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ピアノ伴奏のオペラを見てきました

 以前、『ひと言』で「1月は2回、ピアノ伴奏のオペラを見てきます」と書きましたが、今回は、その2回目の方の鑑賞記を書いてみます。ちなみに、1回目の方ってのは、某国内団体による「フィガロの結婚」でした。これはこれで面白かったですが…とりたてて記事にするほどのモンではありませんでした。ま、私的には、妻がコーラスガールの一員として出演していたので見ました…程度の事です。

 さて、今回、何を見てきたのかと言うと、スロバキア国立オペラ団による、ヨハン・シュトラウス2世作曲の「こうもり」です。

 このオペラ(正確にはオペレッタだろうけれど…)は、日本のオペラ界に色々と思うところのある、さる方が中心となって主催しているオペラ公演でした。そういう意味で、その主催者の意見に賛同できるかどうかが、まずは客として問われるオペラ公演だったりします。その意見と言うのは…私なりにひと言でまとめると「オペラは庶民のもの。庶民の手にオペラを!」って事じゃないかな?って思います。

 色々とポリシーがあるようですが、「チケットの値段はなるべく安価で(3500円で全席自由でしたので、私はカブリツキで見ました:笑)」、「音楽ホールではなく、公民館や地域のホールを使う(でも、私は音楽用の小ホールの公演で見ました)」、「東京ばかりでなく、地方を中心に公演する(はい、私は横浜の中心地とは言えない場所で見ました)」、「ホンモノのオペラ歌手の極上の歌唱を提供する(これは実際そうでした)」と、主催者の方が言ってました。

 ちなみに、寄付をしてくれる団体・企業などのスポンサーは無いようで、経費のすべてをチケット代だけで賄っているようです。小さな会場ばかりを使い、お客一人3500円のチケットで、地球の裏側からプロを呼んで来るんです。そりゃあ、色々と経費節約されています。

 例えば、オーケストラは帯同していませんし、使用しません。伴奏はピアノだけです。合唱団もバレエ団も来ていません。大道具はありません。小道具も、ほとんどありません。舞台には、机とイスとオレンジジュース(シャンパンの代わり?)が置いてあっただけです。

 オペラそのものも、アリアと二重唱は歌いますが、その他の部分はナレーター(スロバキアの方が上手な日本語でやってました)による語りでサクサク進み、普通に上演すると160分はかかるオペラを約60分の短縮版で演奏しちゃいました。おまけに歌手は全部で6人しかいませんので「こうもり」なのに、オルロフスキー公爵(通常はメゾソプラノのズボン役)が省略された上に、黙役の芝居なんて、すべてカット。

 などと、色々とワケあり公演でしたから、まあ、はっきり言っちゃえば、個性の強い、賛否両論なオペラ公演だったわけです。

 私個人の意見としては、主催者の心意気には賛同します。ああ、確かにそうだなあ…って思うところは多々あります。呼んできたスロバキア国立オペラの歌手の皆さんは、なかなかの凄腕だし芸達者だし、すごいなあと思いました。私はカブリツキの席で見ましたので、私の目の前、ほんの4~5メートル先で、彼らが歌ってくれたので、生の音波をビンビンに感じて、アヘアヘ~状態でのオペラ鑑賞でしたので、かなり満足しました。ピアノ伴奏? 声が聞ければ、伴奏なんてなんでもいいじゃん! おまけに「こうもり」の上演は実は第二部の出し物であって、第一部はガラコンサートでして、モーツァルトとヴェルディのオペラから、アリアと二重唱を13曲も次から次へと矢継ぎ早に歌ってくれたんですよ。特に、私の大好きな『魔笛』のタミーノのアリアとか、『ドン・カルロ』のテノールとバリトンの二重唱とかをやってくれたので、もうお腹一杯って感じでした。

 でもね…、私は楽しめたけれど、会場にいるお客の大半は、チケットの安さに引き寄せられたと思しき、主催者の方の意図どおりの、庶民の方々でして、彼らの目には、この公演はどう映ったのかなって…ちょっと思いました。

 極上のガラコンサートは…寝ている人続出でした。いくら名曲のオンパレードとは言え、オペラに慣れていない人には、チンプンカンプンなプログラムだったと思います。「こうもり」は…私ですらストーリーを追うのが難しいくらいのダイジェストでした。あれは、オペラのダイジェストと言うよりも、「こうもり」の曲を順番に並べて歌ってみましたって感じのもので、ストーリーを熟知しているなら、それなりに楽しめますが、そうでないと、単に声の大きな外人さんが、入れ代わり立ち代わり、交代で出てきては歌っているだけ…って感じになってしまうと思います。

