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新宿で「アンドレア・シェニエ」を見てきた

 NPO法人の新宿オペラによる、ジョルダーノ作曲の「アンドレア・シェニエ」を見てきました。(最近は、映画とか配信とかばかりで、オペラを見てましたので)久し振りの生オペラです。生はいいですね。歌手の生な声も、オーケストラの生な音も、録音された音とは段違いで、やっぱり素晴らしいです。

 いつものようにスタッフ&キャストを書きます。

 指揮:高野秀峰
 演出:園江治
 演奏:新宿オペラ管弦楽団
 合唱:新宿オペラ合唱団

 アンドレア・シェニエ:上本訓久(テノール)
 マッダレーナ:西本真子(ソプラノ)
 ジェラール:村田孝高(バリトン)
 ベルシ:飯島由利江(メゾソプラノ)

 とにかく、ジェラールを歌ったバリトンの村田孝高さんがすごかったです。私は滅多なことではバリトンは誉めない人(ゴメン)なのですが、今回に関しては、村田さんを手放しで褒め称えます。いやあ、声も歌唱も演技も、実に素晴らしがったです。こんなちゃんとしたオペラ歌手が、日本にもいたんだなあ…と思ってしまったくらいです。ちなみに、村田さんは(後から知ったのですが)漫画家でソプラノ歌手でもある池田理代子さんのご主人様でもあります。色々と有名な方だったんだあ…。この人のオペラを見れただけでも、今回は大収穫でした。

 さて、全体的な感想ですが、実は第一幕あたりでは、なんか眠たい上演だな…って思っていました。オーケストラは全力でバンバン鳴らしてくるのに対して、歌手の声はオケを越えられずに失速して落ちているし、良いのは合唱団とジェラールだけ…。いやほんと、彼だけ別格の歌唱をしていました。それだけに、他の歌手の皆さんとの差が…。いやあ、ほんと、見ているのがツラかったです。

 それがオペラが進むにつれ、次第にオケも肩から力が抜けてきて、だんだんいい感じになってきた(その分、ミスも目立つようになり、時折演奏が縒れていました:笑)。まあ、アマオケなんて、そんなモンでしょう。それでも、ウチの地元のアマオケよりも、ずっと演奏は達者で、オペラのオーケストラとしては、十分演奏水準は満たしていました。やっぱ、東京のアマオケはすごいね。

 歌手の皆さんも、次第にエンジンがかかってきたのか、オペラが進むにつれて、声が出始めてきて、3幕あたりでは、すっかり目が覚めて、オペラに集中していた私です。特に主役のお二人のエンジンの掛かり具合には、ドキドキが止まらないほど強烈でした。

 でもね、正直に言っちゃうと、最後までエンジンの掛からなかった歌手の方もチラホラいて、そこが日本オペラの限界なんだろうなあ…って思ってしまいました。

 「独唱者は、きちんとオーディションをして決めているんだろうに、それでもこの程度かい」と言わざるを得ません。

 もっとも、会場の新宿区民センターの大ホールって、オペラ向きのホールではないのは分かります。ここは歌手の声が散りがちです。ホールが歌手の味方をしてくれないのは、聞いていて分かりました。だから、歌手によっては、声がオケピを越えられていないのです。

 でもね、だからこそ、こういう会場でも歌える、力のある歌手だけでキャスティングすればいいだけの話なのです。「アンドレア・シェニエ」はオケのサイズも大きいのだから、歌手もよりパワフルな声で揃えなければいけないのに…でも、それができない。なんて残念な!

 まあ「アンドレア・シェニエ」は多くの独唱者が必要なオペラではあるけれど、その必要数を満たせなかったわけです。日本のオペラファンとしては、実に残念な現実を見せつけられた気がします。ああ、なんか悔しいです。

 だから、これが、日本オペラの限界、なんでしょうね。やはり、オペラ後進国と言わざるを得ません。

 しかし、そんな日本のオペラ歌手も、今回、実にすごいなあと思った事があります。

 と言うのも、今回の上演って、主役たちは1回しか本番で歌わないのです。たった1回ですよ。1回やって、それでこの公演はお終いです。まあ、上演そのものは2回やりますが、メンバーが違うので、個々の歌手にとっての本番は、たった1回だけなのです。

 それなのに、舞台にはプロンプターがいないのです。海外の歌劇場には、普通にいるプロンプターが、日本の舞台にはいないんです。だいたい、舞台に、そんな設備もないんです。そんな無い無いの環境で歌っている日本のオペラ歌手って、実はすごいんじゃないかって思いました。ものすごく大変な事をしているんじゃないかって、今回改めて思ったわけです。

 いくら声が良くても、いくらパワフルな声があっても、プロンプター頼りの歌手は、日本ではお呼びじゃないんです。これって、かなり厳しいですね。本場の向こうの歌劇場では、プロンプター頼りの歌手なんて、掃いて捨てるほどいますし、名歌手と言われている人だって、プロンプター頼りなのが現実です。

 ちなみに、プロンプターというのは、舞台にいる歌手に歌詞や歌い出しのタイミングを教える裏方さんです。カンペ係…と言うとイメージしやすいでしょうか? 海外では、いるのが当たり前なのですが、日本では一部の劇場にしか、プロンプターのための設備はありません。一般的な市民会館などには、そんな設備はないので、当然、そういう係のスタッフはいません。プロンプター無しのオペラって、命綱無しで崖を登るとか、救命胴衣無しで荒海に漕ぎ出すようなモンですよ。おお、怖い怖い。

 だから日本のオペラ歌手の皆さんは、命綱無しで崖に登っていくような、命知らずな方たちばかりなんです。これって、個々の皆さんがスゴイと同時に、劣悪な現場に置かれても健気に頑張っている、切ない状況でもあるわけです。

 そんな、本当は全然スゴくないのに、別の意味でとってもスゴイ人たちが、日本ではオペラ歌手をやっているのです。これじゃあ、日本でオペラなんて、まともに出来るはずもないなあ…と思ったわけです。だって、労働環境が過酷でブラックだもの。やりがい搾取も甚だしいとも思いました。

 ギャラだって、欧米並み…なんてわけないだろうし…。きっと雀の涙だよね。手弁当でなければいいなあ…と祈るばかりです。

 そんなわけだから、オペラ公演に際して、必要な歌手が揃えられなくても、当たり前と言っちゃあ当たり前なのかもしれません。

 閑話休題。とにかく、今回はバリトンの村田さんのオペラをたっぷり堪能できた。それだけでも、私はウハウハな気分になれました。

 そしてオペラ歌手の皆さんや、オペラ関係者の方々が報われる世界が、日本にもやって来ることを願っています。

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