマンは、そのまま死んでしまう。
死んでしまったホフマンの魂は、音楽の神であるミューズがやさしく天国に導くのであった。
…というストーリーだったりします。もちろん、版によっては、これとは多少違うストーリーだったりする事もあるから、気をつけて下さい(ほんと、厄介なオペラだね)。
とまあ、ストーリーも厄介だけれど、実は上演では、もっと厄介な事が起こります。と言うのも、敵役である、リンドロフとコッペリウスとタベルトゥットとミラクルは、通常、同じ歌手によって演じられます(つまり、人物は違っていても、ホフマンにとっては同じ人間である…という暗示ね)。また、ホフマンが恋する相手であるステラとオランピアジュリエッタとアントニアも同じ歌手によって演じられます。さらに、ニクラウスは女性歌手が男装して演じ、音楽の神ミューズも演じます。つまり、ニクラウスは実在の人物ではなく、ホフマンの守護神であるという設定なんだな。
ああ、色々と面倒くさいオペラでしょ?
こんなに欠陥だらけで矛盾だらけのオペラなのに、なぜ人気があるのかと言うと…曲が素晴らしいからです。
『ホフマン物語』と言うと、まず有名なのがニクラウスとジュリエッタで歌う『舟唄』です。たまに、この曲をフルート曲だと勘違いしている人がいますが、この曲は、元々、オペラの二重唱なんですよ。
オランピアのアリアも忘れてはいけないでしょう。
ホフマンと男声合唱で歌う、この曲も外してはいけないでしょうね。
とにかく、色々と問題の多いオペラである『ホフマン物語』ですが、その音楽の圧倒的な魅力によって生き残っているという、稀有なオペラであります。
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コメント
オランピアのアリアはいいですよね!超高いです【難】それこそ、デセイさんのそれは見事ですよね~!
アデーレさん
オリンピアのアリアは、難曲ですね。歌わない私でも「これは難しいよなあ…」と一発で分かるほどの難曲だと思います。
実際、これくらいの難曲になると、プロでも「遊びならともかく、人前では出せません」と言って、レパートリーに加えない人もいるくらいですからね。言い方を変えるなら“音楽の神様に愛された人にしか歌えない曲”なのかもしれませんね。
それゆえに、見事に歌いきっているのを聞くと、誰が歌っていても、感銘深いものがありますね。
目の痛み、大丈夫ですか?目の神経痛?のような、ビリっとした痛みなら、私もときどきありますが、ひどい痛みが幾度も、ですか?
体中どこもすべて大事ですが、特に首から上はいろいろ複雑で生命に直結のときもありますから、・・・・、あまり痛みが続くようなら、おおごとになるといけないので、早めにお医者さんに行って診ていただいたほうがいいと思いますよ。体調管理は、大切ですよ。お大事に。
だりあさん
ご心配ありがとうございます。
目は大丈夫ですよ…と言うか、普段は痛くもかゆくもないんです。ただ、時々、ほんの時々だけ、刺されたような痛みが襲ってくるだけです。痛くなるパターンとか原因とか、なんかそういうモノが見当付かないし、再現性もないので、医者に行くにしても、どうやって説明しようかと悩んでいるわけです。痛くもない時に医者に行っても「異常なし」で済まされちゃいますからね。