 オペラを庶民に…という意見には賛成します。でも、そのためにチケット代を安価にした結果、大切なモノまで失ってしまったのではないかと思いました。

 オペラって“総合芸術”なんだと、改めて思いました。『歌さえあればいい』と思うのは、私のような“声フェチ”には通用しますが、普通のオペラファンや音楽ファン、ましてや、オペラに親しみの無い庶民と呼ばれる普通の方々には、通用しないかもしれません。やはり、オペラである以上、オーケストラも合唱団もバレエ団も必要だし、豪華な大道具も、きらびやかな小道具も、ハデハデな衣裳と立派な歌劇場(あるいは音楽ホール)も必要だと思います。そして外国語上演なんですから、やはり字幕も必要でしょうね。でも、そこまで揃えると、チケット代なんて、軽く1万円を越してしまうでしょうし、そんな金額のチケットなんて、いわゆる庶民の方々が購入するわけないです。

 オペラを庶民に……色々と難しいですね。オペラって、元々が王侯貴族や上流階級の人間の楽しみだったわけですから、いくら金満日本とは言え、庶民レベルの人間が、上流階級の人間のために存在しているオペラを楽しむには、色々と越さなきゃいけないハードルがあるわけで……そこをどうクリアしていくかが、今後の課題になるのかもしれません。

 でも、私のような“声フェチ”にとっては、近所の会場で、安価で、ホンモノの歌手の歌が聞けるのは何よりだし、ピアノ伴奏なんて、むしろ声を聞きたい私にとっては、オーケストラ伴奏よりもいいかもしれない。身近でプロの歌唱姿を見れたので、色々と学ぶ事もできたし、私個人には、とてもよい公演でした。

 そうそう、オペラなのに、アンコールがあったのは、驚き。アンコールは二曲あって、最初は、テノール二人で「カタリカタリ」歌ってました。格好良かったよ。二曲目はバリトンさんが日本語で「いとしのエリー」を歌ってました。これが、すっご~~くよかったよ。「いとしのエリー」が実に美しい日本歌曲のように聞こえました。やっぱり、名曲は、歌の上手い人に歌ってもらうと、光り輝くものだね。

 来年は、椿姫かトスカをやるって言ってました。私は来年も見に来たいなあ。色々と考えさせられたオペラ公演でしたが、私は結構、気に入りました。

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コメント

  1. ことなりままっち より:

    ああ、オペラってやっぱり「総合芸術」ですねぇ。
    せっかくプロを呼んできても、あまり主催者の方の熱意が伝わってない、なんともピントはずれな演目になってしまったのが残念です。

    「こうもり」私も好きなんですけどねぇ…

    「のだめカンタービレ」の番外編でもオペラのお話でしたが、声楽専門じゃない私でも、「ああ、あるよなぁこういう問題」と頭を抱えながら読みました。(基本”のだめ”ですので、本編のあのノリではあるのですが)どんなものでも、1つの公演をやりとげる、っていうのはとても大変です。労力は無論のこと、会場から照明から舞台装置から、とにかく「お金」がかかる。これは市民オケでご自分たちで演奏会をして、しかも運営に関わっている方でないと分からない。オペラ1万って安いです。でも庶民には1万円ってほんとに…。

    うちの母校の後輩たちも卒業公演でオペラやりますが、学生でもかなり立派なものをやるし、しかも安いのでそういうものから入るのも初心者さんには手かもしれません。

  2. すとん より:

    ことなりままっちさん

    >オペラ1万って安いです。でも庶民には1万円ってほんとに…。

     ほんと、庶民には1万円のチケットって高いんですよね。それは私も同感です。そして、オペラって1万円程度のチケットじゃロクに出来ないんですよね。たまにみかける一万円チケットのオペラって、その大半が出演者のギャラ無しとか、ギャラはチケットで支払われる(つまり『自分でチケットを売りさばいて、ギャラにしてね』)パターンだったりします。オペラなんて、その準備に数カ月もかかるのに、ちょっとツライ話ですね。

     音大の卒業オペラ公演って、確かにいいですね。私も近所に音大があったら、絶対に見に行くと思います。残念ながら、近所には音大がないので、その手のモノには縁がないのですが、たまになぜか卒業公演のDVDを入手できたりするので、それで楽しんでます。

     安いオペラ公演と言えば、東欧系のオペラハウスの引っ越し公演をたまに見に行きます。東欧系のオペラハウスの引っ越し公演って、国内オペラ団体の公演よりも安価だったりするんですよ。その癖、大道具も小道具も衣装もしっかりしているし、なにより、歌手もオケも上手だったりします。無名なオペラハウスが多いですが、コストパフォーマンスがいいんです。

     実は先月、地元の市民会館に、東欧系のオペラハウスが引っ越し公演でやってきてたんですよ。演目はプッチーニの「トゥーランドット」でした。行きたかったなあ…。ちょうどその日は、仕事と丸かぶりだったのであきらめたのですが、ああ、行きたかったなあ…。

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