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オペラヴィジョンで「貞節の勝利」を見た

 オペラヴィジョン…良いサイトですね。今回は、スカルラッティ作曲の「貞節の勝利」という、ほとんど無名なオペラを見てみました。この動画には、きちんとした日本語字幕が付いているし、オペラそのものも興味深いものなので、なかなかにお薦めな動画なのです。

 まず、作曲家のスカルラッティは、18世紀バロック期を代表するイタリアのナポリ楽派の作曲家です。オペラやカンタータを数多く作曲するとともに、交響曲の原型であるイタリア風序曲を確立した作曲家でもあります。バッハやヘンデルよりも年上で、なんとヴィヴァルディよりも年上なのです。なにしろ17世紀中頃の生まれだからね。年齢的には近松門左衛門なんかと同じ頃の人です。彼の全盛期は、日本で言えば、元禄時代だよ。ああ、古い古い。

 「貞節の勝利」は、彼が作曲した数多くのオペラ・ブッファを代表する作品です。ただし、初演時は王侯貴族対象にナポリで上演され、それでお終い。その後は200年以上も歴史に埋もれてしまい、20世紀の半ばまで忘れられていました。そのため、イタリア古典歌曲には、彼が作曲した曲が数多く収録されているにも関わらず「貞節の勝利」の曲は、そこに収録されていないという、少々残念な事になっています。

 ちなみに「貞節の勝利」のストーリーは…各自でググってください。簡単に言うと、4組のカップルの痴話喧嘩の話です。しょーもない話ですが、オペラのストーリーなんて、大概そんなもんです(笑)。

 例によって、スタッフとキャストを書いておきます。

 指揮:エンリコ・オノフリ
 演出:ステファノ・ヴィツィオリ
 製作:フェニーチェ劇場(2025年3月15日)

 リッカルド・アルベノリ:ジュリア・ボルカト(ソプラノ:ズボン役)
 レオノーラ・ドリーニ:ローザ・ボーヴェ(アルト)
 エルミニオ・ドリーニ:ラファエレ・ペ(カウンターテナー)
 ドラリス・ロセッティ:フランチェスカ・ロンバルディ・マッツリ(ソプラノ)
 フラミニオ・カストラヴァッカ:デイブ・モナコ(テノール)
 コルネリア・ブファッチ:ルカ・チェルヴォーニ(テノール:スカート役)
 ロージーナ・カルッチア:ジュゼッピーナ・ブリデッリ(アルト)
 カピターノ・ロディマルテ・ボンバルダ:トマソ・バレア(バス)

 フェニーチェ劇場とは、イタリアのヴェネツィアにある、歴史的な老舗の歌劇場です。フェニーチェとは不死鳥の事で、何度も大火災にあって消失しているけれど、その度に従前どおりの姿で再建されている、まさに不死鳥のような歌劇場です。オペラ上演史的には、ヴェルディとの関係が深い歌劇場で「椿姫」や「リゴレット」が初演されています。この他にも、多くの傑作オペラがここで初演しているという、老舗中の老舗歌劇場なわけです。

 18世紀初頭のオペラですから、我々が知っているオペラとはだいぶ違います。

 まず、カストラートがいます。それと、スボン役とスカート役もいます。

 主役のリッカルドはズボン役です。この役は作曲家がズボン役として書いています。つまり、最初からソプラノ歌手が男装して演じる前提で書かれているわけです。決してカストラートの役を女性が演じたのではなく、最初から女性が男装して演じる前提で書かれているのです。そもそも、カストラートって、声域的にはアルト~メゾで、ソプラノ音域が歌えるカストラートって、当時でも数少なかったので、主役をソプラノ声域で歌わせたかったら、最初から女性歌手に役を振るしかないわけです。

 ズボン役ってのは、女性歌手が男装して若い男性の役を演じる事を言います。モーツァルトの「フィガロの結婚」のケルビーノ役が有名ですが、大抵はメゾソプラノの歌手が演じます。でも、このリッカルドはソプラノ歌手が演じているわけで、そういう点は今と違っていて、なかなか興味深いです。

 コルネリアという役は、オバサン役ですが、この役はテノールが女装をして演じます。そういうのって、バロックオペラでたまにあったそうですが、すでに我々が知っているようなオペラでは、その手の役はもはやありません。そもそも、テノール歌手って希少なんですよ。それをチョイ役に使うなんて勿体無いことはできませんって。

 エルミニオというライバル役はカウンターテナーが演じていますが、この役は本来はカストラートが演じていました。これは、現在はカストラートがいないので、違う声種ですが、カウンターテナーが演じるのは仕方ありません。

 そんなわけで、男装歌手がいて、女装歌手がいて、裏声で歌う男性歌手もいて、実になかなかに奇妙なオペラだったりします。もう、それだけでも十分に面白いオペラです。

 おまけに歌唱的には、メリスマやらアジりタやらが多くて、その手の音楽が好きな人にはたまらないオペラとなっています。全編で約3時間ですから、ほんともう、たっぷりと声の饗宴を楽しめます。

 正直、一度見ると、満腹になってしまうので、当分見返さなくていいかという気分にはなりますが、特に飽きることもなく、最後まで楽しみながら見ることができました。ただ、人間関係はかなり複雑なので、気を抜くと、よく分からなくなってしまうという欠点はあるかな? 私は事前に人間関係をしっかり把握してから見ましたので、平気でしたよ。
 とにかく、珍しいオペラが、きちんと上演されているだけでも、お薦めです。見る価値あります。ほんと、オペラって、ヨーロッパ文化なんだなって思わされる上演です。あと、大道具がほとんど書割なのも、なんか歌舞伎と共通して(時代的にほぼ同じ)いて、なんか納得です。

 このオペラが普通にDVD等で販売されていたら、きっと買わないし、見ないだろうし、メトのライブビューイング等で上演するとも思われないので、オペラヴィジョンで公開してくれて、本当に感謝しています。そうでもなきゃ、こんな無名なオペラ、見ないって(笑)。

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